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語れぬ指:罪課さねの烙印

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語れぬ指:罪課さねの烙印
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…※…※…※…




 やはり“城”が気になる。
 魔界と隣接しているという生活環境に不安はないのだろうか。
 話をしていく中、冗談交じりに歓迎してくれる人々に猫宮 織羽は好奇心を抑えられなかった。
 魔障壁の側で暮らす心境は如何ほどなのか。そして、どのような暮らしぶりと成るのか。
 城に住んでいるというのだから「もしかして、お姫様!?」と一足飛びに考えてしまうが「ん? でも一人だけなら違うのかな?」と冷静に戻る。
 なにはともあれ会いに行ってみなければわからないものだらけだ。
 輝神教会の聖歌隊やオーケストラが纏う教会楽団の衣装に身を包む黒髪の美少女の村から城へと続く石畳の歩む姿のなんと似合うこと。
 エヴィアンの翼を淑やかと折りたたみ、ゆったりとした歩速で城を目指す姿に魅せられ、子供が何人か適度な距離を保ちつつ着いていくのだが、彼女は気づいているのだろうか。微笑ましいと思ってくれているのだろうか。
「念の為に瘴気から身を守れるようにしたけど……村の人は影響を受けたりしないのかな?」
 見た限り受けているようには気配さえ感じさせてはくれないけれど。
 城が徐々に大きく、壁の随所を飾るレリーフの細部までわかるまでに近づく頃には、城壁に沿って多くの篝火が並べられていることに織羽は微かに翼を震わせる。
 あの篝火は城をぐるりと囲んでいるのだろうか。それならば、村が無防備なだけに落差で燃え盛る炎が物々しく目に映るようだ。
 石畳の終点は城の城門。鎧戸は降りておらず、来訪者を歓迎するようでもあるが、今はただ沈黙している。
「こんにちはー! 旅のミンストレルでーす!
 一曲いかがですか? お代にあなたのお話聞かせてほしいな!」
 守衛の姿はなく、人の気配はしない。
 そんなことは構いもせず、織羽は礼儀正しく淑(しゅく)とした所作で一礼し、希(ねが)う。
 明るく朗らかな声が織羽の自己紹介を肯定しよう。歌に愛された唄い手の声は清涼で儚くありながらも凛として響く。歌ひとつ謳わせれば投げてよこされる硬貨の一枚よりも遥かに素晴らしいものと証左されようが、勿論、織羽には上級冒険者勲章という確固たる身分証明も行えた。手際の良い詐欺を働く理由は無い。
 織羽は織羽だ。偽る必要はどこにあるだろう?
 一歩分、後ろに下がり、
 指先を揃えた左手は鎖骨の上へ、
 ふんわりと、白い翼を広げて、
 右手は高々と挙げられ、
 年代物のハンドベルを打ち鳴らす。
 吟遊詩人が導入の際に奏でるものに由来する、前奏。
 転じて、芸を披露するために注目を集めるための行動を指すようになったそれは、ミンストレルにとっての戦闘開始の合図でもある。
 村の人達の話より城には娘がひとり住んでおり、城勤めの人間が数人ほど通いで働いているだけと聞いていた。城の大きさからして、たまたま城門近くに人が居ない可能性が高いような気がするのだ。城門に誰かを常駐させる重要度はこの地ではどちらかと言えば低いようにも考えられ、自分の歌声が来訪を告げる試しになればと織羽はプレリュードより、ビバーチェへと表現技法を変えた。
 この村での出会いに感謝を込めて、澄んだソプラノで歌い上げれば、織羽は再び一礼する。
 ぺこりとお辞儀をすると、彼女の背後から、わっと喝采が上がる。ほんの数人程度の疎らな拍手ではあるが、
「すごい」という褒めの言葉の連呼の合間に、
「おねえちゃん、おうたじょうずなの」や、
「きれいなおこえなの」や、
「はねがあるの」など、
 働き手にも届かぬ歳の子供達が各々精一杯の感動を言葉に代えて織羽を讃えた。
「聞いてくれてありがとう!わたし、オルハ。よろしくね」
 思惑とは結果は違ったが小さな観衆に織羽は、にっこり人懐っこい笑顔を振りまき、
「ね、ね。この村のこと、いろいろ聞いてもいいかな?
 村は何人くらい暮らしてるの? 魔障壁の近くで、困ってることはない?
 このお城に住んでいる娘さんは本当に一人で暮らしてるの?」
 などなど、子供達に負けず劣らずの質問を重ねながら、織羽は夜になれば宿に戻るかそれか城に泊めて貰えれば嬉しいのにと先の事に思索を巡らせる。
「おねえちゃんはここでおうたうたってたけど、それってせしすさまにおあいしたいの?」
 ひとりの子供の声に、はた、と織羽は目を瞬かせた。
「ねえねえ、おねえちゃんたちも、せしすさまにおあいしたいの?」
 織羽から子供は視線を、織羽よりあとに続く形になってしまった冒険者達へと向けて、同じように問いかけた。



…※…




「ボクの予想では、
 ここに住んでる女の子が今回の依頼の鍵を握ってるとみたっ♪」
 敷石の上、軽やかな足取りで先頭を歩くシャーロット・フルールが後方のシェリル・スカーレットアレクス・エメロードのふたりに向かってくるりと可憐に振り返った。
 魔障壁の側で見つかった村は、パッと見は普通の村でしかなかった。
 それについて、
「そもそも変じゃない?」
 とシャーロットは道中ふたりに疑問を投げかける。
「あんなお城に女の子がひとりで住んでるなんて」
 だよね? アレクちゃん? と続く話題。アレクスは頷いた。
「だなぁ……。 どの辺に調査の必要があるのか、さっぱり分からねぇぜ」
 その癖、報酬は良いと来てる。
「依頼人が不明ってのもキナ臭さに拍車をかけてんだよな」
 まったく、とアレクスは嘆息し両肩を竦めた。
「いつもながら変な依頼ばっか受けてくれるよ、うちの姫さんは」
 怪我の絶えないお転婆主人に従う者として心得ていますと吐息するアレクスにシャーロットは「にゃはは♪」と笑った。
「何があるかわっかんないのが楽しいんじゃない☆」
 左右に流れる景色は長閑な田舎の風景そのものなので、
 今んとこ拍子抜けだけどね! とシャーロットはウィンクした。
「というわけであのお城の方へ行くよ!」
 そして、シャーロットからの冒頭での“注目すべき点”の発表に繋がる。
「ならそこで興行かねぇ。なるほど、あの城でねぇ」
 三人勢揃いで城でやるとしたらひとつしかない。敢えて確認する口ぶりのシェリルにシャーロットは言葉の代わりに満面の笑みを返した。
「了解了解。可愛いシャロの頼みだ、めいっぱい盛り上げてあげるさね」
「……依頼主が知らなかっただけで……この辺一帯の有力者……って線もあるにはあるが」
 押さえておきたい部分はきちんと押さえておこうとエヴィアンの彼は炎の精霊のあとに続く。
「その女の子が魔族だったり、そもそもの依頼主っていうのは俺も考えた。なんにせよ、会って話をしてみるのは俺も賛成だ」
 無論、様々な状況や事情が考えられる。件の娘が病弱で困っているのなら体力をつけてくれるよう品を、呪いに侵されているようならばそれを解呪する方法を、所持品と己の技量を思い出しながら、娘が実は魔族だった場合で洗脳能力があればそれを弾くような対策をしなければとアレクスは思索を巡らせる。



…※…




 城の正面門前。
 子供達に囲われてシャーロットは、シェリル、アレクスとそれぞれを見遣り、子供達に向き直って元気に腕を挙げた。
「やっほ~♪ はじめましてなんだよ!」
 ちらりと覗く八重歯が印象的な、太陽のように輝く笑顔を振りまくシャーロット。
「ボクは虎のファーリーでサーカス『リトルフルール』団長のシャロちゃんだよ☆
 今日は旅の興行でこの村に寄ったんだ~♪」
「サーカスぅ?」
 お歌の次はなんだろう。わくわくときらめく目でシャーロット達を見つめる子供達の声は意図せずにハモった。
 わからなければ、一見は百聞に如かずの言葉の通り、体験してもらうのが一番だろう。
「うんうん☆ 旅のサーカス団だよ♪
 サーカスを知らないキミ達を『リトルフルール』の芸で楽しませてあげるね!」
 城に住んでいる娘に会う前に観客が揃ってしまうも、未だ城からは人の気配はせず、賑わいに盛り上がれば娘の方から見に来てくれるかもしれない。そんな期待も兼ねて、団長シャーロットは指揮をとる。
 良かったら見てってくれないかな? 楽しい楽しいサーカスの始まりだよ!
「アレクちゃんは演奏、シェリルちゃんはダンスよろしくね!」
 それで、
「ボクはホークちゃんで動物使いかな」
 そうとも、サーカスらしくっ☆
 役割を振ってシャーロットは観客に、更に向こうに手を振った。一、二の合図。口にホイッスルを咥え、一吹きすれば、スパローホークが高みより滑空し、シャーロットの構えた腕に止まった。
「んじゃ、アレクちゃん、ミュージックスタート☆」
 三人より、一頭が増えて驚く子供達にこれからだよとシャーロットが指揮を振る。
 まず紹介せしはエヴィアンのアレクス。
 触れる弦の硬さはアレクスのなめらかな指の動きで軽やかな旋律と化した。弾く一音、重なる音色。優しい出だしから音楽は、すぐに力強い調子となり、心奮い立たせるほどに勇猛となる。子供の注意を十分に引いてから、アレクスは一転曲調を変える。
 エヴィアンの翼を広げ、地を蹴っての飛翔。
 さあさ、地上は地上の主役に明け渡し、ただ己が奏でるは、曲は俺らのサーカスのメインテーマ『フルールマーチ』。

『鳥は歌い 華は踊り』

「てなわけでお初にお目にかかるよ」
 シャーロットの指揮は再び振られ、ハーフエリクシルが後退する団長と入れ替わりに一歩前に出た。
「精霊を見るのは初めてかい?」
 あたいは炎の精霊なんだ。
 火は熱くて怖いってイメージもあるだろうけど、
 キラキラ光って楽しませることだってできる。

『動物たちも連れ立って』

 くるり、くるり、飛翔の羽ばたきに空からは陽光散らす羽が舞い落ちてくる。
 荒野に吹く風は寂しいものだけど、だからこそ、羽は、くるり、くるり、と円を描く。
 赤髪のミンストレルは己の良さを謳い上げよう。
 火はとてもとても身近で素敵であると、気づかせたくて。
 便利な道具を生み出したり、古来より人の生活に無くてはならない友人であると。
 欠かせない存在であったから、そんな人の想いより己は生まれたのだと喜びを謳歌する。

『妖精の郷(くに)へ行こう』

 さあさ、お歌の次は、踊りの時間。
 劇場も天幕もないけれど、晴れ渡る空の下、まだまだ続くよ。終わりではないよ。
 シャーロットの手拍子は観客の注意を今一度自分に向けさせ、シェリルの紹介に片手を伸べ示す。
 大注目の炎の演舞は見応えたっぷりだから、期待しててね。
 そんなウィンクと共にシャーロットは腕に乗せていたスパローホークのホークちゃんを己の手前に放し、子供達の周りを巡らせて戻ってくればそのままアニマルアクション。

『おいでませ フルールの森』

 シャーロットが繋ぎ、バトンを渡されたシェリルが精霊が編み込む火の魔力纏った衣の裾を翻した。
 精霊ゆえに作り上げられる華刃リボン。長い長い赤色リボン。軽やかに靡く焔の色。
 火の色画。
 乾いた土地の厳つい城の風景に、囲う篝火よりも赤々と。
 アレクスの演奏に合わせ炎のリボンをくるくる振り回し、鎮魂の演舞。

『人も獣も天使も』

 くるくると踊るシェリルが器用にリボンで輪を作る。
 ひとひとり潜れるほどの火の輪を作る。
 シェリルが片手を天に伸ばし、シャーロットを示した。
 既に地面を滑るように駆けていたシャーロットが子供達の前で飛び跳ね、するん、とシェリルが舞わすリボンの輪を潜り抜ける。

『精霊だって一緒に遊ぼ』

 夢中になったのか、手に汗握ってしまったのか、子供達は真剣な顔で火の輪をガン見していた。
 大丈夫かな? 追いつけているかな? 様子を伺いながら団長は一座に指示を出す。
 シェリルにまだまだ火の輪の維持を任せ、ほら、みんなで輪くぐり輪くぐりとホークちゃんに合図を送る。

『みんな元気に歌い合えば』

 楽しく、騒がしく、賑やかに。
 火の精霊が踊る。
 指先より舞わす赤色も回る。
 円形に、挑みゆく者を飲み込んで。
 魅惑の一瞬。息を飲むほどに、心をつかむことができたら嬉しいもんだ、と。
「どうだい?あたいの舞は? 炎も悪くないだろ?」

『楽しさはいつも無限大』

「ホークちゃんは二回目もうまいうまい☆」
 拍手するシャーロットは空へと視線を転じた。
「もうアレクちゃんも潜っちゃえ♪」
 そろそろ唄い終わりだろう? みんな潜っているんだから、是非参加しないと。
「ほらほら、はやく!」
 はっ? 俺も火の輪くぐりって……、というアレクスの表情なんてお構いなし。煽るシャーロットに「相変わらずの無茶ぶり姫さんめ」とアレクスは高度を下げ――、
 さて、演目が盛り上がるのならと気持ちが傾く中、拍手と歓声が途絶えたことを、子供達が無言でこちらを見つめていることで、アレクスは気付かされることになった。
 あんなに喜んでいてくれたのに、皆が一様に押し黙って、自分達を見据えている。
 高揚感に場が固まれば群狼の矢で狼なんかも召喚しちゃったりして☆ ハラハラドキドキにときめいてもらおう。安心安全なほど心置きなく危険でスリル満点な一興は味わえない。まかり間違って万が一、被害なんて出ないよう他方にぶつかる寸前でシェリルに斬って散らせば済むし、それも演出だと賄える。そういう段取りで、何より楽しさを伝えたく舞台を整えるファーリーの明るささえ、子供達の無言は無視できなかった。
 シャーロットは、止めてはいけない手を、おろしてしまう。
 楽しくなかった? とは聞かない。聞けない。聞いても意味がない。
 問題はそこではない。
 気遣う言葉で誤魔化す形の指摘する点はそれではない。
 何が彼らの一端に触れたのだろう。

「おねーさんたちとおにーさんは“ひ”をつかうの?」

 子供のひとりが口を開いた。
 それをきっかけに子供達が次々に質問をシャーロットに浴びせかける。
「こわくはないの?」
「やけどしない?」
「いたくない?」
「もえてしまわないの?」
「くろこげにならない?」
「はいにならないの?」
「あつくないの?」
「こわくないの?」
 怖くないのか、熱くないのか、火傷を負ったりはしないのか。
 そんな素朴な子供らしい疑問は年相応と微笑ましく冒険者の目に映るだろうか。
 子供らは更に、更に、彼ら彼女らに詰め寄る。



 それをもってじょうしゅさまにおあいしようとしたの?
 そもそもじょうしゅさまにどうしておあいできるとおもったの?
 おにーさんたちやおねーさんたちがなにをもってじょうしゅさまのおしろにはいれるとおもったの?
 じょうしゅさまはそんなにかんたんにおあいできるかただとおもったの?
 なにより、じょうしゅさまにおあいしようとするおにーさんたちやおねーさんたちを、わたしたちがこころよくゆるすとおもったの?
 むらをしらべるためにきたのに、どうしておしろにようがあるの?
 おにーさんとおねーさんたちは、じょうしゅさまはわたしたちにとってとてもとてもたいせつなかただとしっているの?
 じょうしゅさまとあってなにをしようとかんがえていたの?
 それをみたわたしたちがどうかんがえどうおもうのかそうぞうができないの?
 できてなおそのこうどうなら、じょうしゅさまをどうにかしようというかんがえなら、わたしたちはどうしてあなたたちをかんげいできるかしら?



 村人の悪感情を逆手に取ろうとでもしているのか?
 何も知らない余所者が何を口実と作り上げて何を目的に行動しようと言うのか。
 詰め寄る影はゆらゆらと揺らめいている。ゆらゆらと揺らめいていた。
「こーら。手伝いをさぼって何をやっているんですか」
 冒険者は単純に請け負った依頼をこなしている。仕事をしている方をからかって遊んではいけませんとひとの注意を受けて、子供達の瞳に光が戻った。台車を押して城の裏側へと消えていく背中を「怒られちゃったねー」と子供達は身を縮めて見送る。そして互いに互いの顔を見合い、こそこそと話し合って、それから織羽、シャーロット等の前で一列に並ぶと、
「からかってごめんなさい」と一斉に頭を下げた。
「なんかすごかったもんね」
「あんなのあたしたちできないもの」
 歌を歌ったり、芸を披露したり。
「じょうしゅさまはきっとよろこぶわ」
 年頃の女の子にとってはどれも胸高鳴らせるものばかりだ。
「それがなんだかうらやましかったの」
 けれど、背伸びもできない子供な自分達はどれひとつあなた達のようにはうまくできないだろう。
「いじわるしてごめんなさい」
 大好きな城主が絶対気に入ってしまうだろうと子供ながら嫉妬してしまったのだと。年上の人相手に意地の悪いことを言ってしまって申し訳なかったとなんとも殊勝な態度だ。
「じょうしゅさまはおひとがだいすきだから、だれでもだいかんげいよ?」
「おしろのもんにはかぎなんてかかってないもの」
 城はいつでも出入り自由! 子等が誇らしげに胸を張った。
 城主が大事な人だと語るその唇で、好きに会いに行けばいいと冒険者達に告げる。

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