ACT0:守の段 獣と兵
劇場と化した島、ペンギンシアターに開幕のブザーが鳴り響く。
三色の定式幕が開くと、アーチで仕切られた岩がちな海岸に、波がざざーん……と物寂しい音を立てながら打ち寄せていた。
ぼんやりとしたシーリングライトに照らされ、
龍造寺 八玖斗の姿が舞台の上に浮かびあがる。
うつ伏せになり、波打ち際に倒れ伏した彼は、欧州、あるいはシルクロードの流れをくむ洋装だ。
それを導入にして、上手のほうから一人の男がやってくる。
麻の着物を荒く着崩し、いかにも漁師といったいでたちの男は、驚いた様子でそれを見やり……やがて息を確かめると、八玖斗を抱え上げて声をかけながら自分の家へと運び込んでいく。
「戦の真っ最中に流れ着くとは、かわいそうなどざえもんだなあ、まったく」
――男の言葉を皮切りに、遠くから音が迫ってくる。
迫真の音響で観客に届けられるのは、様々な音が混ざった戦の音色であった。
馬の蹄。鬨の声。ぶつかり合う刃。断末魔とほら貝。
そして、それらに乗せて歌われるのは、“エトワール”のテーマソングをアレンジしたものであった。
―― 民を率いるものとして 守り戦え 誇り高く ――
―― 民を守るためならば 万難を排し 首を獲れ ――
舞台を映すフレームであるアーチは、次に平原の様子を切り出した。
歌に合わせて騎兵と歩兵がぶつかり合い、弓が降り注ぎ、まじないの光が飛び交っている。
「う、うぅ……」
「お、生きてたのか。
まあ、生きてるほうがつらいかもしれねぇけどな……」
彩は違えど、これは“エトワール”。
華やかに、そして複雑に進んでいく物語であると、そう感じさせるワンシーンを経て、舞台は音を立てて駆動し始めたのだった。
CHAPTER LIST