■序章■
しばしの休暇をだらりと寝台に転がって過ごす
アルヤァーガ・アベリアは、ぼんやりとワイヤード放送局のニュースをつけて見る。画面の中ではメネディア食材の調理法という番組がやっている。
これまで工業的に作られた「食品」ばかりを常食としてきたニブノスの人々にとって、料理というのは目新しい娯楽のようだ。一部の料理人しか料理に気を配ってこなかったが、多彩な材料を組みあせて自分好みの調理をすることに熱中しはじめている。にわかに人気者になった料理研究家が、リズミカルに野菜を切り裂いて種や芯を除いて生肉と炒めている。
料理研究家が炊いた米と鶏卵をまぜて炒めに加えようとしたところで油が跳ねて、料理研究家がボウルを取り落し、調理台にこぼれおちた。
「あらやだ!」とあわてて手でかき集めて加えられて愛想笑いをうかべる料理研究家。
「料理というのは、ときどき思いがけないことがありますから、対応力が大事ね。食材は無駄にしてはいけません」
アルヤァーガはその腕で料理研究家を名乗る女性を訝しみながら、チャンネルをストレートニュースに切り替えた。二大食害問題と言われたビタミン・バランス社、ハーヴェスト・デザート社が国有化の元で再建をはかることが語られ、続いてのニュースでバノテスカヤの政情が不安定化しつつある情報が伝えられた。そして国際ニュースは不公正な交易体制についてフロンティア・ゲートが厳しい批判をあびせていることを告げている。
なれない料理研究家が落とした卵飯のことを、ふいにアルヤァーガは思う。慣れない仕事にとまどい、どうにかこうにか使えるものを寄せ集めて料理にする。その姿がどうにも今のニブノスらしさを感じさせた。それは、卵を積み上げてつくられた危うい塔のようだった。
■目次■
第1章 美しい国
(
久遠路 彼方、
朔日 睦月、
八上 ひかり、
センリ・ミヤキ、
マラヤー・チェン、
ギルニー・クレイソン)
第2章 救われるべきもの
(
九曜 すばる、
優・コーデュロイ、
ユラ・ガラ、
ジェイク・ギデス、
ミシェル・キサラギ)
第3章 再起
(
フレデリカ・レヴィ、
美空 蒼、
高橋 凛音、
ルキナ・クレマティス)
第4章 永遠の敵はなし
(
青井 竜一、
フィオラ・ロス、
茅場 和人、
今井 亜莉沙、
永見 玲央)
第5章 希望の種
(
ヴァーツラフ・クラマーシュ、
トスタノ・クニベルティ、
クロノス・リシリア、
柊 恭也、
二ノ宮 初花、
ノル・マンディ)
第6章 争点
(
星野 空兎、
ドクター ハデス、
古井戸 綱七、
姫宮 和希、
ミューレリア・ラングウェイ、
弥久 ウォークス、
ローザリア・フォルクング)
第7章 絶望の子
(
アレミア・レスキュラシオン、
ジェイク・ギデス、
ロイド・ベンサム、
綾瀬 智也、
猫帝 招来、
ヒルデガルド・ガードナー、
乙町 空、
高瀬 誠也)
第8章 焦点
(
シーリーア・ミオン、
ロイド・ベンサム、
弥久 ウォークス、
ギルニー・クレイソン、
未雨・カグラ、
方 伯天、
パトリック・ディエン)
第9章 太陽の帰節
(
ジョルジュ・スールト、
名和 長喜、
星空 はるか、
グエン ヴァン・ザップ、
柳波 響)