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08.心に残るもの

 朔日弥生はエドマンドとの模擬戦の余韻に浸っていた。
 機体性能はほぼ同一で技量のぶつかり合いだった。この日、何があったのか弥生は知ることは無かったが、未来でエドマンドの名を冠する部隊が生まれる理由を体験できた。
「防衛線が突破されましたか」
 イーサ全体に敵襲を知らせるサイレンが鳴り響く。
「この機体でどこまで戦えるか、試してみましょう」
 弥生は近くに着地した巨大な――現代では当たり前のサイズのIFを見上げて剣を握る両手に力が入る。
 降り注ぐアサルトライフルの弾丸を剣で防ぎながら前進、懐に潜り込んだところで左右からソードフリップによる高速の斬撃を放った。
「出力不足で押し切れませんね。手数で補いましょう」
 最新鋭のIFが相手では性能が足を引っ張る。厚い装甲と各種防護装備に威力が減衰して斬り裂けない。
 反撃のブレードを掻い潜り、更なる連撃でようやく一機の撃墜に成功する。
 その間にもトワイライトは次々とイーサに辿り着いていた。
『まだ戦える人は手伝ってもらえるかな』
 オペレーターとしてサポートに付いた幾嶋衛司から通信が入る。衛司としてはブリギット・ヨハンソンを連れて離脱したいところだが肝心のブリギットが戦う気満々だった。
『制限を解除しました。そのまま戦闘可能です』
 ユニの手で試験用の制限が取り払われてガイストが本領を発揮する。
『任せて! 乗りこなしてみせるから!』
 ブリギットとエドマンドは先に迎撃に向かった弥生の援護に加わり、兵器の歴史から逆行した三人の剣士が集った。試験中にお互いの力量を把握していたことから即席ながら絶妙な連携を見せる。
『この性能って』
 戦いながらブリギットはガイストの高速機動に戸惑った。
『ユニ……』
 エドマンドが責めるように名前を呟く。
『本来のスペックはこっちです』
 開き直ったユニの提示する性能はエルガイストのように馬鹿げてはいないが十分にオーバースペックだった。
『エドマンド小父さんなら大丈夫かなって』
『ジョエルとアゼルに報告しておく』
『そんな!』



 山内 リンドウの姿は管理区にあった。新人研究者を装い見て回り、アゼルやユニ、エドマンドなど当時の人達の客観的な印象や評価を収集して表面上は何も問題が起きていないことを知る。少し強引な行動であっても主任権限とトランスファーの転移によって彼女を止められる者は居なかった。
「騒がしいですわね」
 サイレンの音を聞いて廊下に出ると慌しく人々が行き交っていた。
「アドミン様の通信で確か侵入者がいらっしゃるとか……イーサまで辿り着いてしまいましたのね」
 この状況で何をするべきか考えていると、背後の部屋から大きな物音が聞こえた。
 先程まで調べていた部屋で誰も居なかった筈だ。
「どなかたいらっしゃいましたか?」
 呼び掛けても返事はないが床や壁を叩く音が聞こえてくるので、意を決して扉を開いた。
「トラップなんて猪口才なのです!」
「貴女はどちら様でしょうか」
 リンドウは床でのたうち回るQIを刺激しないように令嬢の嗜みで丁寧に接した。
「いいところに来たです、セイムを手伝うですよ!」
 セイムはリンドウがQIのアバターであることから勝手に仲間意識を持って笑い掛けて来る。
「お手伝い?」
「イーサを荒らす不届き者を盛大に持て成すため防衛機構に悪戯するですよ」
 悪戯という言葉に興味を引かれた。この世界は過去のデータで現代に影響を及ぼすことはなく、迎撃に協力するという大義名分もあり「悪い子」になるには理想的な状況だ。果たしてそれは「悪い子」なのか疑問は残るが「いい子」が抜けないリンドウらしい考え方だった。
 量子世界側のガードが厳しいため敢えて現実側から攻めることになった。リンドウのホットリミットで壁に穴を開けて、その部屋は主任権限でも幾つかの手順を踏まないと入れない重要な端末室だった。
「ユニに作らせた最狂兵器の出番なのです!」
「最強兵器……!」
 微妙な擦れ違いのまま悪戯計画が始動する。



 海上を防衛していた特異者も加わり、工業区は未来の兵器が入り乱れる戦場となり、もはや過去の時間は完全に崩壊した。
「あれって!」
 アリーチェ・ビブリオテカリオは再起動した防衛機構が敵部隊に猛威を振るうのを目にした。
 忌まわしきロボットアーム、そして触手――リンドウとセイムの悪戯はここに結実した。
 ロボットアームに押さえ付けられている間に触手がまとわりついて動きを止める。イーサの莫大なリソースを湯水の如く使用しており、未来の機体とて容易に振り払えない。ただしリソースの集中でイーサのあちこちが実体化を維持できず粒子となっていた。
 襲撃に慌しくなる格納庫で、アリーチェは隙を突いて拘束された世良潤也を助け出す。
「もう好きに戦えるわよ」
「ああ、行ってくる!」
 潤也は満を持してラースタチカを出撃させる。
「例え現実は何も変えられなくても……それでも誰かが死にそうになってるのを黙って見てられるかよ!」
 ゼストの仮想世界はVRゲームみたいなものだという考えは、彼の操縦に廃人プレイヤーのテクニックを宿した。襲い来る敵機をアサルトライフで弾丸をばらまきながら突破して、弾幕を抜ける相手にはEMダガーの三連撃で機能低下を引き起こし動作が鈍っている間に切り抜けた。
「やらせるか!」
 ぎりぎりのタイミングで間に合いIF用のシールドを構えて、敵機の銃撃からエドマンドを庇った。
『その機体は……』
 エドマンドは敵部隊と同サイズの機体に戸惑いを見せるがすぐに切り替えた。
『仲間であればいつの誰であっても構わない。非戦闘員の避難協力を頼めるか』
「安心しろ。俺に任せておけば、たぶん大丈夫だ!」
 その返答にエドマンドは不安を覚えた。


「お前達は未来から来たんだろう。どうして俺にこだわる?」
 無事に辿り着いたシェルターでエドマンドは特定の人物を呼び集めで核心を突く。彼は特異者を本物の未来人だと判断したようだ。
「それは……」
 潤也は言葉に詰まる。
「その反応で十分だ。俺の生死なんて世界全体にとってはどうでもいいことだ。重要なのは犯人の方だな」
 エドマンドは煙草を取り出して吸った。
「俺を殺すとしたらアゼルだろうな」
「恨みでも買っておるのか?」
 メアリ・ノースの問い掛けにエドマンドは苦笑した。
「仲は良いさ。あいつは家族を取り戻すと言ったが、俺は協力を断った。死人を蘇らせるってのがどんなものか知らないが、俺にとっては踏み込んだらいけねぇ領域だと思ってな」
「それで何故、殺すところまでいくのじゃ?」
「止めようとしたからだろう」
 エドマンドはアゼルの違法研究を秘密裏に調査していた。その裏に国家連合の上層部が関わる大きな陰謀があると知って、下手に動けば自分もその家族も消されると考えたのだ。
「アゼルを止めてやってくれ。俺はあいつを止めてやれなかったんだろう?」
 特異者に願いを託した。この時代を必死で守ろうと戦い、娘に気に掛ける様子を目にして信頼してくれたのだ。
 立ち去るエドマンドの背中を追い駆けた潤也は、呼び止めようとして上手く言葉を作れなかった。
「喧嘩なんて何度もしただろう? くよくよするな、お前らしく好きに空を飛べ」
 雰囲気で察したのか、エドマンドは未来の娘への不器用な伝言を口にした。
 エドマンドと入れ違いにアメリアが遠近千羽矢の元へ駆け寄ってきた。
「ねえ、あの時……あんなに真剣だったのって、あなたはもしかして子どもの時に誰か亡くしたの?」
 千羽矢は膝を突き目線を合わせて頷いた。
「……俺は幼い頃、父さんを亡くしている」
「そっか。これからはなるべく喧嘩しないようにする。それに危険なら私も一緒に戦ってあげるの」
 そう言ってアメリアは笑った。その笑顔が眩しくて余りにも幸福に満ちていたから、千羽矢は穏やかに口元を緩めながら――狂おしいまでに胸を締め付けられた。
 父親との仲直りを果たせず、真実を知らぬまま親友を恨み、悲嘆と憎悪に色褪せた空を少女は飛び続ける。



「此処は翡翠の黄昏の失敗作だ」
 この時代に存在しないものがどこから現れたのか考察した結果、アゼルは自らが生み出した箱庭だと気付いた。
「どういう意味かしら?」
 ルナ・セルディアは開き直ることにした。本人が協力を申し出るなら下手な演技や面倒な腹の探り合いを避けられる。
「支配者は満たされた現在に永遠を求める。不老不死、完全なる支配、終わりなき理想郷……それらを約束する計画こそが翡翠の黄昏だ」
「貴方が権力者と同じ理想郷を求めているとは思えない……」
「私の事情は把握しているのではないかね?」
「大切な人を失って……永遠を求めたと……」
「私は人の死を許せなかった。第一のプランは『第二現実』の構築だ。仮想世界に現実の完全なる複製を構築して暮らす……しかし私が求めたものは生み出せていない。第二のプランは『人造人間』だ。人間の肉体や脳からのアプローチを試みているが結果は芳しくない」
「未来の貴方はこの時代のイーサに攻撃を仕掛けているわ……だから既に何かを発見しているものだと考えていたのだけど」
 言葉にしながら一つの閃きが生まれた。
「翡翠の黄昏と仮想物質イーサは……密接な関係にある。考えてみれば、どうしてこの小島はイーサの名前を残しているのかしら。まさか……新たな仮想物質が定義された?」
「未来の私はその正体に辿り着いたのかもしれない。だからこそ大海原に浮かぶ小さな島に執着するのだろう」
 ルナはアゼルの言葉に引っ掛かりを覚えた。
「大海原に……そう、ずっと勘違いしていたわ」
 この時代にエリア15は存在しない。何もない大海原にイーサは設立された。
 正確には一つあった。かつて死闘を繰り広げたインテグレーターの本拠地――エリア4だ。
 ルナの思考を遮るように研究室が大きく揺れた。遂にトワイライトが管理区まで到達したのだ。
「きみたちはあるべき時代に帰りたまえ」
 アゼルが情報端末を操作すると、ルナを始めに過去のイーサを訪れた特異者は光の粒子となって消えていく。トワイライトはそれを追うように姿を消した。
 この世界で管理者の権限を持つアゼルの手によって、その日のイーサは完全に閉じられた。
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