クリエイティブRPG

エキセントリック・アーカイブ

リアクション公開中!

エキセントリック・アーカイブ
リアクション
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9  Next Last

05.平和の影

 暁月弥恵はネリーに追い付いて、今度こそ一撃を叩き込もうと両手剣を振り下ろすが、ネリーはナノマシンを利用して無意識の領域で攻撃を回避していた。
「もう私を無視させませんよ」
 弥恵はネリーの前に回り込むと輝かしい舞を演じる。その眩い姿は感情なき魔物すらも揺さ振る魅力を持っていた。
「急に踊り出してどうした?」
「少しも動揺させられないなんて……!」
 残念ながらネリーの理性は鉄壁だった。彼女は工作員として感情を制御する術を熟知しているのだ。
「色々と奥の手を隠していそうで厄介そうだ。早々に終わらせよう」
 ネリーの姿が視界から掻き消える。
 身構える間もなく無数の刃が弥恵を切り刻んだ。
「うっ……!」
 何が起こったのか理解したのは歪曲装甲を削り取られて床に倒れ込んだ後だった。
「切り札を、こんなに早く切るとは思いませんでした」
 弥恵はエクスターミネーションの加速を終えたネリーを時間感覚が一致した中で見上げる。
「暴れるなよ、楽に殺してやるからさ」
『困るわ、我らが舞姫に死ぬ予定はまだ入ってないの』
 ニコレット・スタイネムの声が海中施設に設置されたスピーカーから聞こえてきたのと同時、天井裏から出現した自動機銃がネリーに狙いを定めて弾丸を吐き出す。
「こいつは参ったね」
 台詞とは裏腹に余裕を崩す様子はない。マスダガーの投擲で自動機銃を次々と破壊していた。
 銃弾の雨が降り注ぐ中で舞姫は再び立ち上がった。ネリーの攻撃をRWOで培った回避能力を活かして躱していく。
「一手、参ります!」
 次なる演目は魅せる舞ではない。猛き炎と共にお送りする剣の舞だ。
 ネリーは炎の一閃を両手のマスダガーで受け流そうとするが、衝撃を殺し切れず右手の短剣を取り落とした。更に追い打ちで剣身に宿った炎が右手を呑み込んで火傷を負わせていた。
「まだです!」
 弥恵は間合いを詰めたまま食らい付く。攻撃の手を止めた瞬間に敗北する予感があった。
 額を付き合わせるような至近距離で睨み合い、弥恵は炎を纏った剣身を押し込む。ネリーは両手で握ったマスダガーで堪えており崩れない。
「くっ……っ!」
 ネリーの蹴りが膝を打ち体勢を崩す。更に腹を蹴り飛ばされて扉を突き破り研究室に転がり込んだ。なんとか受身を取ってすぐに立ち上がれたが剣を手放していた。
 油断無く接近するネリーが研究室に噴出するガスで足を止めた。
「えっ……私も中に居るのに!?」
『死ぬようなガスではないわ』
「ここらが潮時だな」
 得体の知れないガスにネリーは撤退を選ぶ。部隊に無線を送ると倒れた弥恵を残して仮想世界を立ち去った。
「このガスって一体どんな効果が?」
『感度を高める成分が入っているらしいわ』
「まさか3000倍に!?」
『……どこから出てきたのその数字』



「後ろですわね!」
 羅那魅静姫は背後から迫る短剣の一撃をブルースフィアで防ぐと、一本に束ねた蒼雷光刃で敵を斬り裂いた。
「ようやく隙を見せてくれましたね」
「何を仰ってますの?」
 アキの言葉が意味するところを考えようとして、青井竜一の援護が止まったことに気付いた。
 相手にしていた敵は三人。自分を取り囲む人数が二人に減っていた。どうやらパターン化した動きで攻撃のチャンスをわざと与えて、誘導した行動の隙に突破されてしまったようだ。
「ここまでだな」
 竜一は狙撃は間に合わないと判断してトライアルライフルの通常形態に戻すと立ち上がった。
 一人の突破を許してしまったが静姫の守りは崩されていない。後方ではネヴュラ・シェーレがデータを守るために行動している。
「ここで二人の足を引っ張る真似はできないな」
「狙撃手が近付かれて何ができる」
「こうするさ」
 竜一はマスダガーを振り下ろす腕をトライアルライフルで殴打した。怯んだところでトリガーを引くが、敵は爆発的な瞬発力で至近距離の射撃を回避してみせた。
「持久戦で凌がせてもらうぞ」
 狙うのはナノマシン活性化の時間切れだ。それでもBHを相手に数十秒の時間稼ぎは生身のLDには荷が重い。
「くっ……!」
 鋭い刃が籠手を貫き右腕に突き刺さる。怯んだところに重い拳が入り膝を突いた。
 止めを刺さずに先を急ぐ敵を止めるために狙撃体勢を取った。
『通して構わん。それよりも静姫の面倒を見ておれ。お兄様なのだろう?』
 イーサの設備を通してネヴュラから通信が入り、竜一は狙う先を切り替えた。
 二人の敵に静姫は未だに善戦している。
「強くなったな、静」
 出会った頃の人形のようだった彼女の姿を思い出す。特異者として覚醒させて戦いの道に引き入れてしまったことには、未だに負い目のようなものを拭えずにいるが、ネヴュラの言葉で今だけはそれを意識せずに済んだ。
「そうだな、しっかり見守ってやらないとな」


 守りを突破した敵は研究室に入ると端末データの削除を行おうとする。しかしセキュリティトラップの発動で過負荷を受けて目眩に呻いた。
「貴重なデータを破壊するなど、無粋な真似を見逃しはせぬよ」
 ネヴュラは別室から姿を現した。
「SOが前線に出てくるとは、舐められたものだな」
 敵はナノマシンの活性化が止まって身体の動きは鈍化していたが接近戦の間合いでは十分に脅威だ。
「舐めておらんよ。このネヴュラ、万一の場合の備えを怠るつもりはない」
 最後の力を振り絞る敵に対して、ネヴュラは何もしない。やるべきコマンド入力は既に終えていた。
 銃声が鳴り響き敵が床に倒れ伏す。忍ばせていたミニタロスによって背後から撃ち抜いたのだ。
「他の二人の仲間は守り切れはしないぞ」
「己の安全に拘泥する愚者に見えたとは、とんだ節穴だ」
 言葉の意味を理解するより早く敵は意識を失い仮想世界から姿を消した。
 ネヴュラはウェアラブルPCで海中施設の監視映像を展開する。
「アルテラの女魔法使いが、いつの間にか思いも寄らなかった遠い所にまで来てしまったものだ。それに、主のために力を振るうか……ふふ」
 自分の在り方の変わりように思わず笑みを零した。


「新手ですか」
「…………」
 アキは背後に迫る気配に対して鋼糸を振るうが、風間 瑛心の両手からも鋼糸が伸びており二人の間で複雑に絡み合っていた。彼は背後を突くようにネヴュラから要請を受けて単独行動を維持しつつ作戦に協力する形を取っていた。
「同じ装備を扱う物好きが居るとは思いませんでした」
 アキは鋼糸の実体化を解いて手元で再構成した。
 マテリアル・アナライザーは攻撃の予兆を見逃さない。後の先、アキの操る鋼糸に対して同じく鋼糸を展開して迎え撃つ。絡み合い解けなくなればアキは鋼糸を再構成して距離を置いた。どうやら瑛心の身の熟しから近接戦闘は不利と判断したようだ。
 瑛心は意を決して鋼糸の合間を縫うように接近していく。
「厄介ですね」
 アキはベルトのスラスターを起動して一気に距離を置いて仕切り直す。
 その間も瑛心は前進を止めない。再び展開された鋼糸に対して片手だけで対応した。手数の差で道が塞がれていくが、エクスターミネーションによる加速で強引に突破した。
 加速時間の中でアキの両腕を残った片手の鋼糸で拘束する。
「少佐、すみません、無茶をします」
 体感時間が元に戻った中で、アキの覚悟を決めた声を聞く。
 アキはナノマシンの侵食率を引き上げて強制変異を起こすと自らの腕を引き千切ろうとした。
「……止めさせてもらう」
 瑛心はアキの頸部に手を当てて意識を断とうとするが、強制変異を起こしたBHを無力化するのは困難だった。時間を掛ける内に完全変異へと至ってしまい力尽くで振り払われてしまう。
 殺人を厭わぬ覚悟と不殺の決意に優劣はない。しかし生け捕りが殺すよりも難しいのは覆せない事実だ。
「…………」
 瑛心は無言で腰を落として古武術の構えを取った。
 意識を断てぬのなら完全に拘束するのみ。どれだけ無理を突き付けられようとも在り方を変える理由には成り得ない。
 強引に拘束から脱したアキは、装備をマスターピースに切り替えると油断なく身構えた。
 再び戦いが始まろうとした時、アキが通信を受けて眉を寄せる。
「了解しました」
「……退くのか」
「ええ。あなた達はやはり厄介です。それだけの強さを持っているからには多くの世界で勝利を収めてきたのでしょう。その結果、世界は本当に平和になりましたか?」
「……何が言いたい」
「対処療法では世界を救えない。あなた達が今だけの平和に固執するならばまた戦うことになるでしょう」
 アキは一方的に言葉を残して仮想世界から去った。
 トワイライトが介入する程の重要度の高い情報は回収したデータの中には見当たらなかった。恐らくは先に破壊された端末の中に保存されていたのだろう。海中施設の防衛で犠牲者を出さずに済んだことが救いだった。



 白野直也とアイは無事に海中施設を抜け出して管理区の廊下を歩いていた。
「あなたはジェイドお兄ちゃんのお友達?」
 アイの呼ぶ名前に海中施設で抱いた疑問が解消される。この時代にはまだジェラルドという名前は存在しないのだ。イーサテックフェスでアイの語った話を思い出して偽名を名乗る意味を理解した。彼女は家族に捨てられたと思い込んで復讐を企んでいた。負い目のある彼は兄を名乗れず、ただ仲間として傍に居ること選んだのだろう。
 直也は気を取り直して言葉を返す。
「あなたみたいな人種が大好きな、ただの人間です。一応ロリコンじゃないですよ」
「ロリコンってなに?」
 ロリにロリコンを説明をするというキラーパス。
「……お兄さんを助けるために仲間を探そう」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんは誰にも負けない。どこにだって私を迎えに来てくれる」
「そうか、だから彼は……」
 直也はアイの手を引いて管理区の外へと出た。
 青空まで忠実に再現した仮想空間でアイは手の平を太陽にかざした。
「お外、久し振り……太陽が眩しい」
 変えられない過去を必死で良くしても意味はない。でも隣で涙を流しながら太陽を見上げて笑う少女のどこに嘘があるというのだろうか。その顔が明るければ明るいほど、直也は彼女が至った未来に胸が詰まった。
 兄の迎えはなく、実験で心と身体を壊され――そしてエルガイストにすべてを捧げた少女が誕生した。
First Prev  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9  Next Last