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03.歴史の転換点

「この三千世界を統べる【十王】が一人、虚実の境界線に立ち渾沌を解体する原初の魔王エンマーが、3つのアオにかき消された真実を白日の下に照らしてくれよう――!」
 管理区の廊下に鈴乃宮 燕馬の声が響き渡る。
「先に行ってるわよ」
「待ってツェリさん、説明させて。空の『青』と海の『蒼』と緑色は『碧』ともいうから仮想世界を指して――」
 ツェツィーリア・ボーゲンの冷たい視線は中二病に容赦なく注がれる。
「……いや、なんでもないです」
 燕馬は早足になったツェツィーリアを慌てて追い掛けた。
 防衛司令部はトワイライトの襲撃をまだ捕捉できていないため、防衛司令官のルーカス・ベルトーニとの面会は問題なく行えた。
「極秘任務のため事前に伝えられ無かったことをお詫びする」
 燕馬の謝罪に合わせて、後ろに控えていたツェツィーリアがルーカスに資料を手渡す。
 それは存在しない極秘任務にリアリティを与えるために偽造された命令書だった。
「捕獲任務、それもQIとは」
「コードネーム『フェスタ』。各エリアの様々な量子コンピュータに侵入しては、その……悪戯をしていくのです」
 直近の事例として資料にはオサレバトルについて記載されていた。
「そのQIがこのイーサに?」
「ええ、人命に関わる重大事案に発展する前に対処せよ、との命でして――そういえば今日、こちらで試作機の実機テストが行われるとか?」
 ルーカスの視線が鋭くなる。燕馬は小さな違和感を覚えた。ルーカスの反応は驚きであり警戒だが自分に対してのように感じる――だがすぐに剣呑な気配は消えて実直な軍人の顔に戻った。
「すぐに担当者に伝えましょう」
「量子ネットワークへの対処も必要かと。対QI装備は整えておりますので設置許可を頂けないでしょうか」
「そちらも担当者に確認を取りましょう」
 ツェツィーリアの提案にルーカスは頷いて司令部内の防衛隊員に素早く指示を飛ばすと、イーサの量子ネットワークに最大の権限を持つアゼルに現状報告を行った。
 防衛隊員の操作で実機テストの現場がモニターに表示される。
『うぉぉぉ、離せっ! 取り押さえるのはこっちじゃない!』
 映像内で世良潤也が用意した機体に技術者が集まっていた。未来の機体であるラースタチカの異常性にこの時代の最新技術に触れる者達が気付いてしまったのだ。
「まあ他にも介入者は居るわよね。再現としてこの日が選ばれた理由を見付け出しましょうか」
「ああ、ホワイトダニットを解き明かすぞ」
 ツェツィーリアと燕馬は過去のイーサの人物を最大限に活用して隠された真実へと挑む。



 ガイストの実機テストが行われる工業区に多くの特異者が集まっていた。
 幾嶋 衛司もまたその一人だ。過去のイーサではコネクションを活かせないが、『主任レベルの権限を持つゼスト連合軍少佐』という肩書きはイーサに登録されているため、余程のことがない限りは追い出されはしない。
「大尉、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「はっ! いかがされましたか、少佐」
「正式な軍務ではないので、そう畏まらなくて結構ですよ」
 エドマンド・オールストン大尉は上官の登場を敬礼で出迎えた。
「私が構想中の『調査特化型IF』についてテストパイロットの意見を聞いてみたいと思いまして」
「機密制限に問題無ければ、ジョエル技術中尉を参加させてもよろしいでしょうか」
 衛司は内心の動揺を隠して頷いた。
 特異者の介入でテスト開始は後ろ倒しになり、エドマンドとジョエルとは時間を取って意見を交わすことができた。
「調査用とはいえ戦闘能力を確保しておきたいですね」
「少佐の構想を聞かせて頂きありがとうございます。とても参考になりました」
「……いえ、お礼を言うのはこちらですから」
 ジョエルの感謝に衛司は頬を掻く。元々は未来のジョエルが考えた試作機なので、過去のジョエルにとっては衛司が自身の上位互換のように感じられるだろう。
 貴重な意見を得られた衛司は話題をガイストに移した。
「あの機体がテスト予定の?」
「はい、よろしければご覧頂けますよ」
「ええ、是非……それと紹介が遅れましたが彼女はブリギット・ヨハンソン、俺の妻で優秀なLDです」
 興味津々にガイストを見上げるブリギットを紹介する。名前を呼ばれたと思ったのかブリギットが振り返り手を挙げた。衛司は軽く手を振り返す。二人の手には絆を示すように結婚指輪が穏やかに輝いていた。
「仲がよろしいようで羨ましいですよ」
 衛司はエドマンドの左手の薬指に指輪がされているのに気付いた。
「大尉は家庭で苦労されているのですか」
「妻には先立たれましてね。今は一人娘に手を焼いています」
 エドマンドから娘の話を聞きながら、ジョエルの案内で格納庫に入ると実体化前のクオンタムコアが並べられていた。
「……特に問題は無いですね」
 衛司は参考にクオンタムコアの解析をさせてもらったが、ユニの入念な最終確認と同じく問題は見付けられなかった。
「この機体、あたしも乗ってみていいかしら?」
 ブリギットはグランザクスを構えて近接戦闘を得意であることをアピールする。
 この時代のゼストは空を奪われていないため近接戦闘の発生は稀であり、近接戦闘を得意とするブリギットは貴重な人材として歓迎された。
「まだテストが進んでない状態だよ。何が起こるか分からない」
「エージくんは心配性だね。調べて分からないなら乗ってみるしかないと思うの」
 ブリギットの好奇心は衛司の制止を押し切った。
 事故か事件か、疑念の渦巻く中で遂にガイストの実機テストが開始される。


『エドマンド大尉、お相手願えますか』
 朔日 弥生は動作確認を終えたエドマンドの前に立ちはだかる。
 アドミンのサポートで模擬戦を組み込んだので堂々と介入できた。
『両手に剣、相当な物好きもいたものだ』
 弥生の機体は両手にエンジェリックソード。時代を考慮して色や装備を愛機に合わせた訓練用IFを『試作ベオウルフ』として操っていた。
 対するガイストの装備は右手に実体剣、左手にショットガン。
『斬り合いに付き合いところだが悪く思うな』
『銃弾の雨、踏破して見せましょう』
 戦闘開始の合図代わりにガイストが散弾を放つ。
 弥生は屈み込みながら追加ブースターも含めてすべて最大出力。地を這うような低空飛行で前進。回避し切れない弾丸は両手の剣で薙ぎ払う。
 ショットガンの迎撃を突破して、遂に剣の間合いまで踏み込んだ。
『二本の剣ははったりではないか』
 この日に起きた悲劇の正体は判明していない。既に回避したのか、これから起きるのか、介入した自分こそが原因となってしまうのか――いずれも分からないが、一つだけ分かるのはこの勝負、此処から先に雑念の入る余地は無い。
『――参ります』
 弥生は振り下ろしの刃をスラスター制御で加速させる。
 片手では対処仕切れないと判断したエドマンドは、早々に銃を手放して両手で剣を握った。双剣の連撃を防ぐため両腕の膂力を活かした重い一撃で刃を弾き返す。しかし弥生はスラスター制御ですぐさま体勢を立て直すと無理矢理に連撃を放った。
『一筋縄ではいきませんか』
 弥生の剣は腕部の仕込み刃に受け止められていた。
 下がればバルカンの追撃を受ける。このまま密着していれば仕込み刃の餌食になる。どちらを選んでも損傷は免れない。
『ならば斬るのみ』
 ブースターを短く吹かして、ガイストの頭上を回転しながら宙返り。追い掛けてくるバルカンを両手の剣を振るって防ぎながら背後へと回り込む。着地の反動を使って右手の剣を振り上げた。
 背部の仕込み刃に阻まれるが予想通りだ。
 弥生は弾かれた剣を手放して残った剣を両手で握り込み、スラスターで勢いを乗せた刺突を放った。
『思い切りが良いな』
 手応えが無いことに気付き、弥生はすぐさま剣を放棄して後退、先に手放した剣を拾い上げた。
 エドマンドは精密な機体制御で脇の間に刺突を通していた。躊躇していれば刺突で伸びきった腕部を破壊されていただろう。
 体勢を立て直して、それぞれ一本の剣を構える。勝負はまだまだこれからだ。
『まだ初日のテストですよ。無茶な機動で万が一があったらどうするんですか?』
 ユニの静かな怒りが無線を通して二人に届く。それは模擬戦終了の合図となった。


 滞りなくテストが進んでいくにつれて、真実を追い求めた特異者達は一つの大きな失敗を悟る。
 衛司は二機のガイストがテストを無事に終えることを確信した。
「この日“事故”は起きない」
 メアリは三人の少女がテストを見守る横で瞼を閉じた。
「“事件”であるならば、それを起こさぬ選択肢もあるからのう」
 燕馬とツェツィーリアは平穏無事な防衛司令部で短く視線を交わした。
「俺達は上手くやった」「ええ、私達は上手くやり過ぎたわ」
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