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<スカイドレイクII>混沌の坩堝

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<スカイドレイクII>混沌の坩堝
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~ 久方ぶりのランデヴー ~

「さ。あんないい加減な女(ひと)なんて置いといて、あたしと一緒に行きましょ?」
 拗ねたようにつんとした態度のままで、ジェシーは遅れてカフェから出てきたナーディヤの手を取ると、シテの街並みへとくり出していった。見知らぬ言語で溢れた街に怯えるナーディヤからすれば、ジェシーの細いけれども胼胝だらけの手の温かみだけが、今の唯一の拠りどころ。不安げな瞳で後ろをふり返る――彼女を拉致同然にこの五島連合の玄関口、シテ・ヌーヴェルまで連れてきてしまった美女は、けれども何もかもを見すかしたかのような微笑みを湛えたままだ。
 悪かったわ、ジェシー――此方の時間で5年前、置き手紙ひとつでの唐突な別れは、宵街 美夜とて本意であったわけもない。けれども、それが今の彼女の奮起に繋がったというのなら……美夜としてはいつかは去らねばならない特異者の定めにも、多少の人心地くらいは感じるものだ。

「あらジェシー。あちらの服は必要なくて?」
 言葉の通じぬナーディヤをエスコートして、彼女のここでは薄着すぎるワーハ風の装いを見事なマドモワゼルに変えてしまったジェシーへと、美夜の悪戯っぽい笑みが投げかけられた。あれ、何か忘れてたっけ……ジェシーが美夜の視線の先を追ったなら、少し先の売り場のトルソーが身につける、レースのランジェリーが目に入る!
「ええっと、そういうのは、その……」
「だったら、私が見立ててあげるわ」
 ジェシーがどぎまぎとしている間に、美夜は手馴れた様子でランジェリーを選んで、きっと気に入るわ、と2人にプレゼントしてみせた。普段のジェシーからすれば大胆すぎるそれは、けれども今宵のことを思えば、きっと不可欠な装いだった。

 シテの夜景を一望できる『ル・エトワール』といえば、この天空の世界では絶滅危惧種同然の牛肉を50年物のワインとともに楽しめる、最高級の店のひとつであろう。そして、何よりもこの店のホスピタビリティを物語るのは、美夜がワーハからの大切な客人をもてなすためだと伝えれば、ナーディヤが他の客の視線を気にせずにテーブルマナーを学べる個室を、喜んで用立ててくれるということだ。
 即席のマナー講座につきっきりの美夜は、ジェシーにしてみれば物足りない“埋めあわせ”。けれども美夜がそうしてやらなければナーディヤにはどこにも居場所なんてないことくらい、ジェシーだって痛いほどよくわかってる。だから……。
「あの子が寝たら、その後くらい……」
 2つの世界の時間の流れの差のせいで、もうすっかり年上になってしまった中堅ドラゴンシーカーは、5年前と変わらぬ美夜に、甘えたような顔をしてみせた。
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