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イルミンスールの冒険~ウィール遺跡と二人の少女~後編

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イルミンスールの冒険~ウィール遺跡と二人の少女~後編
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■“風の精霊”セリシアに力を示せ!【1】

「やれやれ。この森は存外、障害が多いのぅ」
「のんきに言わないでほしいですぅ。こっちは一発もらったらおしまいなんですよぅ?」
 ちょっかいを出してくる野生生物を魔法で退けつつ、エリザベート・ワルプルギスが同じように応戦するアーデルハイト・ワルプルギスをジト目で睨みつける。
「なぁに、そうそうやられる私たちではあるまいて。……尤も、こうしていては生徒と精霊の手合わせが終わってしまうかもしれんな」
「それは困るですぅ!」
 そうしている間にも、二人を囲む包囲網が形成されつつあった。機動力を奪われてしまえば耐久力は紙以下である二人は絶体絶命の危機に陥る。

『!!!!』

 その時唸り音をあげ、シャンバラで幅広く使われるようになった軽トラックが突っ込んできた。
「乗って!」
 荷台で重機関銃を撃ち回すのは、『ウィール遺跡』探索前日にイルミンスール魔法学校校長室で顔を合わせた七種 薺。エリザベートとアーデルハイトはこれ幸いとばかりに荷台に飛び乗る。
「うりゃりゃりゃりゃ!!」
 ばらまかれる弾丸に、追撃の手が緩む。やがて彼らを追うものは居なくなり、軽トラックは一路、ウィール遺跡を目指して進む――。

「……なんてこった。ババァ無理すんな」
 助手席に乗り込んだアーデルハイトの姿を見て、ドン・フレイムバックが顔に手を当てながら天を仰ぎ、すぐに項垂れて首を振ってから言った。
「うるさいわい! なんじゃ、普通に喋れるではないか」
「流石に運転中に筆談というわけにいかないからな。……ま、そうか。それなら、な」
 一人で何か納得したような頷きをするドンに、アーデルハイトが疑問符を浮かべた。

「えっと、エリザベートさん……より校長先生、の方がいいのかな?」
「なんでもいいですよぅ。どうしました?」
 視線を向けてきたエリザベートへ、薺が質問をぶつける。
「私は飛び道具が好きで今も銃使ってますけど、銃も魔法も集中力が大事って聞きました。
 実は撃ってると時々何がなんだか分からなくなっちゃうことがあって……。校長先生が魔法を使う際に注意してること、大事だと思うことってなんですか?」
 ふうむ、とエリザベートが考え込み、そして口を開く。
「目を逸らさないこと、ですかねぇ」
「目、ですか?」
「そうですぅ。私は目を瞑っていても魔法が使えますけど、ちゃんと見てるんですよぅ」
 エリザベートの説明は薺には難しかったらしく、疑問符を浮かべていた。それでも彼女なりに咀嚼した結果、撃つ時は目に力を込めて撃とう、と心に誓ったのであった。

「ババァは子育て、したことあるか?」
「なんじゃ藪から棒に。……私の手で、というのであれば無いな」
 アーデルハイトの答えにそうか、と頷いたドンがどこか遠くを見るような目つきを見せて言った。
「わしは……恵まれた家だったとは思うが自分から捨てた。その生き方を後悔しちゃいないが、今ならとんでもねぇ親不孝だったことも分かる。親に……家庭に恵まれなかったチビどもを育てたのもそんな思いからだ。
 子供は未来をつくる、そしてそれを導くのは大人の責任。両手で数えられる程度でも四苦八苦したわしからすりゃあ、学校なんてもん背負ってることは純粋に尊敬に値する。……だからこそこれは冗談じゃなく言うぞ、無理すんなババァ」
 いつもなら軽く返す所だが、アーデルハイトは無言のままドンの言葉を受け止めた。
「一人で無理なら二人三人と手を組みゃいい、やらせたくない出来ないとは言わせんぞ。未来紡ごうって連中の手本になれなくて何が大人だ。そして何より、ババァの背中を誰よりも近くで見てるあの嬢ちゃんに、「自分が犠牲になれば」なんてこと覚えさせるんじゃねえ」
「まるで何かを見てきたような口ぶりじゃのぅ。……いや、おまえたちは見てきたのじゃったな、大千世界の旅人として」
 ここには居ない葵 司も、薺も、出身はパラミタとは別の世界だ。
「わしはパラミタ出身だがな。っと、見えてきたぞ」
 ドンが示す先に、ウィール遺跡が見えてきた。


■ウィール遺跡・中央部

 風の精霊セリシア・ウィンドリィの放った電撃が、小型の飛空艇に搭乗した弥久 ウォークスのすぐ横をかすめる。
「これほどの正確さ、そして威力、とても弱っているわけでは無さそうだな」
 対峙前の思い込みを改め、目の前の相手が強敵であること、そしてその強敵と戦う覚悟を決めたウォークスが光弾で応戦する。それらはセリシアに容易に防がれるが、真の目的は痛打を与えることではなく、自身に注意を引きつけることにあった。
(ラミル、頼んだぞ!)

「うぅ、頭が痛い……やはりこの棺は大嫌いじゃ。
 だがこれも、ご主人様……コホン、ウォークスの為じゃ」
 ラミル・ユースフェードが専用の装甲――ラミル自身はこの装甲を身に着けることをひどく嫌っているが――を活かし、セリシアの周囲に爆破攻撃用の工作を仕掛ける。自分への攻撃はウォークスがセリシアの注意を引きつけているのと、装甲を閉じればただの箱に見えるという点から来ないだろう、と思っていた。
「よし、これで準備万端じゃ! 待っておれウォークス、今行くぞ!」
 そして工作を終え、拳銃サイズの銃器をウェポンラックから取り出し、背中にフライトユニットを展開してラミルが飛び立とうとした直後。
「ぎゃーーー!!」
 頭上から降ってきた電撃の直撃を浴びてしまう。箱のふりをしたところで異物であることに変わりは無いため、隠れ身の効果は無いも同然だった。
「ぐぬぬ、知られていたというのか、わしの行動が!? ――ハッ!? ということは――」
 ラミルがそれに気付くのと、セリシアの放った電撃が工作箇所を撃ち抜くのは、ほぼ同時。

「ラミル!? うおっ!?」
 電撃を落とされたラミルに注意を向けた事で、ウォークスは飛空艇に電撃の直撃を受けてしまう。盾を地面に向けることでダメージを最小限に食い止め、素早く起き上がったウォークスがラミルの元へ駆ける途中、目の前で爆発が生じた。
「うぉぉぉぉ!」
 押し寄せる爆風に負けず、ラミルの傍へ駆け寄る。閉じていた装甲が開かれ、拘束が解けたラミルが地面に倒れそうになるのを、ウォークスが受け止める。
「大丈夫か、ラミル!」
「……ご主人様……すまぬ、力になれなかった……」
 申し訳無さそうな顔をしたラミルが意識を途切れさせる。一時的な戦闘不能状態から回復させるためには、ここを離れる必要があった。
「外に設けていた簡易救護所なら――」
 虫除けが効果を発揮したままなら、獣に荒らされずに残っているだろう。ウォークスはラミルを抱きかかえ、全速力で遺跡の外へと駆けていった。


「うひゃー。こっそり動いた所で何をしてるかはバレバレ、って感じですか」
 生じた爆発の影響から逃れたフューラ・フローレンティアが前方、未だ涼しい顔をしているセリシアを見据える。
「しかも投射・拡散に加えてポイント雷撃。地上から空中へ撃たれようものならいよいよ『当たらなければどうということはない』と言えなくなってきますねぇ!」
 セリシアの視線がフューラを捉え――上空に生じた魔力点から雷撃が放たれる。回避を続けるうちにどうやら、セリシアの掌以外の魔力点は上空にのみ生じていることがわかった。
「だったらまだ、鎧の飛行効果で三次元的に動けばなんとかなりますかね!」
 装着した鎧の翼のようなパーツが、フューラを短時間ながら宙に浮かせる。雷撃に対し直角に避けることで回避は安定してきたが、ここから攻撃を仕掛けるとなると、フューラ一人では荷が重かった。
「どうしましょうかねぇ……」
 あまり難しいことを考える性分ではないのですが、と呟きつつ回避行動を続けていると、一陣の風が吹き抜けるのを感じる。それはただの風などではなく、セリシアの視線が向いていない場所へたどり着くと、ライフルによる銃撃を行った――。

(サティナもヴァズデルも、共に単体戦力は高い。だが連携を踏まえて考えれば、最も脅威なのはセリシア)
 壁に張り付いたアルヤァーガ・アベリアの観察眼が、総合的な判断の末にセリシアを一行の要と決定する。本人の戦闘力もさることながら、サティナの弱点を補ったりヴァズデルの攻撃を強化できる点が重要だった。
(セリシアとサティナ・ヴァズデルの連携を絶てば、こちらが有利に戦えるだろう)
 天井……の代わりに伸びた蔦を伝い、地上を見下ろすようにしてセリシアとサティナ、ヴァズデルの距離を頭の隅に記憶する。三名が個別に相手をしなければいけない状態を長引かせられれば、腕試しとしては十分だろう。
(自身が連携の起点となることが多いが故に、どうしても周りに注意を向けることが多くなる。その隙を突いて死角に回り込むのは容易い……が、忘れてはいけないのはこのフィールドがセリシアにとってのホームという点だ)
 足場に利用した蔦が、センサーのようにセリシアにこちらの位置を伝えている可能性は十分にある。故にアルヤァーガは足元に設けた足場を活かして接触を最小限に留め、セリシアが完全にこちらの居場所を掴めない状態を作り出す。
(後はどこまで近づけるかだが――)
 できればゼロ距離まで近づいて攻撃を仕掛けたかったが、セリシアの視線が自分に向けられたような気がしたアルヤァーガは咄嗟にライフルを構え、魔力で強化された弾丸を撃ち込む。大きな初速を与えられた弾丸がセリシアを襲うが、直前に伸びてきた蔦にすべてがめり込み、セリシアへは届かなかった。
「戦闘の序盤でしたから気づけましたが……終盤で同じように振る舞えたかどうかは、怪しいですね」
 だがセリシアは十分に、アルヤァーガの行動を称賛していた。

「おぉ! お仲間さんが攻撃を仕掛けている今が好機! 投射攻撃は避け拡散攻撃は……気合いでなんとかしましょう!
 覚悟を決めていざ吶喊! ばっさりじゃー!!」
 大きく息を吸って、フューラが地面を蹴って突撃を敢行する。先程のように防がれようとも、せめて一太刀食い込ませることができれば及第点。
「どおりゃぁーっ!!」
 刀の重さで潰すように振るう、これならば弾丸のように防がれても力技で蔦ごと潰せるかもしれない。
「迷いのない攻撃、好ましく思います」
 微笑んだセリシアがアルヤァーガの時のように蔦で刀を受け、そのまま力比べ……ではなく蔦に電撃を通す。
「あばばばばばば」
 刀を通して電撃を通されたフューラが痺れ、電撃をまとった蔦で弾かれる。激しい電撃音と共に後方に飛ばされたフューラが地面に叩きつけられる前に、メイド姿の英霊が駆け寄り彼女を支えた――。

「はわわ、怪我してるですか? 治癒魔法が必要ですか?」
「……外傷は見られませんね。ショックで一時的に気を失っていらっしゃるようですので、安全な場所まで移動させましょう」
 おろおろ、と心配な様子を見せる土方 伊織サー ベディヴィエールが微笑むことで安心させ、二人でフューラを安全な場所まで運んでいく。
「お話に来たのに、何で戦うことになってるですかー……」
「お嬢様のご気性は、心得ています。……私個人としては少々残念ですが――いえ、何でもありませんよ?」
 伊織の視線からベディヴィエールが丁寧に逃れ、伊織が頭に疑問符を浮かべた。
「戦いが終わったら、ちゃんと話し合いになるのですよね?」
「確証は持てませんが……交渉事に長けた方もおいでのように思います。お嬢様が心配なされるような事態には、そうそうならないと思いますよ」
「そうだといいんですけど……」
 互いの力を知るための手合わせのはずが、殺し合いにまで発展してしまったら本末転倒である。
「あるとすれば、ここに居ない第三者による介入でしょうか。たとえば鏖殺寺院の方々が私達と精霊との相討ちを目論むことも、考えられないわけではありません」
「そ、それは困るですぅ」
「ええ、ですので周囲の警戒は、怠らずに参りましょう。無粋な真似をなさる方への対処は、お任せください」
「た、頼りにしてますぅ。……僕は精霊さんたちの言うような力を示せていないかもしれないですけど……皆さんが――もちろんセリシアさんサティナさんヴァズデルさんもです、傷つくのはいやー、ですから」
 やや自虐的に呟く伊織に、ベディヴィエールはそんなことないと思いますが、と告げた。ただ戦い勝利するだけが力を示すわけではないことは、長く兵站の場に身を置いてきたベディヴィエールが熟知していた。怪我をして戦闘続行が難しくなった戦士をいち早く救出し、適切な治療を施すことは集団の戦闘力の維持に繋がる。いわば自分の力が集団の力として示されているも同じことなのだ。
「ほぇ? そーいうものなのですか」
「はい。ですのでどうか、ご自身の行動に自信をお持ちくださいませ」
 ベディヴィエールが微笑むと、首を傾げつつもほんの少し、伊織も微笑んだ。
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