~ 神話時代の終わり ~
「あー、あー……わしらがカミさん――カミさん言うても嫁はんやあらへんで、怒ったら怖いのは同じでも――の御使いやなんて、買いかぶりもええとこや」
蝋燭の炎が神妙に照らす空間に響いた声は、場違いなおどけた声だった。
試練に向かった者たちが退出した後も、広間には威厳ある象頭の大王を筆頭に、抜け目ない猿頭のバラモン――神官たちが並んで目を光らせている。しかも、協力を要請するため押しかけてきて、頭を下げねばならないのは自分たちのほうなのだ……そんな中で空気も読まずに好き放題喋り散らかすとはこの
松本 留五郎という男、どれほど肝が据わっているものだろうか? もしも彼らの不興を買えば、決してただでは済まされないぞ……心配性じみて何やらぶつぶつ呟く
クラウディオ・トスティの内心にもかかわらず、留五郎の独演会はまさに留まるところを知らぬといった風だ。
けれどもこうした外来の異物こそ、神秘の中に安寧を貪る島々を、大きく変えるものであるのかもしれなかった。
否、それは決して留五郎に限った話ではあるまい。かつてこの島を襲ったという
“騎竜帝国”オルド・ハンの軍勢も、この島を訪れた特使艦隊も、全てそうした客人
(マレビト)たちのひとりであることだろう。
今、この
“神秘の島”ナヴァアーラヤは、歴史の岐路に立たされている。すなわち――
このまま誰とも関わりを持たずに、神話そのものの生活を続けるか。
それとも広く世界と交わることで、いち国家として歴史を始めるか。
けだし、その答えは誰かに強制されるものでなく、彼ら自身が選びとらなくてはならぬに違いなかった。しかし、彼らがこの“雲龍世界”の歴史の中で、おのずとそれを選ぶ時期に来ていることだけは真実であろう。
ならば、特異者たちはつまびらかにするだけだ……その選択肢がはたしてどのようなもので、選べばどのような未来が待っているのか、と。