- 夜襲 -
その夜、ニュートラファルガー空港は騒然となった。
さしもの地上教団の活動に備えた警備体制も、確たる意思を持って内から崩す者の存在までは考慮せぬ。否、そこには軍に次ぐ――状況によっては軍をも凌ぎうる戦力を有するドラゴンシーカー・ギルドに正面から挑まんとする犯罪者などいるはずがないとの慢心が、警備に綻びを与えていたのかもしれぬ。
とにかくこの時この場所で、不意を討たれた哀れなドラゴンシーカーが、停泊してあった中型飛空船を奪われたのだった。
「くそっ! 誰か――」
頭から血を流した男が犯人の男にかけ寄ろうとするも、目の前に長銃にして長弓なる武器の先端を突きつけられたなら、その場で足を止めるほかはない。
「恨むなら、テメェの弱さと間抜けさを恨むんだな」
犯人の男は凶暴そうな笑みを浮かべてみせた。
「なぁに、ギルドの犬に持たせとくよりは、よっぽど船を活用してやるさ」
それから先に船に乗らせた部下らしき女たちに何やら命じて……直後、船のエンジン音が高鳴って、ふわりと宙へと舞いあがる。
異変に気づいた周囲の者たちも、慌てて船を準備しはじめた。けれども恭也からしてみれば、こんな処で足止めなど受けてやる暇はない。
船は、一目散に天空へと消えた。もう、今からでは到底追いつけない……。
この日、ひとりの特異者ドラゴンシーカーが、その名をギルド名簿から抹消された。
柊 恭也。
それは同じ日、新たに各国の指名手配犯リストに追加された名前でもある――。