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雲龍世界探訪

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雲龍世界探訪
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- 飛竜襲来 -

「ひあああああ!!? グラってした! 今グラってしたよ直也さぁん!?」
 唐突に抱きついてきた千晶の肩を、しっかりと抱き返してやりながら、直也の瞳は窓の外を凝視した。
 空の向こうには幾つもの羽ばたいている影。一見、鳥のようにも見えたそれらが飛竜であったことに気づくと、直也は自分の体で千晶の視界を遮るようにしながら、最も安全そうな船体中央の区画へと彼女をエスコートする。地球にいた頃に乗っていた船が沈む事故を体験し、以降船という船がダメになったという千晶が空港で怯える姿は、直也も実際に目の当たりにしている。
『私は迎撃体制を整えとくから、白野はリア充らしく榛名さんを守ってあげて!』
 そんなアヤの声が無線を通じて直也の耳に飛びこんでくれども、彼女の姿はもう見かけない。彼女は甲板の上か、はたまた自身のエアバイクの上か。とにかく、彼女のできることをしに行ったのだろう……。



 騒然となる船内に比例するかのように、船外にも互いに怒鳴りながら情報を伝えあうドラゴンシーカーたちの声が、騒がしく響きはじめていた。
 思い思いの軌道を描きつつ、目の前を妨げる未知の巨大飛行物体に興奮しながら迫りくる飛竜たち。彼らの動きを彼らの動きを慎重に目で追いながら、成神月 鈴奈は自身を射撃要員として雇ってくれた先輩ドラゴンシーカーの言葉を、改めて反復しなおしていた。
『奴らは人が住まないような小島に巣を作って、集団で近くの空域に狩りに出かけるんだ』
 その性格は獰猛で、鋭い歯と尾の棘を使ってスカイフィッシュの群れも浮遊樹も喰らいつくしてしまう。小さな植民島が彼らに襲われ、人や家畜に犠牲が出る事件の歴史は、人類の島外進出の歴史とも重なるが……この辺りではそんな被害とはご無沙汰だった、ひと月ほど前、とある大型船が帆を半分持っていかれるまでは。
 そんな凶暴な敵を前にして、鈴奈は迷いなく『The・Antimatter』を向けた。その強い眼差しに秘めたるは、我が身を惜しまぬ無謀さか? 否、彼女は恐れ知らずが祟って船と運命を共にした、幾多のドラゴンシーカーの轍を踏んだりはしない……人星機等愛の世をこの世界でも実現するために、銃は氷の弾丸を放つ!
「ギャァァァッ!!」
 羽ばたいて回避を試みた1頭の飛竜が、突如として錐揉み落下を始めた。彼に人並みの知性があったなら、きっとこう思っていたことだろう――確かに、氷を避けたはずなのに、と。
 だが弾丸は空中で一旦軌道を変えて、違うことなく彼の弱点、すなわち飛行するための翼を貫いたのだ。
 無論……それだけで飛行機能を喪失するほど、生物の体は余裕なく作られてはいない。けれども翼の穴を中心に、氷とマナ攪乱の力が広がっていったなら……?
「いいね姐さん! 是非とも正式にウチに加入してくれ!」
 鈴奈の足の下で小型飛空船を操縦するドラゴンシーカーは、ガッツポーズを決めながら機体を旋回させた。その上で鈴奈の瞳は次の敵を見据え、再び“治させない為のギア”の照準を合わせて引き金を引く……。



 ざん、という乾いた斬撃音とともに、飛竜は片翼を失って雲間へと消えた。とび散った血飛沫が操舵室の風防を汚し、風防の中では驚いた顔の中年ドラゴンシーカーが、操縦桿を握ったままでしばしの硬直時間を過ごす。
「……って、しまった!?」
 呆然としていた代償は、すぐに別の飛竜の前におどり出てしまうという失態によって支払わされることとなった。思わず舵をぐいと切り……そういえばどこぞの大馬鹿者が、船の屋根の上で切った張ったしていたことを思いだす!
「落ちててくれるなよ……!」
 またもや悲鳴を上げた操縦手ではあったが、そんな心配は必要がなかった。エリル・アライラーの騎士であり侍でもある剣術の構えは、多少の足場の悪さなどものともしない。
「もっと近づいてくれていい」
 エリルの無茶な要求に、操縦手は必死に喰らいついてゆく。老いた人は若い頃は無茶をしたとしみじみ語るものだが、まさか飛空船で飛竜ギリギリを掠めて飛ぶなどという無茶、彼の40余年の人生で初だったに違いない。
 再び飛竜を斬り捨てながら、エリルは新たな残心の構えを取った。飛び道具があれば、などという泣き言は必要がない。飛竜の群れが現れた方角――今も群れの中心がある東の空を時おり見据えながら、彼が思うのはたった1つだ――たとえ飛竜が現れるようになったと知ったところで、飛空船乗りたちは各島を支える通商を止めぬため、自分の仕事に命を捧げているのだ。その覚悟に報いて道を切り拓くためならば、要るのは無い物ねだりではなく我が血塗られし剣!
 そんなエリルに恐れをなしたのか、飛竜たちは彼に近づくのをやめて、遠巻きに様子を見はじめたようだった。
 操縦手は、それに追いついてゆくので精一杯……飛竜をこちらに追いこんでくれるよう誰かに託さねば、エリルの剣は飛竜には届かない……。

 だが飛竜たちの一角が騒ぎだし、四方八方へと散らばっていった。その動きの中には不用意にエリルに近づくものもあり、その混乱が見てとれる。
 次は……別の一角。
 その乱れを生みだしていたのは、壬生 杏樹の放った矢。確かに大型船付属の大砲と比べれば、弓矢は威力も射程も勝りはしない……けれども、とり回し、静粛性、そしてギアの力で極限まで高めた高速かつ精密な射撃は、大砲と異なり狙われていることに気づいた時点で手遅れ! 避けるには、『彼女の顔の向く方向を飛ばない』くらいしか術がない!
「ここに現われるのにはなにか理由があるんだろうけど……私たちも引けないんだ、ごめんよ!」
 あまりに高速化させすぎた動きのせいで、弦との摩擦を受ける杏樹の指の皮膚が、次第に赤みを帯びてゆく。それを代償に彼女が得た知見のひとつは……海上と異なり空中での射撃では、船の揺れや左右の風ばかりではなく、上下の風も考慮に入れなければならぬということだ。ただ、いちどその事実に思いあたってしまいさえすれば、彼女ほどの特異者ならば補正をかけることなど難しくない。
(これが『空の旅』に必要な戦い方なんだね。知らないことばかりでワクワクするよ……!)
 そんな好奇心を満たす世界が目の前に広がっていたならば、杏樹は疼きはじめる指先の痛みも決して気になりはしなかった。それでも痛みを感じぬというだけで、悲鳴を上げる体は少しずつ、彼女の攻撃から正確性と頻度を奪いゆく。
 だから最初は彼女を警戒して右往左往していた飛竜らも、次第に大胆に彼女を攻めたてるようになっていった。2頭、3頭……次第に増えてゆく彼らを相手するには、1頭ずつでは間にあわぬ!
「だったら……これでどう!?」
 矢筒から複数本の矢をとり出す杏樹。そしてこれで打ち止めになるのも構わずに、一気にそれを放ったならば――。



 それでも倒しきれなかった飛竜の一部が、交易船へと群がっていった。そこには飛空船を持たないドラゴンシーカーたちが乗りこんでいるといえども、彼らは交易船の甲板で戦うか、せいぜい命綱を垂らして側面を守るくらいが精一杯であろう。
 他にも甲板上は、傷ついて帰還したドラゴンシーカーたちとその船でひしめいていた。
「畜生め……奴ら、俺と船を遠慮なく噛んでいきやがって」
「ヤバいな……今回の報酬がこれだけで、船の修理費が……」
 そんなドラゴンシーカーたちの嘆きの声が、これから戦う者たちの士気を下げてゆく。自分は飛竜に勝てるだろうか、たとえ飛竜に勝てたとしても、船ごと落とされれば全ては終わりだ……。

 けれどもそんな彼らの頭上に、何かが大きな影を落としたのだった。
「私にお任せくだされば……そんな心配、ふっ飛ばしてさしあげますわ」
 太陽を背に仁王立つ巨大な人型の威容は、松永 焔子のスチームアーマーのもの。黒光りする全身から白い蒸気を吐きだして、鎧は恐るべき駆動を開始する!
 かっと輝く光の十字。濃厚な光マナにて生みだされた力は、飛竜たちの翼に宿る風マナを灼く。はらはらと雲の上へと落下してゆく仲間を目撃し、飛竜たちは船から距離を取る……けれども。
「……その程度で助かったと思われても困りますわ」
 蒸気鎧が剣を抜き、それを1頭の飛竜に向けて伸ばした。『焔龍』と名づけられたその剣の分厚い刀身は……次の瞬間変形し、中から大型の砲口の姿を露にする!
 莫大な衝撃波と熱量が排出されて、砲口は赤く輝く火山弾を放った。ちょっとした鋼鉄くらいなら質量と高熱とで融解させる大地の力が、まずは飛竜の皮翼を貫き、次に紙切れのように燃えあがらせる……第三の結果、冷却凝固による拘束効果を待つまでもなく。
 燃える飛竜の赤い炎が、眼下の雲の中に消えてゆく。その様子が自ら敗北に囚われていた者たちに、再びの勝利への渇望を呼びさます。すると、さらに続けと言わんばかりに、焔子は蒸気鎧の推進器を駆って、僅かな時間ながら空へと舞いあがる! 彼女は、そして元の姿に戻った『焔龍』は、船体に取りつき喰らわんとする、全ての飛竜を蹴散らすための剣!

 ドラゴンシーカーと特異者たちの戦いの末、多くの飛竜が雲の下に落ち、残りの者たちも諦めて逃げていったのは、それからしばらくしてのことだった。
 プシュー、という蒸気の抜ける音とともに鎧の中から少女の姿が露になれば、多くの者がその正体に驚き、口々にあれは何者なのかと囁きを交わす。
「私を雇ってみませんか? いい仕事をしますわよ♪」
 誰もその焔子の言葉を疑うことはなかったが……けれども人々が彼女に声をかける勇気を得るには、少しばかり時間が必要なようだった。
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