〈プロローグ――久留里城――〉
「その者」は、人目を避けるように物陰に身を潜ませながら久留里城の宝物庫に忍び入った。
「あの死に損ないめ、いつ死んでもおかしくないと言うのにボロのひとつも見せやしない。あやつらの遺品がこの城内に眠っているのは間違い無い筈なのに、その手掛かりも見せないとは。厄介な異国の連中の手にこれ以上渡る前に見つけ出さなくては……もはや、あの若殿が遺品の在処を喋るのを期待は出来まい」
その者は物音を立てぬよう宝物庫内を物色するが、遺品の入っていそうな箱は見当たらない。
そればかりか、里見家の宝物庫は一国の領主の蔵とは思えない程閑散としていた。
だが、それを目の当たりにしてもその者は心を痛めたりはしない。
「その者」の心は常に、里見家よりも亜羽和瑳よりもその他の何よりも信奉する絶対的存在によって占められているのだから……。
「戦場に向かう援軍には死獣を差し向け足止めしておいたが、まさか沿岸の城に死兵が来るとは……法正様は、私の根回しだけでは余程不安だったのだろうか……。ならば、せめて土産のひとつも見つけてご安心させなくてはな」