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ラ・ベルメール ~再び出張出店の一日!~

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~芥川 塵とスティア・アメリアスフレークの一日~

午後も半ばになり、ますます活気付く湖の街を、陽気な楽隊のマーチが更に盛り上げる。
人波と喧騒の中にあっても、芥川 塵は自分のペースを一切崩す様子はなかった。勿論、歩くペースや歩幅も常に一定で、通り過ぎ際に誰かと肩がぶつかる、といった事は一度も無い。
休暇中とはいえ、彼の身のこなしは実にしなやかで隙がなかった。多くの観光客が親しい友人達と過ごすその中で、塵は只一人、単独の自分を満喫しているかのように見える。
(リラックス時は、誰にも邪魔されず。自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……)
実際、今の塵の行動に干渉できるとしたら、彼が自ら声をかける出店の売り子や、露店の主人くらいのものだろう。
なにせ、先程から後方を密かに歩いていたスティア・アメリアスフレークの姿すら、塵は記憶の彼方に置き去りにしていているのだから。
(何か土産になりそうな品があるだろうか)
 塵が最初に訪れたのは、バザーの中でも特に女性が好みそうな小物や、アクセサリーの露店が並んでいるエリアだ。恋人の贈り物を選んでいるのである。
(装飾品用の小物入れか……。今日の記念になりそうだな)
塵が見つけたのは、ラクスの湖のように澄んだ青色の陶器だった。アクセサリーボックスとしても部屋に飾る装飾品としても、申し分ないだろう。シンプルな楕円形のデザイン。アンティーク調の装飾が派手すぎず地味すぎないので、男性の塵も好感を持った。
それ以外にもネックレスや天然石のブレスレットなど、彼女に似合いそうな品はいくつか見つかったが、熟考の末、塵は自分と恋人用にお揃いの小物入れを購入したのだった。
 お土産が見つかった後は、塵の行動は更に迅速になった。勿論、彼としてはのんびり休暇しているのだが、目的がはっきりしているのでスピーディに動いている様に見えるのである。
塵は飲食店の屋台を一軒一軒回り、両腕に抱えきれるだけの食べ物を購入、それらを飲食スペースへと運び、黙々と食べ始めた。
「わあ、あのお兄ちゃんずっと食べてるよー」
「あの体の何処に入るのかしら……」
すらりとしたスタイルが良い男性が、テーブルに並んだ料理を片っ端から平らげていくものだから、周囲の注目は自然と集まっていた。が、塵本人はまるで気にしていない。
「良い食いっぷりだねえ、にいちゃん! ははは! 頑張れよー」
時にはフードファイトと勘違いした野次馬から野次が飛んでくることも合ったが、塵はそれを涼しい顔で流していった。
食事をしている際も、自分の世界があるのだ。じっくりと味を吟味し、きちんと好みの味の屋台を記憶に止めておくのである。そうすれば、またラクスに訪れた際には同じ店をリピートできるし、恋人に紹介してやる事もできる。
ゆったりとした自分だけの休日を、塵は自分流で楽しんでいたのだった。



(ああ、行ってしまいました……。塵さんは……そっとしときましょう)
共にラクスの広場に訪れたものの、塵が一向に自分を視界に入れていない事を察知したスティアは、早々に自分も単独行動を取ることにした。勿論、置いていかれたからと気にしている訳では無い。塵を自由にさせてあげたいという思いもあった。
「綺麗な色……可愛いですね」
「いらっしゃい、これなんかお嬢さんにピッタリだよ!」
スティアが立ち寄ったのは、塵も先程眺めたアクセサリーを扱う露店のエリアである。とくに若い女性の好奇心を擽る品が多く並んでいた。
スティアはひとつひとつ露店をじっくり見定めつつ、水色と白色、そして金の刺繍が美しいハンカチを選んだ。
愛らしい蒼い小鳥が、雲ひとつなく澄んだ空を羽ばたいている――見ている者の心を慰めてくれるような、優しいイメージがある。仕立てもよく、スカーフとしても使えるだろう。
華美ではないので、スティアの清楚な雰囲気にも似合いそうだ。

 露店巡りに興じた後は、スティアも食事を取ることにした。出店では、サンドイッチや串焼きなど、食べやすい軽食を購入。たまたまラ・ベルメールの飲食スペースに一つ空席ができたので、そこに腰を落ち着ける事が出来た。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりですかー?」
レノがスティアに声をかけたときは、丁度彼女が食後のデザートを食べたいと思っていたときだ。
「私、こちらのお店は初めてで……店長さんのオススメをお願いできますか?」
「ええ、勿論ですよー。初めていらっしゃっていただいたので、コフィアは無料でサービスいたしますねー」
「わ……、ありがとうございます、宜しいんですか?」
「勿論ですー。こうして来ていただいて、とても嬉しいですからー」
 レノはスティアの雰囲気に安心したのかにっこり微笑み、コフィアのお代わりも無料で提供すると約束した。
お互い少し人見知りで引っ込み思案な所があるため、なんとなく親近感を覚えたのだろう。

 艶やかな砂糖菓子が飾られたショートケーキを頬張り、流れてくる音楽を聴きながらゆったりとした一人の時間を過ごす。
品物との出会いも、人との出会いも一期一会。こういう機会を持つのは素敵なこと、そうスティアは思った。

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