三千界のアバター

ラ・ベルメール ~再び出張出店の一日!~

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ラ・ベルメール ~再び出張出店の一日!~
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~葛葉 祓のステージ~

 ――夕暮れ時の橙に、ラクスの湖が染め変えられる。
しかし、広場の来客はまだまだ途絶える気配はない。本日最後のステージを待ちわびる老若男女が舞台周辺に集まっている。
葛葉 祓は、このイベントのフィナーレを飾る最後のパフォーマーだ。
「皆様、ようこそ、奇術師トリックスターの不思議なお絵描きの世界へ~!」
「わあー、”絵”だって!」
「ぼくも見たいー」
舞台へ立った祓は陽気な声で観客を惹き寄せ、シルクハットを外してから一礼した。彼女が奇術師として踏んだ場数は数知れず。ステージでの立ち振る舞い、挨拶もこなれたものだ。
(さぁ、今回もお客様をあっと驚かせ、楽しませましょう~)
観客を巻きこむパフォーマンスは祓の持ち味。巧みな誘い文句に釣られ、子供たちが我先にとステージへ駆け寄っていく。
舞台の脇では、レノが祓の様子をじっと見守っていた。
(祓さん、頑張ってくださいねー)
舞台の上には巨大なイーゼルに立てかけられたキャンバスと、赤・青・黄の色水を入れたバケツが用意されている。
これらはパフォーマンスの相談を受けたレノが、事前に用意した物だ。レノもまた、祓の舞台を楽しみにする観客の一人なのである。
「ねぇねぇ、何を見せてくれるのー?」
「不思議な絵の具で、僕の奇術をお見せしますよ~。好きな動物を教えてくれますか~?」
まず、祓はステージ前に飛び出してきた一人の少年を指名し、質問を投げかける。
「ええと、犬かな! 大きくて毛むくじゃらの!」
少年の返事を聞いた祓は、バケツの水を混ぜ合わせ”茶”の色水を作り出した。【アクア】により編み出された大型犬はくるくる少年の頭上を走り回り、観客を大いに湧かせた後、舞台へ戻っていく。
「わあー、スゴイ! お姉さん、わたしは猫がいいー!」
「鹿は!?」
「鶏も……」
矢継ぎ早のリクエストにも、祓は快く応じた。
観客の合間を縫って疾走する子鹿や、ふわふわ跳ねてぶつかり合う鶏の群れ。気紛れに舞台の上で伸びたり、子供達の足元を擦り抜けて遊んでいる猫。他にも望まれれば、小さな蛙から巨大な熊に至るまで、忠実に再現した。
祓によって命を受けた水は変幻自在に動き、やがてステージ上で一つに収束する。複数の動物達が交じり合い、翼の生えた虹色の馬へと変化を遂げたのである。 
 祓は観客達の拍手と歓声を受けながら、今度はキャンバスの前へ立った。
「何の絵を描くか想像しながらご覧下さい~。一番早く当てた方には賞品もご用意してます~」
まず、祓が混ぜ合わせた色水は茶色。キャンバスの下方にかけて、不規則な線を幾重も描き重ねていった。
「もじゃもじゃがいっぱいで良く分からないね」
「さっきみたいに犬じゃなさそうだし……」
この時点では、まだ観客も絵の内容に気づいていない。
続けて祓は、黄と青の水から緑色を作り出し、一枚一枚”葉”を描き足してゆく。キャンバスに植物の瑞々しい描写が描かれ、いよいよ最後の仕上げだ。紫色の小さな花びらが、白いキャンバスの上に彩りを添えていく。
 祓が描き出したもの。それは額咲きの装飾花――紫陽花だ。
観客達は完成した祓のイラストに興奮し、口々に答えを叫ぶ。その中で一番早く正解を当てた少女に、祓は【生チョコ餅】を贈ったのだった。
「実はもう一つ隠れてるものがあるんですが、分かりますか?」
観客達の視線がキャンバスに釘付けになる。すると、祓はステージ脇に控えていたレノに声をかけた。
「ちょっとレノさん、手伝って下さい~!」
「わっ、わたしですかー? お役に立てるでしょうか……」
「はい~! 勿論ですよ~」
祓は尻ごみするレノに微笑み、手を引いて共に壇上へ上がった。レノは祓の指示を受け、キャンバスの左側を支える。一方の祓は右側を抱え、二人で息を合わせて絵を上下反転させた。その時。
「あっ、見て!」
「あれは……顔?」
逆さになったキャンバスの右上に、紫陽花に隠されていたもう一つの側面が見えてきた。
複雑に入りくねった花の根元に、”人物の顔”の輪郭が浮かび上がる。また、根の周囲に散りばめられた石の羅列には、つぶらな瞳が一つ。祓が紫陽花に紛れ込ませた物は、レノの横顔だったのである。
「これが、僕のお見せしたかったものですよ~」
「とっても嬉しいですー! まさか、わたしの姿を描いていただけるなんて思いませんでした……!」
右上の横顔を指差し、レノに微笑みかける祓。レノは頬を赤らめ、感極まった声で礼を述べた。祓は舞台脇に移動し、【花束】を抱えてレノの元に戻る。
感謝を伝え合う二人に、大輪の花が輝きを添えている。
祓が花束とパフォーマンスに込めた想いは、観客だけでなくレノにしっかり伝わったのだった。

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担当マスターより

▼担当マスター:夕季 麗野

マスターコメント

 
 皆様、お疲れ様でした。
本シナリオを担当いたしました、夕季麗野です。
『ラ・ベルメール』、二回目の出張出店となりました。いつもお店をご贔屓にして下さっているMC様、LC様、ありがとうございます!
そして、今回初めてシナリオにご参加いただきました皆様、初めまして。以後お見知りおきの程、よろしくお願い申し上げます。

 毎度の事ながら、ステージにご参加の皆様には素敵なパフォーマンスを披露していただきました。私も執筆を通して一緒にステージに参加できて、とても楽しかったです。
今後もこういった舞台やステージの中で、皆様の活躍を眺めたいと思っております。
 舞台の楽しさだけでなく、ラ・ベルメールシリーズはやはり、沢山のMC・LC様と交流できる所が特色だと思っています。
お店をお手伝いして下さった方、いつも店主とお話して下さる方、このシナリオで思い出を作っていただいた方……ご参加の皆様から、沢山優しさをいただきました!
温かいお言葉もかけていただき、毎回感謝しています。
このシリーズはこれからも続けていきますので、また皆様とシナリオを通じて交流できたなら嬉しいです。
その時は是非、またお店に遊びにいらして下さいね。

それでは、次のシナリオで皆様とお会いできます事を楽しみに……。

夕季 麗野