三千界のアバター

ワールドホライゾン

冬のバーかいさん

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冬のバーかいさん
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【1】

 本日おひとりめのお客さまは、小さな小さな方でした。
 ドアをノックするこつこつという音が、わずかに店内に響きました。ほかにお客様がいらっしゃったら、気づけないでいたかもしれません。
 カウンターを出てドアを開けてみると、そこにいたのはひよこの姿になっていたサキス・クレアシオンさんでした。小さいポーチを咥えています。
「あのー、ここはバーなんですけど、よろしいですか」
 念のため尋ねてみるとうなずいたので、中に入っていただきました。言葉はわかるようです。
 私もワールドホライゾンでお店を始めて、いろんな方にお会いしてきたつもりでいましたが、ひよこのお客さまがいらっしゃるとは。
 サイズに合った椅子やテーブルのご用意はなく、失礼ながら直接テーブルに乗っていただくことにしました。メニュー表もお出しします。
 サキスさんはメニュー表をくちばしの先でつついて、お通しの柿ピーを注文しました。
「お飲み物は?」
「ピッ、ピピ……」
 とくにご希望はないようです。ひよこでも飲めるものということで、「ユグドラシルのおいしい水」を飲みやすいよう小鉢用のお皿に入れて出しました。
 サキスさんはさっそく嘴を入れて飲み始めてくれます。「小鳥といえば水浴び」というイメージがあったので、おしぼりも広げて置きました。サキスさんは水を飲みながら、ときどき水滴を羽に垂らして遊んでいました。
「ピッ、ピッ」
 柿ピーを食べるたびに、可愛い声で何か伝えてくれます。言っていることはよくわからないのですが、懐いてもらえているようです。私は梟のお面をかぶっていますから、鳥類同士、近しく感じてもらえているのでしょうか。
 ほかのお客さんは来ず、二人、というか一人と一羽で、DVDを流しっぱなしにしている忠臣蔵をぼんやり見ていました。
「私、忠臣蔵好きなんですよねー」
「ピ、ピ」
 やがて赤穂浪士たちは雪の中、隊列を組んで吉良邸に向かい歩み始めます。サキスさんはそれまでよりもどことなく感慨深げにそのシーンに見入っていました。三千界にはいろんな事件があるでしょうから、どこかの世界で似たような経験をしたのかもしれません。
 エンドクレジットが流れだしたところで、サキスさんは横に置いていたポーチを咥え上げました。お会計をしたいようです。私はポーチを受け取り、中からお会計分を取り出しました。
「ありがとうございました」
 私がドアを開けると、サキスさんはよちよちと出ていきました。じつに平和な時間でございました。

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