三千界のアバター

【アルカナ】星の護り手

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【アルカナ】星の護り手
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 小世界【アルカナ】それは世界から選ばれた22人のアルカナと呼ばれる者たち、そしてそのアルカナの頂点に立つ星の王の性質によって世界構成が変化する世界である。
 人々の記憶に残る限り、この世界はオーダリーと呼ばれる平和な世界だった。
 秩序を愛するアルカナ星の王によって選ばれた、光あふれる世界。
 しかしケアティックの王を名乗る者が現れ、その配下のケアティックの者どもがオーダリーの中枢と呼ばれるオルダリア城を襲撃、アルカナを力ずくでわがものとしたことにより、世界構成は一瞬で書き換えられてしまった。
 人々は――特にオルダリアの民はその身をもって――今まさに、絶望とともに理解しようとしていた。
 未知の世界の訪れを。



●市街地

「おいおい、こいつぁ一体何の騒ぎだ?」
 宿を飛び出した柊 恭也は、逃げる人々であふれた通りを見渡して思わず呟いていた。
 時刻は夜中だというのに、やけに明るい。空を茜色にしている光の元をたどれば、炎が吹き上がっている。火事だ。それも1軒2軒といった量ではなかった。では、人々は炎から逃げているのかといえば、それも正確でない気がした。いや、人間にとり炎はいまだ脅威である以上その一端はあるだろうが、火事を克服するだけの力がこの世界の文明には備わっているはずだ。
 そのとき、赤い炎を背に建物の壁を登る虫のような影が見えた。目をこらすとあちこちの建物にその影はあって、屋根の上や壁を歩き回っている。多脚で背高が低く、体節がある形状から蟻か蜘蛛のように思えたが、動きはどちらかといえば機械的だ。そして獣たちはびょんと跳ねるように地面へ向かって飛び、壁を登って再び視界へ現れるとき、人間を牙でくわえていたり、4脚ある足のいずれかに人間を貫いていたりしていた。
「あれは……」
 恭也の視線を追い、同じものを目にした伊勢 日向が絶句する。しかし言いたいことは分かった。
「ああ。まず間違いなく、人的な襲撃だ。この世界についてよく知ってるってワケじゃねーが、あれだけの数の機械獣を所持できるということは、ただの賊じゃないだろうぜ」
「これ程の戦力で国崩しですか? 小国とはいえ今は祭りの最中で、夜でも数千人はいますよ?」
「軍隊を持たない小国だ。
 おまけに宣戦布告もなしの奇襲だ。見ろよ、城からも火の手が上がってるぜ。こりゃこの国の命運は決まったな」
(市街地を焼き払い、民間人を無差別殺戮。こいつらがしてるのは国取りじゃねえ。この国そのものをぶっつぶしにかかってやがる)
 これは草木1本残す気のない戦い方だ。
 抵抗勢力が存在するならばそちらへ助力するのもやぶさかではなかったが――そんな義理はないんだが――現状、それもないならするだけ無駄だ。へたなあがきは力と時間と人命を浪費するだけで、いいことは何もない。
「あいつらがこっちへやってくる前に、脱出するぞ」
 身を翻し、恭也は雷電の元へ向かう。日向も彼に従い、軍用試製高機動車の疾風に執刀の錬金術師とともに乗り込んだ。
「おい。おまえの疾風に民間人を拾ってやれ」
「それはかまいませんが、なぜです?」
「この国の人間のほうが地理に詳しい。逃げる先にも見当がつくかもしれん」
「確かに。
 動けない者は荷台へ乗ってください! われわれが運びます! 急いでください!」
 通りに出、日向は主にけがを負った者やその家族連れを優先して疾風の荷台へ運び入れた。執刀の錬金術師が治療を行う傍らで、動揺に涙ぐんでいる者たちから事情や向かっていた先を聞き出すのを、運転席にいる日向は聞き入る。そして雷電に乗る恭也へ報告した。
「西南の方向に隣国イルセリオへ通じる山道があって、彼らはそこを目指していたようです」
「了解。……敵さんもその辺は見越してそうだが、ほかにアテもねえ。とりあえず、そっちへ向かってみるか」
 そのとき、手元のレーダーが敵の接近を告げた。
「チッ、もう来やがった。思ったより速いぞ、あいつら」
 扇形に散らばったおよそ40の光点。その動きを見て、あらためて確信した。あきらかに人為的な意図を持った、これは進軍だ。背後には生命反応がほとんどない。
(どこのどいつか知らねぇが、ひどい憎まれ方をしたもんだ)
「ったく! どっちかってーと俺は国を焼く方で、こういった戦いはガラじゃなぇんだがな。ま、しゃーねえ。今回のはどう見たって、気に入らねぇのはあっちだ」
 ぶつぶつ呟きながら、外部スピーカーのスイッチを入れる。
「この声が聞こえるならよーく聞け! 今からこの国を脱出する! 生存者は続け!」
 そして聖域を展開し、逃げ惑っていた人々の意識を自分たちへ引きつけると、イルセリオへ通じる道へ向かう。人の足でついてこれる速度を保たねばならず、神経が過敏となっている今は、非常に緩慢に感じられる。
 数分後、無線を通じて、日向が最後尾につくよう命じた多脚軍用ロボットのクラブガンナーが出す攻撃音が早くも聞こえてきていた。



 宿で目を覚ましたとき、不死川 神楽は、それを祭りの一環だと思っていた。
 城での祝宴から戻ってくる間も、通りは聖誕祭を祝う人々であふれて騒々しかった。だから、その騒ぎで目を覚ましたのだろうと。
 しかし意識が覚醒するにつれ、騒々しさの種類が違っていることに気づき始めた。眠りにつくまで聞こえていたのは人々の笑いさざめく声だったり歌声だったりしたのに、今聞こえてくるのは恐怖に満ちた悲鳴だ。
 寝る前、椅子の背に放り投げたままの上着をはおることもせず、窓に近づき鎧戸ごと押し開く。途端、はっきりと外の声が聞こえるようになった。
 眠っていたラスティーア・ミーディアムが、ううーんとうめき声を発しながら寝返りをうつ。
「……うるさいですわよ……まだ夜は明けておりませんわ……」
「ほんとだよ。かぐ姉、窓閉めてよ、うるさくて眠れないよ。ボク、なかなか寝つけなかったんだからー」
 ユイット・シャルラハロートも枕を頭に押しつけて、かぶった上掛けの下で身を丸めようとしている。
 神楽はふたりの言い分を無視して窓をさらに大きく開き、下の通りを覗き込んだ。
 背後を気にしながら走る者たちがいる。
「一体何事ですの……?」
 ようやくただごとでないと気づいたか、眠い目をこすってラスティーアが起き出してきた。
 彼女の質問に答えようと神楽が振り返ったときだ。突然黒い影が窓の向こうに現れ、目のように平行に並んだ何かを赤く光らせたのを見て、ラスティーアは身をこわばらせた。
「エ、エーヴィヒ卿っ!!」
 逃げてと叫ぶより早く、それは神楽へ尖った金属の足を伸ばした。
 蒼白したラスティーアの面から何事かを悟った神楽は身を沈ませ紙一重で避ける。床を転がって距離をとる彼女の前、それは壁ごと窓を破壊し始めた。
「入ってくるつもりか!」
 剣を錬成し、剣の雨を向かわせるが、チンチンと鋼同士がぶつかる音をたてて剣はことごとく弾かれてしまう。
 そのとき、パッと部屋のあかりがついた。
「うわっ! 何だよ、こいつ!?」
 壁のスイッチに手をあてたまま、ユイットが仰天した声を上げる。
「出るぞ、ついて来い!」
 椅子の背にかけてあった服を引っ掴み、神楽は入口へ走った。
「待ってください、エーヴィヒ卿!」
 大急ぎ、服をはおりながらラスティーアたちも後に続く。ドアを閉めるとき、壁を破壊して部屋へ侵入を果たした敵の姿がちらりと見えた。
 彼女たちを追い、ドアに激突する激しい音が聞こえて、ユイットは思わず階段を下りる足を止める。が、外に逃げようとするほかの宿泊者たちに押されるかたちでまた動き出した。
 まだよく飲み込めない。
「何が起きてるの? あの化け物は何? ボクたちを殺しに来たの?」
「わたくしにもよく分かりませんわ。エーヴィヒ卿はどうですの?」
「一緒にいたおまえたちが分からないのに、あたしに分かるわけないだろ。でも、だからって、ぼーっとやられてやる気はない――」
「どけっ! 俺が先だ!!」
 神楽を突き飛ばして、男が通りへ飛び出していった。外を走る者たちと同じほうへ走りだそうとした瞬間、上から落ちてきた機械の蜘蛛に押し倒される。蜘蛛は着地と同時に男を刺し貫いた足を引き抜くと、すぐ前を走る男に狙いを変えて飛びかかった。
 蜘蛛は1体ではなかった。
 目を瞠る神楽たちの前、それらは屋根や壁から次々と着地を果たし、人を襲っては牙や足先で貫いて、宙に投げ捨てていく。幼い子どもの手を引いて走っていた女性が殺された。目の前で母を殺された子どもの泣き声が響く。まだ年端もいかない少女なのに、蜘蛛はその子どもまで毒牙にかけようと足を振り上げる。
「やめろッ!!」
 蜘蛛に向け、神楽はノーマルショットを放ったが、光弾は全て蜘蛛の表面で弾けて流れてしまった。
「くそッ! 効かねえ!!」
 歯噛みする横をユイットが走り抜けた。今しも振り下ろされようとしている足の前に身を投げ出そうとしているのを見て、神楽は今度はノーマルショットを蜘蛛の目に向けて放った。やはり目をつぶすまでには至らなかったが、一瞬の目くらましにはなったか、蜘蛛が硬直する。その隙にユイットは体当たりで子どもを助けると、横抱きに抱えて戻ってきた。
 そうする間も、蜘蛛は神楽の介入などなかったようにほかの人間を標的に定め、追い詰めてその毒牙にかけていく。
「――【システム】の動きが早い……いえ、私の介入が遅きに失しただけですわね」
「……ふざけんな」
 唇を噛むラスティーアの横で、神楽はこぶしを震わせた。
「殺していいのは、殺される『覚悟』のあるやつだけだッ……!」
 いつになく感情的な声を聞いて、ラスティーアのほうがはっとなる。そこでようやくラスティーアは、神楽がいつも肩にはおるだけだった暗赤色の特攻羽織に袖を通していることに気がついた。
「あ、あの、落ち着いてくださいませ、エーヴィヒ卿。このままオーダリーが全滅するのも、ケアティックが逆襲を受けて滅びるのも、おそらくはどちらも【システム】の思う壺ですわ」
「……システム……?」
 眉を寄せ、思わず呟いたあと、それがラスティーアのいつもの厨二妄想の言葉だと腑に落ちる。
 それすらすぐに気づけないほど頭に血が上ってしまっていたのか。
「……冷静になれ、ってのは了解だ。とにかく、今は彼らを逃がさないと」
 神楽はふーっと長く息を吐き出すと、やおら空を振り仰いだ。
「あたしは上へ上がる! おまえたちは下で彼らを救助しながらあたしの指示を待て!」
「了解ですわ!
 行きますわよ、舞緋女(まいひめ)! その子どもはあなたのメルカバーに」
「うん!」
 地烈のメルカバーの元へ走るふたりと分かれて、神楽は鉄巨鳥で上空へ舞い上がる。
 炎は北西から広がっていた。港は炎の後ろで、海へ逃げるのは少なくとも今は無理そうだ。
「……光城も燃えているのか。城内へ逃げるのは無理そうだな」
『ミー様、準備できたよ! どこへ向かえばいい?』
 スロートワイヤレスを通じてユイットの声が聞こえてくる。
「とりあえず、南東だ。炎と蜘蛛は北西から迫ってきている。南東へ向かえ」
『了解!』
『皆さま方! 光城にも魔の手が及んでいる様子、行くなら別の場所ですわ!』
 ユイットの声にかぶさって、通りの人々に声がけをするラスティーアの声が聞こえた。
 地烈のメルカバーが南東へ向かって通りを疾走するのが投光器の光で分かる。神楽は考えていた。
 おとぎ話にせよ、ケアティックの脅威はオーダリーの治世時ですら危惧されてきていた。なのにどうしてオーダリーは、こうならないように手を打たなかったのだろうか。
「長年の平和ぼけ、ってのもありそうだが……」
 ケアティックもまた世界存続には必要で、2派のバランスが重要ということか?
 その疑問に答えられる者は、この場にはいなかった。
 
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