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ユグドラシル

【シグトゥーナ】世界喰い 第三話

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【シグトゥーナ】世界喰い 第三話
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 第13話 最強の魔剣の話
 
 
 誰かが戦っている。
 ヘルヴェル達が気付くと、向こうもこちらに気付いた。
「あらぁフロージ、加勢に来てくれたのぉ。
 此処はあらかた終わったけどぉ、何だか連中、様子が変じゃなぁい?」
 のんびりとした雰囲気の女性がヘルヴェル達に手を振る。20歳前後くらいの年齢だろうか。そしてきょとんと首を傾げた。
「なぁに、そのコたち。アタシ達とは違うわよねぇ。でも人間とも違う……?」
「グンドゥルさんですか」
 ノナメが訊ねると、そうよぉ、と返った。
「あの、魔剣の」
「あら、それで来たの、フロージ? あんた魔剣持ってなかったかしらぁ」
「え、えと」
「壊してしまったのでございます」
 どもるヘルヴェルの代わりに、ルキナ・クレマティスの絶対なるメイド、モリガン・M・ヘリオトープが説明する。
「あらぁ、そぉなの。じゃあアタシ使う?」
 グンドゥルはあっさりとそう言った。
 ノナメはグンドゥルに訊ねた。
「あの……差し出がましいようですが、グンドゥルさんは魔剣になることに異存はないのでしょうか? 怖くは……ないですか?」
 グルヴェイグのことを思い出す。
 あの時の光景を思い出すことは辛かった。
 魔剣になることを覚悟した時、グルヴェイグはどんな思いだったのだろう。
 もし先にそれを知っていたら、自分もまたそれを阻もうと思っただろうか。
「面白いこと、言うのねぇ」
 グンドゥルは緊張感の無い表情でほにゃら、と笑った。
「アタシたち皆、この為に作られた道具よ。戦う為の道具。戦う為の道具を作る為の道具。
 ……それがイヤってコたちは、もう皆、死んじゃった。アタシも……殺したげたしねぇ」
 戦うことに疲れたと、この運命から逃れる為ならもう死にたいと、そう思っていた者達は、神々がこの世界を去った時に死を選び、選ばなかった者が残っている。
「あぁ、そうねぇ、戦いが終わった後のこと、言うのはフロージくらいよねぇ。
 これ終わったら妖精たちを集めて楽園を作るんだとか、繁栄の為には子孫を残さなきゃって子供作ったり。
 アタシにはよくわからないけど、だからネルトゥスは、フロージをリーダーにしたんだろぉね」
 グンドゥルはヘルヴェルを見てふにゃりと笑った。
「最強のフロージの魔剣なら、アタシ、最強の魔剣になれるわねぇ」
「……同意の上なら、何も言うことはありません」
 彼女の考え方は、グルヴェイグとはまた違うようだった。
 或いは彼女の方が『勇ましき方々』の一般的な考え方なのかもしれない。ならば見届けよう、ノナメは思う。
 その、次の瞬間。

 何処からか目にも留まらぬ速さで伸びてきた闇の触手が、グンドゥルとヘルヴェルをまとめて貫いた。
「!?」
「……かはッ」
 グンドゥルは持っていた二つの剣素を取り落とし、二人はもつれ合うように倒れる。

「ヘルヴェル様!」
 気配がなかった。
 不意打ちに備えていたモリガンは、けれど刹那の差で反応が間に合わなかった。
 守護領域を刻んだ光を導く者の盾を掠め、抜けた触手が剣素を攫って行こうとするのを、すぐさまに奪い返す。
「……外したか。下らない邪魔をしてくれる」
 舌打ちと共に呟き、触手の主はモリガンをねめつけた。


 闇の触手が戻って行く先に、一人の男が立っている。
 見覚えのある男だった。
 特異者達を過去の世界に送った男――しかし纏っている雰囲気と色が違う。
 長い漆黒の髪と瞳の男は、纏っているオーラも闇そのものだった。
「……ヘル、タ?」
 グンドゥルが呟く。
「下らない選択をする」
 侮蔑を込めた視線を、ヘルタと呼ばれた男はグンドゥルに向けた。
「魔剣は作らせない」


 はすぐさま界霊獣ラブを召喚した。
 現れた少女を見て察し、イリーゼが光精のオルファリオンを奏でる。
 ラブは、特異者達の身体能力を底上げさせつつ、傷ついたヘルヴェルとグンドゥルを癒そうとした。
 けれど二人の傷は深い。
(ラブの回復は遅い……間に合わないかもしれない、ですねー)
 桜の脳裏は冷静にそう判断してしまう。
 ノナメはアンブラでヘルタの視界を阻害しようとしたが、その魔法は全くヘルタに効果が無かった。
「私に闇の魔法とは」
 ちらりとノナメを見やって、ヘルタはせせら笑う。
 彼等は闇のものと戦う為、闇への耐性はとても強く造られていた。
 それに加えて、ヘルタは他の『勇ましき方々』とは明らかに違う。その存在感は、まるで闇のものに近しい。
「……あなたの気持ちは、まあ、解ります」
 桜はじっとヘルタを見据えた。
「でもその為に世界全部が滅びても構わない、と本気で思ってるなら残念だけど阻ませてもらいますよ……!」
 ヘルタは少し意外そうな表情を桜に向けた。
「世界全部が滅びても……ふふ、そうか、そうだな」
 冷たく昏い瞳をますます昏くして、口元だけが歪む。
「ああそうだ、その通り。世界全部が滅びても構わない」


 アリーチェは、光を纏った鳥の姿と変貌し、ヘルタに突撃した。
 ヘルタは闇の防御でアリーチェの体当たりを阻むが、猛き炎の剣を手にした潤也が畳み掛けて高速のニ連撃を加える。
「くそっ!」
 攻撃が闇の触手に阻まれているのを見て、潤也は舌を打った。
「……痛いな。何だ貴様等」
 ヘルタは煩わしそうに顔をしかめた。
 防いだ闇の盾がそのまま伸びて触手となり、潤也を貫こうとするのを慌てて躱す。
 触手はそのまま、再びヘルヴェルに向かって伸びたが、ノナメの聖域がそれを防いだ。
 小さな嘶きを上げて、ヘルヴェルの側にいたぷちドラが触手を威嚇する。それに絡み付いて締め潰し、触手はぽいとぷちドラを投げ捨てた。
「ぷち!」
「……何だ、貴様等」
 ヘルタはじっとりと特異者達を睨みつける。
「退け。とどめを刺す」

「何、それ。……ヘルタ?」
 クヴァシルは愕然としてヘルタを見た。
 違う。ヘルタが違う存在になっている。
 ヘルタはクヴァシルを見てにやりと笑った。ぞくりと恐怖が背筋を走るが、しかし今はそれどころではなかった。ヘルヴェルは今にも事切れそうだ。
(このまま死んだら、重なってる子も、死んでしまう)
 すぐにでも二人を引き剥がさなければならない。
 けれどこの世界ではふたつの魂はまるで溶け合っていて、引き剥がすには元の世界に戻すしかなかった。というよりは、引き剥がした瞬間に、ヘルヴェルは元の世界に戻って行くだろう。
「…………」
 ことりと首を傾げて、同じように倒れているグンドゥルがクヴァシルを呼んだ。
「ちょっと待って、こっちが先……」
「グンドゥルさん?」
 ノナメが傍らで声を掛ける。
「アタシの方が……先に死にそう。……魔剣さえ、あれば……あとは、フロージが」
 死んだら魔剣になれなくなる。今の内に魔剣になっておかなくては、そう言ったグンドゥルをヘルタはねめつける。
「しぶとい奴だ」
 ヘルタに視線をやって、グンドゥルはふふっと笑った。
(そぅよぉ。アタシたちはしぶといの。道具として生まれたからには、道具として、最期まで足掻くのよ)
「皆……、ちょっとの間、あの邪魔者をあっちにやっといてねぇ」
「承りましたわ」
 モリガンは、持っていた二つの剣素をグンドゥルに持たせると、ヘルタに向かった。


「これ以上、ヘルヴェル様に手は出させません」
 モリガンは、その身に猛霊を憑依させた。
 全ての力を三倍化させ、蒼穹の標を構えると、闇の触手を無数に放つヘルタからの攻撃を無視して一気に奔る。
 その懐に飛び込み、力を込めて振り払った。
 至近距離からの刃のような突風にヘルタは大きく飛ばされる。
 それでも尚伸びた触手がヘルヴェル達を襲ったが、ノナメや桜達がそれを防御した。

 飛ばされたヘルタがストンと地に立ち、然程のダメージもなく顔を向けるのに、モリガンは身構えた。
「……臭いな」
 ヘルタは侮蔑の目をモリガンに向ける。
「神の臭いがする」
「……仕方ございません。
 本気を出すことと致しましょう。神技をお見せ致しますわ」
 容赦をするつもりはない。奥の手を出す他はないとモリガンは判断した。
 通常の攻撃はあまり効果が無いようだ。だが光の属性を持つ攻撃なら? 先のアリーチェと潤也の聖なる炎の会わ技を受けた時のヘルタの反応を思い出す。
「これで、倒させていただきます」
「……駄目……!」
 小さな叫びに、モリガンは止まった。クヴァシルだった。
「今のヘルタを倒したら、虚無に変わってしまう……」
 闇のものは、普通に斃すと虚無に変じ、世界を侵食するものとなる。
 今ヘルタ程の強大な闇の存在を虚無にしてしまったら、もうこの世界はもたない。
 くく、とヘルタは笑った。
「貴様等になど倒されるつもりは無いが、そういうことだ。さあ、もう滅びるがいい」



 ノナメは促されるまま、二つの剣素をヘルヴェルに持たせ、グンドゥルの体をヘルヴェルに抱きつかせた。
「……フロージを起こして」
「ヘルヴェルさん。
 ヘルヴェルさん、しっかりしてください。起きて!」
 ノナメはヘルヴェルに呼びかける。ふっとヘルヴェルが薄目を開けた。
「……アタシを欲しがって、フロージ」
 浅い呼吸を繰り返しながら、ヘルヴェルはちら、とグンドゥルを見る。グンドゥルは微笑んだ。
「あとのことは、おねがいね」
 二つの剣素が輝く。剣の柄が光の刃を得、その刃はそのままグンドゥルの体を貫いた。
 光は更に大きく膨らみ、二人の体を飲み込み、やがて収束する。
 そこにはヘルヴェルだけが残され、ヘルヴェルは光の刃が消えた剣の柄を握り締めたまま、くたりと力を失った。
「ヘルヴェルさん!」
 叫ぶノナメの横から、クヴァシルがヘルヴェルの手を握る。
 クヴァシルには特に大きな力は無いが、一つの体の中にある二つの精神を分けることはできそうだった。
 フロージから引き剥がされた精神は、元のヘルヴェルに戻るだろう。願わくば、ヘルヴェル自身の体に負傷がありませんようにと祈る。
「皆、迷子にならないで、帰る場所を強く考えてね」
 急いでそれだけを言うと、クヴァシルはヘルヴェルの精神をフロージの体から切り離した。

 途端に、此処にいた全ての特異者達の姿が消えた。
 残されたのは、クヴァシルとフロージのみ。
 横たわるフロージの傍らで、クヴァシルは絶望的な表情で、歩み寄るヘルタを見上げる。
 ヘルタはクヴァシルを見下して笑った。
「あんな者共でも盾だったろうに」
「……うっさいわ。何なのあんた」
 ブン、と魔剣に光の刃が生まれ、それを杖にして、クヴァシルを押しのけながらよろりとフロージが起き上がった。
「フロージ……」
「あー、だいじょぶだいじょぶ。あの子もモリガンが不意打ちに気付いてくれたから何とか間に合ったわ。自分が間に合わなかったけど」
「ではとどめだ」
 ヘルタの纏う闇が膨らむ。しかしギシ、とそれが止まった。
「遅いわ……」
 はあ、とフロージが溜息を吐く。ヘルタが視線を向けた先、自分と同じ顔の男が走って来た。
「ふざけんな。俺に労働させんなよ」
「貴様か。今更何しに来た」
「てめえもふざけんな死んだと思ってたぜ何だその有様は」
「ふざけてなどいない。今迄何故こうしなかったのか不思議なくらいだ。気持ちいいものだな、闇と同化するというものは」
 フロージがネルトゥスの腕に掴まって立ち上がった。
「言い合ってる暇はないわ、もう死にそう。とりあえずあいつ抑えるくらいならできそうだから、後はよろしくね」
「お前っ……」
 言いかけて奥歯を噛んだネルトゥスに、フロージは笑った。
「ねえ私が死んだら悲しんでくれる?」





◇ ◇ ◇





「美しいものは、脆いものだ」
 そんな竜の言葉に、意味を捉えてゲヴンは頷いた。
「その通りよな。この世界はまるで硝子よ」
 こうも容易く闇のものたちに破壊され、こうも容易く滅びようとしている。
 最早崩壊を食い止められないと察していて、それでも最後まで戦うことしか出来ない自分達の、何と滑稽なことか。
「この世界を存続させるには、新たな殻で覆う必要がある。硝子ではない、もっと強靭な」
「……」
 ゲヴンは黙って竜を見上げる。
「それには、闇の本を断たねば意味がない」
「……ぬしらが、この世界の為にそこまでする必要はありしや、とは愚問なのであろうな」
 神々がこの世界を去っても、自分達『造られたもの』が戦い続けるだけの運命に絶望して死を選んでも、竜達は一貫して、残された者と共に闇を祓う立場を崩さなかった。
 竜達は闇のものにとって脅威であり、『造られたもの』達にとっては救いだった。
「……闇の大本はフロージらが何とかするであろ。あれを倒してしまえば、あとは雑魚よ」
 それより、とゲヴンは竜を見上げて微笑う。
「われを伴うつもりはあるのであろうな?」
 竜の命、竜の精気が殻となるならば、その世界は美しいだけでない、とても強靭なものとなるだろう。
 その一部になるのなら、これ以上の最後はない。
 
 
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担当マスターより

▼担当マスター:九道雷

マスターコメント

ヘルヴェル「お待たせしました! 第3回リアクションをお届けします!」
グローア「ちょっと私しょっぱなで死んでんだけど!?」
ヘル「私もちょっと危なかった~」
グロ「ていうか、私に関わるアクションがひとつも無いってどういうことよ!? こんな美女なのに!」
ヘル「え? ガイドのどこにも美女って書いてな……」
グロ「美女に決まってるでしょ! ていうかゲヴンなんて第二部のラスボスだったのに誰にも関心持たれてないのね」
ヘル「誰?」
グロ「まあでもそうよね、総受け入れ人数の半分の参加人数だもの、メインを取りこぼさないようにしようって思うわよねー」
ヘル「皆のお陰で魔剣の持ち主が私になったよーありがとーすごいことだよねこれ! ユンちゃん見てる!?」
グロ「つーかあんたら強いわね……びっくりしたわ。見てないけど。でもまあそんな訳で幾つかのイベントが発生しなかったので、過去舞台は一回で終わってるわ」
ヘル「そんな幾つもイベントあったの?」
グロ「幾つもあったのよ。グルヴェイグだっていたのよ」
ヘル「誰?」
グロ「実は今回はかなり色々なルート分岐があったのよ。魔剣の主があんたじゃない可能性だって視野にあったしね。まあでもメインをコンプリートしたんだし気にしなくていいんじゃない。私だってあんたらの世界で使役精霊になる程度のものだったのよどうせね」
ヘル「ひょっとして、第三部で総回数が書いてなかったのって、わかんなかったから?」
グロ「過去舞台が何回に渡るかが読めなかった感じよね」
ヘル「でも現代舞台だって大変なことになっちゃってるんだけど。チビが……」
グロ「そうなのよ過去舞台もルートが以下略っていうかネルトゥスに関わるアクションがひとつも以下略」
ヘル「誰?」
グロ「あら名前知らない? アイツこの名前嫌いだもんねー。ゲヴンなんかネルトゥスとヘルタを『白いの』『黒いの』なんて呼んでたのよ。リアクションではわかりやすく名前にしたけど」
ヘル「皆も知らなかったんじゃないかな……」
グロ「んー同じところに向かってるてのはPL情報だったからね」
ヘル「どう関わったらいいのか解らなかったと思うな……」
グロ「PL情報難しいわよね。基本的に偶然を装えばいいんだけどね」
ヘル「生き埋めになるのも?」
グロ「対策が無かったわね……」
ヘル「どうすればよかったの?」
グロ「うーん……割とどんな策が来ても行けるだろうと思ってたんだけどね。解りやすいのは、敵味方両方とも地下にいて、生き埋めにした側のウルヴヘズナルの方は大丈夫、ってところじゃないの」
ヘル「難しいよ。解りやすくないよ」
グロ「まあ何にせよ、多分今回で一応全部解明されたはずよね?」
ヘル「つまり次回が最終回なのね! 皆、あと一回よろしく助けてね」