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ユグドラシル

【シグトゥーナ】世界喰い 第三話

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【シグトゥーナ】世界喰い 第三話
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 第12話 闇のものの話
 
 
 古城 偲イクリマ・オーは、チビが発見された後、チビを心配しつつも彼等と別行動を取ることにした。
「あーあ、コジョーは敵を煽っちまったさなー。
 コジョーが余計なこと言わなきゃちっとは交渉できたかもなー」
 言っても仕方のないことを言って、わざとらしく溜息を吐く。
「もうその話はいいじゃん!」
 イクリマに茶化されて偲はふくれた。
「しっ」
「もがっ」
 突然イクリマが偲の口を塞いだ。
 隠れた向こうで、数人のウルヴヘズナルが慌てた様子で走って行く。二人はそのあとをつけてみた。
 程なくして樹海の木々や茂みに埋もれた建物の前に出た。
「本当だ、神殿の封印が破られている……」
「人間どもか? 一体どうやって」
 開かれた門の前で話し合っていたウルヴヘズナル達は、獣の勘ですぐに偲達に気付いた。
「誰だ!」
「おおっと、見つかるのが早いさ!」
 イクリマはすかさず萎縮の呪いを放つ。
 だが、ウルヴヘズナル達は闇の属性に強い耐性がある為、びくりと反応はしたが、特にダメージを負った様子はない。
 今回は最初から敵の姿が見えている。
 偲は両手でグランザクスを大段に構えながら、素早く弓を引くウルヴヘズナルに向かって突っ込んだ。
「封印を解いたのは貴様等か!?」
「何のことかなあ? 僕達も今来たところだよ!」
 偲は周囲の木々や藪を巻き込みながらグランザクスを大振りした。
 勢いのある攻撃に、ウルヴヘズナル達は飛び退く。
 偲はちらりと上を見上げた。森の上にはリンドヴルムが待機しているはずだが、こんなに木々の密集した森の中には呼び込めそうにない。すぐに諦めてウルヴヘズナル達に呼びかけた。
「それよりも、今神殿って言ってたよね?
 僕は神様ってだけで随分怒られたものだけど、それじゃあこの神殿は何を祀ってるんだい? 神様じゃないの?」
「神のわけがあるか!」
 ウルヴヘズナルの一人が激昂して叫んだ。
(うーん、どうやら単に神聖な場所を他に呼び方がなくて神殿とか呼んじゃってるとかそんな感じさ?)
 枝葉で日の光が遮られている中、太陽のルーンを放つ為の溜めで木陰に隠れて待機しながら、イクリマがそう判断する。
「おいっ、一旦引くぞ!」
 偵察のつもりだったようで人数も少なく、ウルヴヘズナル達は撤退の判断をした。
 あっという間に森の中に見えなくなったウルヴヘズナル達に、偲は精霊達に居場所を聞いてみるが、いない、としか返らない。
「んー、連中この神殿随分気にしてたさ。入ってみるさ? 中に入った途端閉じ込められたりしそうだけど」
「僕もそんな気がするよ……。
 誰かが封印を解いたってことは、ウルヴヘズナルじゃない誰かが中に入って行ったんだよね。
 気配は無いけど……待ってようか。戻って来た時を狙い撃ちにされないように護っていよう」
「りょーかい。……それにしても」
 イクリマははあ、と溜息を吐いた。
「折角堕天使を憑依してたのにさー」
「すごいドヤ顔だったね……」
 イクリマは堕天使を憑依させ、その美貌でウルヴヘズナル達の反感を煽ろうと思ったのだが、ウルヴヘズナル達は何が変わったのかも解らない様子で反応しなかった。
 どうやら、人間とは美醜の感覚が違うらしい。






 ノエル・ポートマントの背筋に、ぞわりと逆立つ感覚がした。
(敵襲、じゃない。これは)

 チビが見つけた地下の道を進み、振り向いても入口が見えなくなった頃、突然地下道の天井が崩れた。
 樹海の地下には多くの建物が埋まっているようで、地下道はその建物を繋いだもののようだった。建物の中を通り、また次の建物へ、という具合だ。
 ただその建物というのがまっすぐでないものも多く、逆さに埋まっている為足元が天井だったり、横倒しになって埋まっている為足元が壁だったりしている。
 そんな建物のひとつを通り抜けようとして、天井や柱が突然崩壊したのだ。



 どうせ最初から居場所などばれているのだろう。
 そう思った葉剣 リブレは先頭を歩きながら、敢えてメディアプレイヤーで『ワード・スウェア』を流しながら歩いている。
 それに並ぶルイーザ・キャロルは二枚の盾を持ち、広角視野を以って敵襲を警戒した。
 盾を二枚持つのは例え敵襲があっても攻撃をするつもりはなく、ただ仲間達を護り抜くという思いからである。
 その後ろを歩くノエルは、リブレのワード・スウェアを聴いて、スウェアの姉妹のことを思い出していた。
 そう簡単に出会えはしないのだろう。此処にいるというような奇跡も多分無いのだろうと解っている。
 けれど、それに気をとられず、他を疎かにせず、今目の前にあることにしっかり集中して行こうと決めている。
 後ろばかり見ていたら前には進めない。いつか二人に再会できた時に胸を張って会えるよう、自分の役割をしっかり果たそう、と。

『行かないで』『ススンデ』『殺して』『コロサナイデ』

 精霊託を使う山内 リンドウの耳には、相反する囁きが繰り返されている。それに突然、別の言葉が混じった。

『崩れる』

 はっとする。
「チビちゃん!」
 リンドウは、手を繋いでいたチビをしかと抱え込み、守護領域を刻んだエネルギーシールドを構える。
 ルイーザも同様に、エネルギーシールドと守護の大盾をを構えた。
 だが、轟音と共に建物全体が崩落し、リンドウ達は盾を構えたまま瓦礫に埋まる。
「……ああっ……」
 片手では圧倒する瓦礫の重みを支えられない。此処は地中だ。瓦礫の上には重い地面がある。
「ルイーザちゃん!」
 顔を歪めたルイーザを、ノエルが支えた。
 建物がすっかり崩れてしまうと負荷が幾らか軽減され、ルイーザはほっと息をついた。
「ルイーザちゃん、大丈夫?」
「……はい……皆さんは……」
「チビちゃん、怪我はありませんか!?」
「うん、だいじょうぶ」
 リンドウの胸と盾の間で、チビはこくこくと頷き、リンドウはほっとする。
 盾が何とか瓦礫の間に隙間を作り出せたようだ。
 抱きしめるリンドウの手が、チビの持つ輝力石に触れた。リンドウが護った為か、施していた精霊呪は発動されていない。
 最もこの場面で発動しても、生き埋めから逃れられたりはしないだろうが。
「びっくりしましたー。リブレ様、大丈夫ですか?」
 リブレを抱えてなるべく小さく丸まり、ルイーザの盾に守られた水葉 プリガーも、かすり傷程度で済んでいた。
「でもコレ、全く動けませんね……どうしましょう」
 プリガーは手近の瓦礫を退かしてみるが、隙間を崩して二次崩落となりそうだったので、とりあえず下手に動かすのはやめておく。
 チビがもぞもぞと動いた。
「チビちゃん?」
「ボク、うごけるかも」
 瓦礫の間には、子供のチビになら辛うじて通れる程度の隙間がある。
「お待ちください。一人で行くのは危険ですわ。
 一緒に行きましょう、すぐに方法を考えます」
 慌ててリンドウが手を伸ばしたが、チビはするすると器用に隙間を見つけて行く。
「プリガー、後は任せた。此処を何とかして後を追って来い」
 ウルヴヘズナルの子供が通れる隙間なら、アールヴも勿論通れる。
 リブレはプリガーに指示を残すとチビの後を追った。
「えっちょっと、リブレ様!?」
「一人で行かせられないだろう! 敵襲に注意しておけ!」
「了解です~」
 仕方なくプリガーはそう答えた。

 だが、警戒していた敵襲は一向に来なかった。
 生き埋めにした時点で、もう排除は完了したと判断されたのだろうか。
 ノエルは何とか抜け出せないかともぞもぞ動いてみる。
「ううーん、これが地上なら、適当に瓦礫を壊して進んで行けば出られるのに、地下っていうのが……ううーん」
 下手に瓦礫を破壊しても、更に上から潰されるだけだ。
「チビちゃん……無事でいてくださいね……」
 リンドウは祈る思いで呟いた。
 ウルヴヘズナル達には沢山の誤解があると思う。誤解のまま、いがみあって血を流すのは嫌だった。
 何とかしたい、その一心でいたのに。



 崩壊した地帯を抜けて、チビは走るように進む。
 ウルヴヘズナル達は、まだ崩落の先に抜けた者がいることに気付いていないようで、襲撃の気配はない。
(でもまあ目的地に待機されてるのは確実なわけだが)
 リブレは地下に入る前にあらかじめ、チビに九十九の幸を施してある。
 懸念は、チビが目的とするものが善良なものとは限らない、ということだった。
 最悪、チビを生贄にして復活しようとしている邪悪なもの、ということもあり得る。
(だとしたら全力で排除しなければならないがどうなんだ? 善良な奴なら助けてやりたいが……)

 地下道には灯りはなかったが、チビは平気なようだったし精霊視を持つリブレは平気だった。
 だが最奥には光源があるようで、近づくにつれぼんやりと明るくなって行く。
 速度を緩めず最奥の間へ飛び込んだチビは、そこで初めて足を止めた。
 やや遅れてそれに続いたリブレは、その空間の中心にある巨大な輝力石を見、その中に誰かが入っているのを見、その前に立っている銀髪の男が振り向いてぎょっとするのを見た。
「てめえ、ヘルタか!?」
 チビの表情が、邪悪に歪んだ。
 瞳が爛々と輝き、その身から、ぶわりと闇のオーラが広がる。
「チビ!?」
「ちっ、下がれ、お前等!」
 銀髪の男は、周囲にいたウルヴヘズナル達に叫んだ。
 地を蹴ったチビは闇の弾丸のように輝力石に突撃する。
 ビシリと輝力石にヒビが入り、砕けると同時、凄まじい爆風が広がった。
 
 
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