三千界のアバター

ワンダーランド

漆黒の夜と純白の魔法

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漆黒の夜と純白の魔法
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■新月の扉 ~紅茶のカップに映るあなたは~■

 ――闇に映える白い屋敷の大広間。ひとたび足を踏み入れてしまえば、そこは現実世界から遮断された魔法の空間だ。
大天井からぶら提げられたシャンデリアの光を受けて、ルイーザ・キャロルリデル・ダイナは、眩しそうに瞳を細めた。
 広間を抜けた先には三つの扉があり、そのひとつである”新月の扉”は、この屋敷の主人・ピエール男爵が待つ部屋に繋がっている。
ルイーザとリデルは、この”魔法使いのお茶会”に興味をそそられ、彼の元を訪ねることにしたのだった。



「いらっしゃいませ、可憐なお嬢さん方。さぁ、どうぞ椅子におかけ下さい」
「お招きありがとうございます……。では、失礼いたします……」
ルイーザとリデルは、【令嬢の嗜み】の振る舞いを活かしつつ、失礼の無いようピエール挨拶した。雪色のレースのクロスが敷かれたテーブルの上に、銀の燭台とクッキー、スコーンなどの洋菓子を並べたガラスの器が並んでいる。
ルイーザたちが席に腰掛けると、ピエールは仮面の下で口角を吊り上げ、穏やかに笑った。
「いただきます……。この紅茶……とてもいい香りですね……。心がほっとするような……」
「お口に合った様で何よりです。さあ、お嬢さん。どうぞ、貴女の物語をお聞かせ下さい」
「はい……私の話でよかったら……」
白磁のティーカップに口をつけ、ルイーザはうっとりとした表情を浮べる。ルイーザの笑顔を見て、ピエールも満足気だった。
リデルはお菓子と紅茶を楽しみつつ、ルイーザがピエールと会話する様子を見守っている。
 ルイーザは、これまでの自分の冒険と戦いの日々――”皆を護るための戦い”に挑んだ自分の過去を【道化の心得】で朗々と語った。
「……貴女のようなお嬢さんが、武器を持って……?」
ピエールは驚いた様子で問いかける。仮面の下の紅の光が、じっとルイーザを見つめていた。
そこで、ルイーザは【ファンタジア】を展開。自身の戦いの軌跡を一つの世界として創り上げた。
皆を護ろうとしてきたこと。しかし、敵を傷つける恐れもあったこと。心迷うこともあったが、最後には覚悟を定めたこと。
「なるほど。このような過酷な世界で、貴女は戦っていたのですね」
ファンタジアの光景は、ルイーザが渡り歩いてきた世界と、そこでの戦いを忠実に再現した。次々と姿を変える多彩な幻影に、ピエールは驚嘆の声を漏らした。
「今では……盾として……癒し手として……仲間を……護る為の戦いを……しています」
「ふふ……素晴らしいことです」
ピエールは穏やかに囁きながら、ルイーザのカップに紅茶を注ぎ足した。
「そんな、……私は……」
「ルイーザ?」
 そこで、ルイーザの隣に座っていたリデルが、異変に気づく。
だが、時すでに遅く、ルイーザはピエールの”魔法”にかけられた後だった。
「すべてを片っ端から……薙ぎ倒す為に……戦っているのですっ!」
――何か、おかしい。
「……あれ? えっ……!?」
自分自身が発した言葉に、戸惑いを隠せないルイーザ。
動揺のあまりパチパチまばたきを繰り返していたが、やがて事の重大さに気がついたのか、慌てて弁明しようと口を開いた。
「……あの、いや本音です……! そんな事……心の底から思っていてっ!? えっ? ええっ??」
 ルイーザの豹変に驚いたのは、本人だけでは無い。
リデルは手にしていたスコーンをテーブルの上に落とし、石像のように固まってしまった。
「そうですか。貴女は本当は、自らの破壊衝動の為に戦っていたのですか。愛らしい顔をして、侮れないレディだ」
「えっ、そうです……? あ、ええと、そうなんです!? あの……私……っ、あれっ??」
”違うんです!”と否定しようとすればする程、ルイーザの口からは反対の台詞が出てきてしまう。
慌てるルイーザが愉快で仕方ないのか、ピエールはくつくつと笑っていた。
「うわぁ……」
一方、【アンブリンキング】の精神力で事態を分析したリデルも、ルイーザの剣幕にはちょっぴり引いてしまったようだ。
「あ、あの……リデル、これはですね……!」
リデルに大げさに呆れられ、ルイーザはついに瞳を潤ませる。
口からは嘘ばかり出る上、ピエール男爵には「もっと話を聞かせて」とねだられているのだから、ルイーザもお手上げ状態だ。
「ルイーザ、心配だにゃあ。助けてあげないと。ああ、かわいそうに。とっても心が痛むのにゃー」
リデルからはルイーザを案じる言葉が漏れるが、それが”本心と間逆”であることは、もはや言うまでもない。
「……リデル……!?」
「おやおや。これは楽しいお友達を持ちましたね。可愛い金の髪のお嬢さん?」
肩を落とすルイーザの皿の上に、ピエールがフルーツタルトを載せる。
「大丈夫ですよ。タルトに魔法はかかっていません。もっとも、私が”本心を言っていれば”、ですけどね」
「そ、そんな……うぅ……」
 柔らかい声でそっと耳打ちをされ、健気なルイーザはピエールの期待に応えるしかなくなってしまったのだった。

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