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ソラシマ~IとUをつなぐもの~(第4話/全5話)

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ソラシマ~IとUをつなぐもの~(第4話/全5話)
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●パレンケ


 都市の中央にあるパレンケ中央議会議事塔に向け、世良 潤也は走っていた。
 パレンケの民はまだそのほとんどが地下で200年近い眠りについており、荒れ果てた廃墟同然の街なかに人の姿はなく、気配すらない。夜になれば街路灯1つない暗闇に飲まれる場所だったが、現在唯一この議事塔だけには電気が通じている。そしてそこでは数時間前からパレンケを代表する11人の議員と一部の関係者が出席して、カラクムルからの宣告に対する協議が諮られていた。
 その結論が少し前に出た。議員全員でカラクムルへ陳情に向かうことに決まった、という報告を聞いた潤也は、通信が終わるのも待たずにコパンのソラフネ・トゥーラを飛び出したのだ。
「ちょっと! どうしたのよいきなり!」
 わけが分からない、となりながらも、アリーチェ・ビブリオテカリオは後ろをついて走る。
「無茶だ! あの横暴なカラクムルが、陳情程度で考えを変えてくれるもんか! 聞く耳を持つかさえあやしいぞ!」
「まあ、それはそうかもね」
 面会を求めたところで応じてくれるかどうかもあやしく、むしろそのまま捕縛され、その間にパレンケはカラクムルの攻撃を受けて滅ぶ可能性は大いにあった。
「カラクムルめ! ヤシュハを口実にして、ヤシュハだけじゃなく、パレンケの人たちまで皆殺しにしようっていうのか……ふざけやがって!」
 その通りだ。潤也がこんなに怒るのも無理からぬ話で、素直になれない性格から表には出さないでいるが、アリーチェとて今度のことには激しく憤っている。パレンケの人たちを守りたい、ヤシュハを守りたい、という思いは強い。
 エレベーターで会議室のあるフロアに着いたとき、もう松原 ハジメヤシュハはいなかった。すれ違ってしまったのだろう。テーブルには一部の議員が残っていて、冷凍睡眠している民は起こさないでおくべきか、それとも起こすべきかで話し合っていた。滅びるのであれば、このまま、眠りのなかで死んでいくほうが彼らのためではないか、という意見と、何も知らされずに死ぬのは公平でない、なぜ死ぬのか知る権利が彼らにもある、という意見だ。
 ふたりに気付いたバラム議員が離席して、彼らの元へやってきた。
「どうかしたのかい?」
 にこやかな彼の表情は、陳情が受け入れられなかったときの考えを聞きたいと言う潤也の言葉を聞いて、陰りを帯びた。青い瞳が憂慮に色を落とす。
「あれが言いがかりであることは百も承知だよ。あれが通じるなら、5年前ティカルの生き残りを受け入れたカラクムルこそ責められねばならないはずだ。ただ、カラクムルと同勢力を持っていたティカルなき今、カラクムルに正面からそれと指摘できるものがいないのは確かだ。それに、そうと指摘して、だからカラクムルは罰せられねばならないと言うつもりもない。ソラシマを失ったティカルの民を受け入れたことは良いことだ。そう思うからこそ、われわれもヤシュハを受け入れることを決めたのだから。
 分かりかねるのは、なぜあんなことを言い出したのかだ。サク議員のように、カラクムルはおごったと言う者もいる。カラクムルはわれわれがキチェと呼ばれていた時代から強大な部族だった。ソラフネも屈強にして知恵者ジャガーの戦士カーンを与えられた。最強の守護者ククルカンと最速の守護者グクマツもだ。カラクムルは長い年月、ツァコル神の赦しを得られるまで待つわれわれを導く存在だった。だから生殺与奪の権利が――」
「パレンケにも守護者があるんだろ? シャメン・エクが!」
 今はそんなことを聞きたいわけではない。焦れた潤也の言葉に、バラムはいぶかしげな顔をした。
「なぜそれを知っているのだね?」
「バーカルから聞いた」
「そうか。
 あることにはあるが、もう数百年前から地下倉庫に眠ったままだ。動かす必要性がなくてね。それが何か?」
「陳情が聞き入れられたらそれでいい。ただ、もし陳情が聞き入れられなかった場合は……そのときはパレンケとコパンを守るためにも、カラクムルと戦うことを視野に入れるべきだ。そうなればシャメン・エクは重要な戦力になる。だから俺たちに整備させてほしいんだ」
「カラクムルと戦う? なぜ?」
 目を瞠ったバラムの反応から、潤也もアリーチェも理解した。彼らはそんなことなどこれっぽっちも考えていない。カラクムルにかなうはずがないと、頭から信じ込んでいるのだ。
「戦って抵抗しないと、パレンケの民は殺されるばかりじゃないか!」
「戦っても民は死ぬ。そのとき戦場となるのはパレンケだからね。それにおそらく戦えない。たった3日で眠っている民全員を起こすことはできないし、起きてもすぐには体は調子を取り戻せないだろう。われわれが今感じているように」
 バラムは杖をついていた。200年の眠りから目覚めて、まだ半日しかたっていないためだ。眠る前は普通に歩けていた。ほかの議員たちも体調不良を訴えて嘔吐したり歩行の困難さから杖または車椅子を使っている者が大半だった。
「カラクムルにはティカルの守護者ナクシト・シウチトもあるそうじゃないか。シャメン・エクだけではとても――」
「シャメン・エクだと!?」
 会話から漏れ聞こえてきた言葉を拾ったか、テーブルにいたサク議員が突然大声を発して身をねじり、こちらを向いた。
「そうだ、シャメン・エクがあった! シャメン・エクをカラクムルに献上しよう!」
「は?」
「え?」
「パレンケの恭順の証だ! パレンケはカラクムルと敵対する気はないと分かってもらえたら、きっとカラクムルも疑いを捨てて考えを変えてくれるに違いない!」
 まるで鬼の首を取ったかのようだった。口に出しているうちに興奮してきたのか、大きな声で語る彼に同調する者も現れだして、急に場が騒がしくなる。
 あっけにとられている潤也とアリーチェを、バラムは気の毒そうに見ていた。


「ちょっと楽観的すぎるわよね、あの人たち」
 パレンケのソラフネ・バーカルの最下層にある倉庫の一角で、ガーディアンリペアでシャメン・エクの整備をしながら、アリーチェはあのときの様子を思い出してぼやいた。
「たしかになぁ」
 と潤也も思い出す。はたして彼らが考えているようにうまくいくだろうか? うまくいきそうな気がしないのは自分たちだけか? そんなことをカラクムル側が望んでいるようには思えないのだが……。
 全面降伏でカラクムルを喜ばせるというのは希望的憶測が強いように見えたが、そこまで追い込まれているということなのだろう。移動に片道1日近くかかるということは、説得に費やせるのはわずか2日しかない。そこにパレンケの民全員の命がかかっているのだから。
「でもまあ、こうしてバーカルに搬入することや機体整備には応じてもらえたから良かったよ」
 オイルで汚れた手を拭きながらシャメン・エクを見上げた。シャメン・エクはほかの守護者と違って、四つ足の黄金獣の形をしていた。ジャガーを模しており、大地を駆ける速度はグクマツにも劣らない、最速で敏捷性の高い機体だ。そして何より特徴的なのはエク・チュアと呼ばれる3基のビット型オールレンジ攻撃機が備わっていることだった。シャメン・エクの周囲に電磁バリアを張り、近づく敵には自動でレーザー攻撃を行う。
「掟を守るのがあいつらの正義だっていうなら、虐殺を見過ごせないのがあたしの正義よ。パレンケの人たちも、ヤシュハも、絶対に殺させたりしないわ」
 そのためにも調整を急がなくては。カラクムルまでの移動中、アリーチェは油まみれになるのも厭わず、一心不乱にシャメン・エクの整備に打ち込んでいた。


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