新しい島
ぽーん♪
どばああっ!
にょきにょきっ!
「なんだか、賑やかです」
光の島の上空を天狗の空走で飛び回りながら、
蓬・マーグヌムが周りの海を見回して言いました。
あっちこっちに、見慣れない島がいくつも浮上しています。そのたびに、スーッと虹の橋が架かって島と島とを繋いでいきます。
このへんは、
女王ターニアの力のおかげなので、ほとんど自動というべき早さで橋が架かっていきます。後は、大工ようせいさんである
ぷちぱるだよ~さんたちが、それらをしっかりと固定しているようです。
新しい橋が架かるたびに、わらわらとぷちぱるだよ~さんたちが群がって、虹の橋を島に固定していきます。
「まだ橋が架かっていない島はありませんかー」
手でメガホンを作って、蓬・マーグヌムが聞きます。そんなことをしても返事などあるはずが……いや、パンタシアですから油断はできません。いつ島自体が返事をしだすことになるやら……。
「えーと、えーとっ」
まだ橋が架かっていない島を女王様よりも先に見つけられたら、ちょっぴりみんなの役にたつかもしれません。そう考えてさっきから飛び回っている蓬・マーグヌムでしたが、見える範囲に新しい島は見つかりません。みんな、すでに虹の橋が架かっています。もしかして、光の島の近くでは、もう新しい島は浮上してこないのかもしれません。
「もっと遠くならあるのでしょうか。飛んでいって探してみますか」
ほとんど何も考えずに、蓬・マーグヌムが光の島から他の島へとむかって空を飛んでいきました。迂闊です。
びゅうん!
風が吹きました。
ただの風ではありません、突風です。
パンタシアでは、島から島へは虹の橋を渡らない限りは移動することはできません。そのための魔法の虹の橋なのです。
泳いで海を渡ろうとしたり、飛んで空を渡ろうとしたりした者は……。
「ひゃああああ……!」
もう、それは見事にクルクルと大の字で横に回転しながら、蓬・マーグヌムが吹っ飛ばされていきます。二頭身なので、いつもよりよく回ります。
「ひゃうん!!」
ポッチャン!
あっ、海に落ちました。
な~む~。
鳥の島パタパタ
「ひっさしぶりに来たよねぇ~」
ポーンと虹の橋から鳥の島の大地に飛び降りて、
エレミヤ・エーケロートが言いました。
「そうでございますね、レミ様」
千輝 緑信が、エレミヤ・エーケロートの後からゆっくりとついていきます。
この島に住んでいるようせいさんたちは、鳥の着ぐるみを着てコスプレするのが大好きです。多少は魔法の効果があるようで、鳥の着ぐるみを着るとちょびっとだけ飛行能力が上がります。この島の中限定ではありますが、他のようせいさんよりもスイスイと空を飛べるようになるのです。
「また着てみたいよねぇ」
そう言うと、エレミヤ・エーケロートはどんどんと島の奥へと進んでいきました。どこかに試着室の小屋があるはずです。
鳥の島の家々は、緑の島のように樹の上にあります。愛鳥週間の鳥小屋よろしく、四角い箱に穴の開いた小さな家々が、巨大な木々の幹や枝の上にちょこんとくっついているのでした。
なんだか笛やラッパなどの管楽器を演奏しているような鳥の声を頭上から浴びながら、エレミヤ・エーケロートと千輝緑信は森の中を進んで行きました。
その行く手に、看板が立ち塞がります。
『鳥小屋作り月間。お手伝い募集中』
って書いてあります。
「だから、どういう意味?」
「さあ」
エレミヤ・エーケロートに聞かれて、さすがに千輝緑信が肩をすくめます。
改めて周囲に注意を配ってみると、鳥の鳴き声音楽の中にトテカントテカンという音が混じっています。
見れば、ようせいさんたちが、広場で新しい鳥小屋をどんどんと作っているではありませんか。
「町の拡チョーでーす、みなさんで一チョウ懸命頑張りまチョウ!」
鶴の着ぐるみを着たようせいさんの一声で、ようせいさんたちが鳥小屋をトンテンカントンテンカンと作っていました。
なんだかヴォーパルさんのコスプレをしている棟梁ようせいさんの指導で、テキパキと作業が進んでいきます。
「おもしろそ~だぁ~。私もやりたあ~い」
「レミ様がなさるのであれば、もちろん僕も」
さっそく、二人も参加しました。エレミヤ・エーケロートがキツツキ、千輝緑信が庭師鳥の着ぐるみに着替えます。
会場では、オーソドックスな鳥小屋が作られていました。長方体に丸い穴が開いているだけの構造ですから、実に初心者むきです。
「トントントォ~ン」
千輝緑信が押さえている板に、エレミヤ・エーケロートがどんどん釘を打ちつけていきます。意外に上手なのは、やはりキツツキの着ぐるみのせいでしょうか。
隣では、やや上級用のななめ屋根の鳥小屋とか、五角形をした鳥小屋などが作られています。屋根も色とりどりに塗られて、実にカラフルです。
さらに上級になると、内装も凝った物になります。さすがに、このへんになると、お手伝いでは無理なレベルです。
「ぎ~こ、ぎ~こ」
「ああ、レミ様、ノコギリのひき方が逆です。横に切る場合は、こちらの方の歯をお使いにならないと」
「えー、そーなのー?」
千輝緑信に教えてもらって、なんとかエレミヤ・エーケロートが作業を続けます。キツツキ着ぐるみ、木挽きは少し苦手のようです。
開きっぱなしの穴に合うような可愛い扉を、なんとか切り貼りして作りあげます。千輝緑信が、それを綺麗な緑色に塗っていきました。
「ふう、なんとかできたかなあ~」
自分たちの手で作った鳥小屋を見て、エレミヤ・エーケロートが言いました。形は真四角ですが、立派な玄関扉つきで、中はようせいさんたちにロフトを作ってもらって二層構造になりました。
「
お疲れ様です、レミ様。一息入れましょう」
「うん、シノちゃんもお茶して~」
二人で休憩所に行くと、美味しい蜂蜜茶が用意されていました。一仕事終えたようせいさんたちが、休憩しています。
「この作ったお家って、ど~するのかなあ」
「さあ。誰かが使うのではありませんか」
お茶を飲みつつ、素朴な疑問が湧いてきます。
「家? ああ、みんな自分用だよ。すでにどこかの島に住んでいるんだったら、別荘にすれば?」
二人の会話を小耳に挟んだ、ミミズク着ぐるみのようせいさんが、そう教えてくれました。
「やったね!」
エレミヤ・エーケロートが小躍りします。なにしろ、別荘です。
見れば、完成した家々が、たくさんのようせいさんたちによって空中に持ちあげられ、指定した木の枝や幹に取りつけられていきます。
エレミヤ・エーケロートたちの順番も、回ってきました。
「じゃあ、あの枝!」
「がってんだあ!」
エレミヤ・エーケロートが、見晴らしのいい枝を指定すると、ようせいさんたちが一気に家を運んでくれました。すかさず、棟梁ようせいさんが、しっかりと固定します。
「
わ~い。別荘~」
完成した鳥小屋に、エレミヤ・エーケロートが喜んで飛び込んでいきます。
「そんなに慌てると、危ないですよー」
急いで、千輝緑信がその後を追って小屋の中へと入りました。
「なんもない……」
がらーんとした小屋の中を見回して、エレミヤ・エーケロートが言いました。まあ、できたばかりだから仕方がありません。
「まずは、家具からですかね」
「うん、そ~だね~」
千輝緑信の言葉に、こくりとうなずくエレミヤ・エーケロートでした。危なく、キツツキの嘴で、床に新しい穴を開けそうになったのはナイショです。