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時計仕掛けのアンジェ 第2話

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時計仕掛けのアンジェ 第2話
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 プロローグ――クロノスの異変

「街の人が創造祭の準備をしてる?」
「はい……」
 アンジェリカの話を聞いたライル・西園寺は困惑していた。
「祭は昨日で終わりじゃないのか? もしかして、まだ続きがあるとか?」
「いえ、創造祭は一日限りのお祭りです。今日は皆で祭の後片付けをするはずだったんですが……」
 アンジェリカは道行く機巧馬車へ目を向ける。いずれも沢山の荷物を積んでおり、中には木材や鋼材を運んでいる物もあった。
「ライル!」
 ライルの名を叫び、駆け寄ってきたのはミネルバ・クリスティだ。
「ミネルバか、丁度良かった。何か街の様子がおかしいんだ」
「ええ、私もその事で相談に来たの」
 ミネルバは息を整え、今しがた自分が見てきた″異常″を伝える。
 彼女は街の広場を通ってここへ来たらしい。その際、昨日確かにあったはずの野外ステージが解体途中ではなく、何故か″作りかけ″の状態だったという。さらに、クロノスに来てからの五日間で知り合った人達が、一人の例外も無く、初対面のように振舞ってきたとの事。
「そっちもか……一体、どうなってるんだ? アンジェリカちゃんは何か心当たりは無いかい?」
「いえ、何も……」 
 どうしたものかと、途方にくれる三人。


 街の異常に気付いた他の特異者達も行動を起こしていた。
「おや、今日は珍しい顔に良く会うのう。新しい者が現れるのはどのくらいぶりじゃろうか、嬉しい事じゃ」
 メルバック・グラストシェイドは前に創造祭について教えてもらった老人の元を訪れていた。場所も時間も、前回会った時とまったく同じ。そして、顔を合わせた瞬間に発せられた言葉も、一字一句変わらなかった。
「やっぱり、私達の事忘れてるみたいね。記憶が完全に消えているのか……それとも単に思い出せなくなっているだけ?」
 天ノ草 詩羽がメルバックにだけ聞こえるように囁く。メルバックは確かめる事にした。
「少し尋ねたい事があるのだが」
「ん、なんじゃ?」
 尋ねたのは、昨日の朝食、創造祭の翌日の予定、自分を創った技師が今も生きているかどうかの三つ。
 老人は不思議そうな顔をしながらも全ての質問に答えてくれた。
「昨日の朝はパンとスープだけじゃ。創造祭の後か? いつも通り、店を開いておるわい。小さな雑貨屋じゃよ。それと、わしの親ならもう死んでおるよ。何年も前にな」
「そうか……」
 メルバックはクロノスの住人達の異常は時間が巻き戻った事によるものだと考えていた。
 そして、先ほどの質問と返答。
 昨日――特異者達がこの世界へ来た、この日よりも前の記憶があるという事は、この世界は初めから時間が繰り返されていたのではなく、後から何らかの要因でこの五日間が繰り返されるようになったという事になる。
 そして、創造祭の次の日の予定も同じである。「元々この世界は創造祭までの五日間を繰り返すように創られた世界である」という可能性も考えていたが、その後の予定があるということは、本来世界は創造祭の後も時間が進み続けるはずだったのだろう。
 あくまで老人の発言が嘘ではなく、その記憶も偽りでない事が前提の話ではあるが、メルバックはそう結論づけた。
 そして最後に、老人の創造者。
 オートマタを創った人物を順に辿っていけば、いずれは″最初の創造者″に辿り着ける筈である。しかし亡くなった者からは話は聞けず、この老人も親の親の事まではよく知らないらしい。
「昔……といっても十数年前じゃが。その頃のオートマタは短命だったんじゃ。すぐに体内の部品が不調をきたしてのう。今では機巧技師達の研究のお陰で、長く生きていられるようになったがの」
 話を聞き終え、メルバック達は礼を言って老人と別れる。
「あれだけ大掛かりにやってた祭の跡も綺麗に消えているわね……」
 街を見渡しながら、詩羽は呟く。
「そうだな……。もう一度時が戻ったときの為に、目印を残しておくか」
 二人は街の一角に、小さな印を付けておくことにした。



「ねえお姉さん、ここ何日かの間で、ボクみたいな街の住人じゃない新しい人、見かけたりした?」
「え? ええと、見ていないけど……?」
「そっか……」
 相田 弘美は街の人が自分達特異者のことを本当に忘れてしまったのか、確認して回っていた。
 アンジェリカのように特異者の事を覚えている者がいるなら、その共通点を探ろうと思っていたのだが……。
「駄目だ……誰も覚えていないみたい」
 弘美は肩を落とす。結局、尋ねた人皆に「最近は新しい人なんて来ていない」と言われ、逆に久しぶりの″新しい人″である弘美に興味深そうに質問を投げかけられる始末であった。
「やっぱり、時間の巻き戻し? が起きたのかな……? それなら……」
 弘美は裏路地の一つに入る。
「誰も見てないよね……?」
 きょろきょろと辺りを見回し、近くに誰もいないことを確認してから、壁に小さく落書きをした。
「よし、″弘美参上!″っと……こんなもんかな? さて、ある程度調査終わったし、あとは……小世界観光を楽しもうかな!」
 弘美は大通りに戻り、クロノスの街を散策する事にした。



「やはり、ステージも無くなっているんですね……」
 空燕 みあは時計塔前広場を眺めていた。
 昨日、創造祭で舞や演奏が披露されていたステージは、クロノスの住人によって今まさに組み立てられている最中である。
 数多く立ち並んでいた出店も姿を消しており、ほんのいくつか、屋台の準備をしている人影が見受けられた。
「こんにちは。お祭りの準備ですか?」
 みあは屋台を組み立てていた男性に声をかける。
「ああ、そうだよ。早めに準備しとかないと、他の奴に良い場所取られちゃうからね」
「いつからお祭りの準備をされてるんですか? 昨日も?」
「ん、そうだよ。それがどうかしたかい?」
「いえ、何となく気になっただけで……実は私、つい最近外殻から来た者なんですが、今度のお祭りとても楽しみでして……あの、前回の創造祭って、どのようなものだったんでしょう?」
「へえ、あんた外殻から来たのか、珍しいな。前回の創造祭なら、屋台が並んで街中飾りつけして、あと広場のステージで劇とかやってて……まあ、創造祭は毎年そんな感じだな。せっかく来たんだし目一杯楽しんでいきなよ」
 みあはその後も祭の準備をしている住人に話を聞いて回った。質問の内容は先ほどと同じく、昨日の事と前回の創造祭の事。もしも街の異常が時間が巻き戻った事によるものだとしたら、過去の事を尋ねる事で、何かしら違和感を覚える者もいるのではないか、そう考えての行動だった。
「皆さん、特に変わった様子は見受けられないですね……昨日の記憶も明白で、前回の創造祭の事もよく覚えているみたい……」
 それからしばらく聞き込みを続けるが、街の異常に気付いている住人を見つけることはできなかった。

 広場で聞き込みをする特異者がもう一人。
「すみません。今日、何か変わった物を見かけたりはしませんでしたか?」
 時間が巻き戻ったとして、それが住人達、オートマタだけなのか、それとも街全体なのか。それを判断する為に、東雲 奏は特異者が来た痕跡を探していた。
 大勢の特異者がクロノスを訪れ、調査に奔走したのだ。本来ならその痕跡が必ず何処かに残っているはずである。しかし、それらしいものは一切見つからなかった。街の住人に話を聞いても、誰一人として街を訪れた特異者の事を覚えていない。
「一切の痕跡が残っていない……という事は、街全体がループしている……?」
 奏はクロノスの図書館で地図を見た際に、″まるで箱庭のような世界だ″と感じた事を思い出していた。小さく、狭い、敵の居ない平和な世界。
「もしかしてこの世界は、最初からこの五日間しか存在しないのでは……?」
 何者かが、創造祭までの五日間を繰り返すように創った世界。それがクロノスなのではないか。
 奏の考察を裏付ける物はない。クロノスの住人達は変わらず創造祭の準備に勤しんでおり、つい昨日祭を開催していた事も、そして再びその準備を行っている事にも気付いている様子は無かった。



「この世界が『短い時間を周回する世界』なのだとしたら……」
 平塚 悟成は、祭の前に特異者が訪れたというアクセサリーショップを探していた。時折すれ違う人に道を尋ねながら、彼は目的の店に到着する。
 髪飾りやネックレス、それに様々な時計が並べられた店内を、暫し見て回る。やがて陳列された商品の中に、探していた物を見つけた。ここを訪れた特異者が購入したと聞いている、花の模様が入ったペアの懐中時計である。
 二つの時計を手に取って眺める。量産品かどうかを確認したかったが、機巧専門でない悟成には見ただけでは判断ができなかった。一先ず店主らしき男性の元へ歩いていき、話を聞くことにする。
「すみません、これと同じデザインの物は量産されているでしょうか?」
「いいや、それは手作りの一品だ。量産はされていないよ」
 似たような物なら作ることもできるが、手彫りの為完成品には多少なりとも違いがある。だからまったく同じ物は存在しない。店主はそう言った。
 悟成は質問を変える。
「そうですか……。そういえば、ここ最近で新しい人の二人組がここを訪れませんでしたか? 多分、懐中時計を買いに来たと思うんですが……」
「いや、ずっと店番をしているけど、そんな二人組は見た覚えが無いね。そもそも新しい人なんざここ最近は来ていないからな」
 店主は新しい人……特異者達が街を訪れた事を覚えていなかった。購入されたはずの時計が存在している事も含め、時間が周回した事が原因なのだろうと、悟成は結論付ける。購入され、世界の外へ持ち出されたかもしれない二つの懐中時計がどうなったのか……それだけは、所持者でない彼には知ることはできなかった。



 神白 風花半月 未宙は、機巧品を扱う店が集まる地区を、一軒の時計屋を目指して走っていた。前回クロノスを訪れたときに、二人で入った小さな時計屋だ。
「街の人たちの様子がおかしいです……まるでわたし達の事忘れてしまったみたいな……」
 不安と焦燥の入り混じった表情で、風花が呟く。
 二人は時計屋の前に辿り着いた。扉の前で立ち止まり、風花は深呼吸する。前回ここを訪れたときは、入り口で盛大に転んでしまい店の者に呆れ顔をされてしまった。思い出すと少し恥ずかしい記憶ではあるが、それは逆に言えば、目撃した店の職人にとっても記憶に残る出来事であろう。
 それでももし、忘れられていたら。一抹の不安を覚えつつ、風花は扉を押し開けた。ベルの音が鳴り、ルーペを手にした職人が二人に気付く。
「いらっしゃい」
 禿頭の職人はそれだけ言うと、作業に戻ってしまった。風花たちの姿を見ても、特に何の反応も示さずに。
「あの、この間はありがとうございました」
 お礼は前回訪れたときに発条について教えてもらった事について。しかし、職人は怪訝そうな表情を浮かべる。
「この間? 一体何の事だ?」
 その返答に二人は少なからずショックを受けていた。「あ、いえ、何でもないです、気にしないで下さい」と慌てて繕いながら未宙は店内へ。その後から店に入ろうとした風花は、その場で躓き床に倒れる。
「嬢ちゃん、大丈夫か? 足元に気をつけてな」
 二度も同じ場所で盛大に転んだのだ。職人もそれなりの反応を示すはず……しかし、彼は心配と呆れの混じった視線を風花に向けただけで、それ以上の反応はなかった。
「あの……前にもここで転んだ人って、いませんでしたか?」
 未宙がやや不安そうに職人へ尋ねる。
「いいや、そんな所で転ぶ奴は初めて見たよ」
 その返答を聞いて、未宙は悪い予感が当たったのだと確信した。
(やっぱり、わたし達の記憶が消えちゃってるんだ……きっと何をやっても、思い出してもらえない……)
 風花は失意と悲しみに暮れ、溢れそうになる涙を必死に堪えていた。小型の時計を一つ購入し、二人は店を後にする。
「……ね、未宙……この時計、またこの世界に来た時に時計屋さんに見せて、大切にしていますって伝えたら……せめて今日の事は、ちゃんと思い出してくれるでしょうか……」
 そう言って涙ぐむ風花を、未宙がそっと支える。
「風花、もしまた街の人の記憶がなくなったとしても、未宙は絶対に忘れたりしませんから。風花は一人じゃないですよ」
 そして、励ますように言った。
「とりあえず、もう少し調べてみましょう。大丈夫ですよ、きっと手がかりはあるはずです」
「……そうですね。こんな所で泣いている場合じゃないですよね」
 風花は目尻に溜まった涙を拭い、ぎこちなくはあるけれど、笑顔を浮かべてみせた。
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