●悠然と戦う
――シーフだっていうのに、探索に向いたスキルを持っていないっていうのも、なかなか悲しい状況だな……。
心の中でそうひとりごちながら、
葵 司は魔物対峙に専念するために準備を整える。相対するは一体のマンティコアと複数のブラッグドック、防具のレベルも心許ない、アンティシペイトLV10とリングオブスピードLV3が命綱となろう。
「……岩盤は……硬い、な。……よし!」
ワイヤードプレイLV7が使えるかどうかが痛いところであったが、存外遺跡は頑丈らしい。上手く使えそうなことに安堵しつつ、容赦なくワイヤードプレイLV7を使ってマンティコアの攻撃を躱す。当たれば痛いというのは確実、この遺跡もその用途が忘れられるほどに永くこのような魔物を封印してきたものだ、と司は内心感心していた。
「……しっかりしないと、な……」
モーニングスターLV2を手に握りしめながら、装備が決して良いとは言い切れない
ノーネーム・ノーフェイスはヒーラーとして司が展開したワイヤードプレイLV7の上に立っている。
「大丈夫ですよ。……緊張しすぎると、期を損じますからね」
川上 一夫は穏やかにノーネームに声をかけた。
「ああ! サポートは任せろ!」
頷くノーネームに一夫もまた頷き、一夫はルツェルンLV7★★を構える。
「では気兼ねなく――……サンダーストームLV10!」
魔力活性薬LV2で強化された雷の嵐がマンティコアとブラックドックを包み込む!
しかし、マンティコアはそれでやられるだけではなく、部屋中に展開されたワイヤーを引きちぎり始めた。
「おっと……! やるじゃないの!」
七種 薺はぐらつく足場に目を見開きながらも、一夫のサンダーストームLV10に軽く拍手を贈る。
「こっちも、負けてられないわね!」
続けるように、薺がサンダーボルトLV5で一夫が撃ち漏らしたブラッグドックを掃討していく。
「よッ、と!」
司は仕掛けたバードライムトラップLV3が見事マンティコアの足に絡まったのを確認すると、空中からマンティコアの背へブラッドブレードLV6★★を叩き込む!
怯んだマンティコアは、動きが明確に鈍った。まだ打ち倒すほどではない、闘気と殺意が目に宿っている。そして。
「ツ! タフだな……!」
マンティコアが尾を暴れさせはじめた、司は舌打ちすると尾を回避する。足止めされても尚、それなりに長い尾の攻撃は厄介――。
攻撃を回避しながら軽く斬りつけるので精一杯だ、それ以上踏み込めば頑丈な顎が待っている。
一夫はすぐさまに次の詠唱をはじめていた。敵の数は少なくなっている、マンティコアの動きも制限はできている。しかし、ここで手を緩めれば向こうに攻撃の機会を譲ることになる――。
――ここは、慎重に、そして大胆に戦局を進めていきましょう!
「足止め、有り難い! ……早く掃討いたしましょう……!」
一夫はローンモウLV10をパワートランスLV10で強化! それから、天技『無限大の愛』Lv5はどこまでもその威力を高めていって――……。
その一撃は、文字通り相手を薙ぎ払っていった。
「今回は……うん。ヒーリングは必要なさそうだな」
「ええ、良いことです……!」
一夫の言葉に、ノーネームは胸を撫で下ろし、味方陣営に損害は無し、壊滅状態に陥った魔物達を眺めているのであった。
作戦としては上々であろう。
●倒したあとに!
「すごい! すごい! あっという間だ!」
「……すごい……」
メルルとメググはそれぞれ感嘆の声を上げる。メルルに至ってはヒャッホウとガッツポーズすらしている。
――冒険者とはいえ、俺より年下か……元気なのは良いことだ。
司は仕掛けたワイヤーを回収しつつも、喜びの声を上げるメルルに対して微笑ましい感情を抱いていた。
「さっきの! ねえ! 一夫! さっきのすごい、ぶわーっていうの、何!?」
「天技のことでしょうか? ふふ、これは『無限大の愛』ですよ」
諸々企業秘密ですが、とにかくすごい愛があるのは確かです、と言ってみせる一夫に、メルルは目をキラキラと輝かせる。
「天技……そういうのがあるんだ……」
メググは目をくりくりとさせている。
「ああ。例えば俺の場合は『ジャイアントキリング』っつう、俺よりもデカい相手に対して力を上げる力がある。授かる力ではあるが、いろんな種類があるんだ」
説明する司に、メググはへえ……と、興味が強いようで、次第にその目はメルルと同じように輝いてくる。
「いいなー……ボクにもあるといいなぁ、天技……」
「……ワタシも、すごく欲しいかも……かっこいい……」
「ふふ、いずれ目覚めるかもしれませんね、メルルさんは確固たる信念があり、メググさんはまだまだ未来はこれからあるのですから」
子供の憧れそのもののような目線を、司と一夫はメルルとメググから受ける。……あんまり、悪い気分にはならないかもしれない。
「ともあれ、ここは任された。アタシ達が細かい敵は追っ払っておくから、先に進みな!」
「ええ! 奥に行くのなら、気を付けて!」
ノーネームと薺の言葉に背を押されて、メルルとメググは頷くと、先へと進んだ。
●キミはどんな子?
「時に――メルルさん、リファレンスLV1をかけてもいいですか?」
「うん? ボクは全然構わないけど……?」
風華・S・エルデノヴァの言葉にメルルは首をかしげながら、それでも素直に応答する。
風華がメルルにリファレンスLV1を行使すれば、年齢と冒険者歴に比べるとそれなりに優秀といったステータスが表示された。
彼は、どんなもんだい、と得意げにした。
「ふっふーん、ヒーラーとしては優秀な方なんだよね、ボクったら」
「おお……さすがです」
「これで、ある程度のことが、分かるんですね……」
メググは風華とメルルの様子を、固唾を飲んで見守っている。
「メググさんにも、使ってみてよろしいですか?」
「……! は、い。もちろん……」
どこか怯えた様子でメググはリファレンスLV1を受ける。自分の正体が知ることが怖い、とこぼしていたことをメルルは思い出していた。
これが何か分かるきっかけになれば良いが――しかし――……。
「……これは……ステータス隠匿スキルがあるようですね」
「ステータス隠匿スキル……?」
風華は真剣な表情で頷き、そのようなスキルがあるとステータスを見ることができないのだと述べた。
「……ワタシのこと、ますますわからなくなっていく……」
落ち込むメググを見て、メルルはずいと歩みよると、頼もしげに胸を張ってみせた。
「大丈夫さ! ステータス隠匿スキルがあるってことは、もしかしたら元はすごく強い冒険者だったのかも! ステータス隠匿スキルは対人の他にも、魔族からもステータスを隠すこともできるからね!」
「……そ……そうなのかな……」
「そうだとも! このメルルと風華が保証するよ! ねっ風華!」
「ええ!」
「……あ……ありがとう、ふたりとも……」
そうして、三人は調査のため、遺跡の奥へと向かっていった。