人質は籠の外へ(【1】妨害対応)
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殺王闘士たちは、先行する綾取や渚を追おうとはしなかった。ただ、残った千雪や、
砂原 秋良、
川上 一夫へ、感情を奪った村人をけしかけることでプレッシャーを与えつつ足止めしよう、という雰囲気だ。
それはそうだろう。恐らく、先ほどの口ぶりからして、渚とプロク、あるいはおみよを対面させたいはずだから。
それなら、千雪たちはここで相手をするのみだ。
(あちらにはあちらの理由があるんでしょうが、それを受け入れるわけにはいかないんでしょう)
秋良は、居並ぶ敵と、感情を失って虚ろな表情をした村人たちを見て思った。
(だからぶつかり合う、そういうことなんだろうと思ってます)
それぞれに信じるもの、正しいと感じるものがあるからこそ、衝突が生じる。
秋良はそれ自体を当然と思っているようだった。実際に、それはどこでも起こりうることで、彼女も今まで何度もそう言う場に立ち会ってきたのだろう。
とはいえ、ここで衝突することがやぶさかでなくても、村人に被害を出したいわけではない。
「纏神」
時計座の黄金の神威衣。全身を金のプレートメイルが覆う。時間が進んだ先で、良い明日を迎えよう。
さて、一方、土下座の荒神である一夫は、またも投入されている村人を見て考えていた。
(殺王闘士のブロンズシールドで村人が負傷する危険性を気にしていては、御魂闘士が殺王闘士との戦闘に集中できない)
なので、自分が敢えて集中攻撃を受ける事で、彼らのブロンズシールドを封じ、他の御魂闘士が遠慮なく戦えるようにすれば良い。
纏神した彼は、土下座の荒魂の新神威衣の脚部ローラーを活かして、華麗なスライディング土下座をキメた。土下座の外衣を素早く外して敷物にし、土下座の面は心からの反省と苦悶を示している……。差し出しているのは滅多打たれの大盾。これに憎悪集中の咒印が刻まれている。
「川上さんに落ち度なくなぁい!?」
千雪が叫んでいるが、殺王闘士たちは、今回もまんまと一夫の憎悪集中に掛かった。学習しない連中である。
「また貴様か。ええい何もなくとも土下座とはなんとも腹が立つ!」
むしろ天丼が気に障った模様だ。計画通りである。とはいえ、実際にその憎悪は咒装である盾の方に向かうので、一夫本人の方はある程度安全だ。殺王闘士たちが彼に向かって行くと、一夫はローラーで脱兎のごとく逃げ出した。
秋良は、自分の近くに残っていた殺王闘士に対して、風縛咆光の銃口を向けた。風の力が相手の動きを抑え込む。こうなれば、ブロンズシールドは使えまい。
銃が火を……否、雷撃を放った。時計の針にも似た雷霆が、殺王闘士を貫いた。こういう攻撃から身を守るためのブロンズシールドだったが、風の力で発動タイミングを逃し、雷撃の直撃を許してしまう。
「な、何をぼーっとしている! あの女を排除しろ!」
殺王闘士への容赦のない攻撃に怯み、彼らは村人に指示を出す。秋良は村人からの攻撃を、黄金神威衣の頑丈さで凌いでいった。
ここの殺王闘士たちは、元々御魂闘士たちを「倒す」ことにこだわっていなかった。むしろ、村人を盾にする遅延戦闘を想定してすらいたのだが、人の盾も上手く機能しないとなると、御魂闘士の排除が必要になる。しかし、そこまで本気モードではない戦闘準備がここで響くことになる。秋良も一夫も仕留められないのだ。
数の差こそあれど、御魂闘士側の立ち回りや高い能力によって、殺王闘士は少しずつ追い込まれていったのだった。
そして、プロク撃破と、月蝕の珠破壊の報が届いたころには、殺王闘士たちはすっかり戦意を失って座り込むことになった。