「たれ耳の子がいたみたいですね」
ふわりは
大隅 桜と雪道を歩きながら、老婆から聞いた犬の情報について確認し合う。
年のせいか要領は得なかったものの、断片的なことは聞き取れていた。
「それと、目に傷のある犬だな」
「……みんな、無事だといいんですけど」
なんとしてでも、老婆と犬たちを引き合わせてあげたい。
二人はその一心で、担当区域として振り当てられた斜面を、入念に探索していた。
木々の影を覗き、木の上に登ってしまった可能性なども考えて時に木に登って辺りを見渡した。
「このあたりだけ、雪の積もり方が不均一のような」
桜がふと思い立って、積もった雪を手で掘り進んでいく。
彼女の柔らかな指先に、何か硬いものが振れた。
「……あ、これっ」
雪の中から見つけ出したのは、汚れた首輪の破片だった。
「山を駆けまわっているうちに落としたのか、あるいは……」
二人の脳裏に、嫌な想像が巡る。
「私も手伝う。この辺りを堀り進めよう」
桜がそう提案した、その時だった。
「嫌な気配がします」
巫女の直感を働かせていたふわりが、ふと顔を上げた。
「……敵か」
相方のその様子を見て桜は表情をかたくする。
冷たい空気の中で静かに呼吸をすれば、鉄の匂いが鼻を擽った。
「……っ」
二人は武器を抜き、周囲に意識を集中させる。
この山で何かが起こっているということは間違いない。
「……南の方から足音がします」
ふわりの言葉に桜は目を細める。
雪に覆われた木々の間に、不穏な人影がわずかに動いた。
「英雄座の荒魂、大隅 桜っ」
その人物が殺王闘士であると判断した桜は、瞬時に弦を引き絞って雷の矢を放つ。
雪化粧の山の中を弾けるようにして、矢ぐんぐん前へと進んでいった。
「ぐうぅっ!」
遠くからくぐもった悲鳴が聞こえ、続いて何かが落ちる物音が響いた。
矢は命中したのだ。
しかし二人とも、それに満足して気を緩めることはしない。
「まだです。相手は一人じゃない」
ふわりの言葉に、桜が再び雷矢を構える。
視界の悪い中身長に狙いを定めて、視界の端にかすかに見えるだけの敵目掛けて矢を放った。
「桜さんっ……!」
ふわりは鋭刃で桜を鼓舞しつつ、自らも手名椎の弓で応戦する。
かじかむ指先で弦を懸命に引き絞った。
「待て、逃げるなっ」
桜は弓を構えたまま駆け出し、逃げ出した敵の背中を追う。
ふわりはそんな桜のことを、弓矢と光癒閃鋭舞で援護する。
敵の反撃によってつけられた傷が癒され、何度も弦を絞った体の疲労は解けて消える。
「ぐぅ……あぁっ……」
足に矢を射たれた殺王闘士は、逃げることが困難だと悟ったのか再び体を翻す。
身体が痛みを処理しきれていない今のうちに、短期決戦で桜を抑え込もうとしたのだ。
「数では、こちらの勝ちだっ……!」
破れた衣服から血をにじませながらも、刀を振り上げ桜に襲い掛かる。
「白迅槍……!」
しかし彼女は、無防備な敵の身体目掛けて雷矢を連続で何発も射ち込む。
雷矢の閃光が、苦悶に歪む敵の顔を雪山に照らし出した。
「お前たち、あの老婆の犬に何か手出しをしたのかっ」
虫の息となり木にもたれかかった殺王闘士の襟元を掴み、山中に響くような声で彼女は怒鳴りつけた。