白く彩られた岩が多く連なる景色は、こんな状況でなければ見惚れてしまいそうなほど美しかった。
戒は臆病なシロを探すべく、纏神し視氣で周囲の様子を探る。
「……っ」
現在地からもう少し奥に進んだ場所に、二種類の氣を感知した。
ひどく怯えている小さな生き物が一つと、殺意に満ちた二足歩行の大きな生き物が二つ。
彼は迷うことなく雪の山道を駆けあがると、蒼風鏡刀と蒼鶺影刀を構え地面を蹴り上げた。
「荒神……戒・クレイル!」
「なっ……!?」
不意を突かれた敵は、戒を見上げあんぐりと口を開ける。
二人は丁度、獣用の罠を仕掛けようとしている最中だった。
「はあっ……!」
雪を反射する二本の刀から、彼自身の分身が生み出される。
「なっ……!? 三人になった!?」
怯んだ敵に向けて、素早く刀を振り上げる。
分身を含め三人の剣士が、二刀流で刀を扱う様は圧巻だった。
ピシャっと高い音が素早く辺りに響き、敵の肌を鋭く切り裂いた。
周囲には鮮血が飛び散るが、それほど深い傷でもない。戦意喪失した殺王闘士たちは、その場にへなへなと崩れ落ちる。
「あなた方は、一体何が目的でこのようなことを」
犬用の鎖で一時的に彼らを縛り、戦えないように拘束しながら戒は尋ねる。
しかしもちろん、そう簡単に口を割る様子はない。
次の一手をどうしたものかと考えていると、遠くの方からくーん、と切なげな声がした。
戒の立ち回りは、もちろん攻撃のためだ。
しかし同時に、鳥の声のような音と敵の血の匂いで、犬をおびき寄せるという目的もあったのだ。
雪の上を駆ける音がして、一体の犬が岩の影から姿を現す。
「えっと……君はシロ……かな?」
その毛並みは、雪と泥で濃い茶色に染まっていた。