≪1≫『リリーの心の傷を癒す』(難易度2)
薪を節約しているのだろうか。
小屋の中で焚かれている暖炉の火は弱く、部屋中を暖めるのには不十分だ。
「なにか、必要なものはありますか」
砂原 秋良の言葉に、老婆は首を横に振る。
「何もいらないわ。あの子たちまで探してもらって、その上買い物にも行ってもらうだなんて悪いもの」
その言葉は、きっと遠慮の末に発せられた言葉だ。
老人の、しかも山奥での独り暮らしともなれば、不自由なことも多いだろう。
天音 雷華は老婆の負担にならないよう視線を合わせると、できるだけ重くなり過ぎないように言葉を続ける。
「丁度私たちも、旅に必要な食料をこれから調達しようと思っていたんです。ついでですので、どうぞ言いつけてください」
「……あら。貴女たちお腹が空いているの? ちょっと待ってね、少しなら何か残っていたかもしれないから」
砂原たちに何かもてなしをしようと老婆が立ち上がる。そのとき、彼女のひざ掛けが床に滑り落ちた。
「……あらいやだわ、はずかしい」
大きく空いた穴を隠すようにして拾い上げると、彼女は皺の刻まれた顔を赤くする。
「あの子たちと遊んでいると、こうして時々服や布を破られちゃうのよ。昔はすぐに新しい当て布を用意して直してたんだけど……」
続きは言われずともわかった。そのためのわずかな布すら惜しい暮らしなのだ。
「では、ついでですので布地を買ってきましょう」
「……ちょっと待っててくれる? 少しだけど、どこかにお金があったと思うの」
そう言って部屋を探そうとする老婆を、砂原が制する。
「お代は結構です。……その代わり、私たちに何か小物入れのようなものを仕立てていただけますか? 香料などをしまうために必要だったんです」
もちろん、それは老婆に気を遣わせないための方便だ。
「ほんとうに、ありがたいねえ」
老婆もそのことを理解したうえで、ようやく彼女たちの善意を受け入れ、頭を下げたのだった。