■今度はカレー!
20年前のザイト、快晴の昼のヨウドゥ。
「前にラーメンを広めたのは良いが、イギリスに似た世界ならばカレーを広めるべきだったなぁ」
弥久 ウォークスはイリンダル村周辺を歩きながら、以前貧民区域でラーメンを振る舞った当時を少々反省していた。
だが、
「しかぁし、まだ遅くは無い、遅くは無いはず! ビーフシチューも無い事は無いだろうし、スープカレーを作って、パンより腹持ちの良い食べ方の、麦ご飯や白米のご飯を合わせて食べる様に広めれば良い!」
双眸の奥には好奇心が煌めき、脳裏にはアイディアが浮かび切り替えが早い。
「そのために、ここに来たんだからな! 佳宵、試食頼むぞ」
ウォークスは、『ミゼット』を装備してで小さくなって肩に載る
弥久 佳宵に声を掛けた。
「試食は引き受けますけど、調査が建前みたいですよ!(キャンプを楽しむのはやぶさかではありませんが」
佳宵は気苦労な溜息と一緒にツッコミを入れた。楽しんでいる事は口にはせず、暗視能力の『ナイトヴィジョン』で鬱蒼と茂る森の方を警戒している。
「心配するな。調査もしている。こうして常に周囲を……」
ウォークスは軽く返した。『オーラサークル』でオーラを操り、周囲を警戒するのは忘れていない。
そんな時、
「うぉっと!!」
目の前に図体のデカい凶暴そうな熊が現れ、二人を獲物と見定めたのか襲撃を仕掛けてきたが、携帯していた威狗の戦鎚を手に取るや、威狗である今こそ活かせる武術『弥久流戦鎚術』で思いっきりぶん殴り、気絶させた。
「この通りだ」
のびて動けぬ熊を得意げに見せつけた。
「お見事です、ウォークスさん」
佳宵は手を叩き、褒め称えた。
しばらくして、
「ここが良さそうだな」
ウォークスは『土地鑑(森林)』を頼りに最寄りの川の川上の河原に辿り着き、力を合わせて、テントを張ったりとキャンプ開始となった。
その後、
「……ん……調査に行ってきますね」
佳宵は『センシティビティ』が周囲の森に何やら違和感があると、警鐘を鳴らしてきたため、確認するべく足を向けた。
「あぁ、気を付けてな」
ウォークスは佳宵を見送った後、
「準備は出来た」
境屋印のバーベキューセットを広げて準備してから、
「まずは釣りからだ!」
釣り道具一式を使って、釣りを始めた。
しばらくして立派な魚を何匹も釣り上げ、
「これを捌いて……」
『料理上手』な手腕で手際よく捌いてから、
「ウコン、ジンジャー、ターメリック……一式揃っているな」
苺宮 花音(いちごみや・かのん)に調達して貰ったスパイスを並べ、種類の豊富さに満足。
ここからウォークスの腕の見せ所である。
「さて、配合はどうするかな……色々試してみるか」
ウォークスはカレー作りを思う存分始めた。
ウォークスがカレーの試作に奮闘している頃、
「……何か御用ですか? 先ほど、私達を見ていましたよね」
森に入った佳宵は、先ほどから感じた違和感である視線について問いただしていた。
「敵、ではありませんよね。もし敵であれば攻撃してきますし……何より悪意を感じません」
佳宵は脳力向上ユニットのサポートと『ブレインワーク』で、ガッツリ考えて分析した末に訊ねた。悪意はないと話が出来ると考えて。
「……山菜を採りに来たら見た事無い妖人がいて……珍しくて……」
鉱石の身体を持った20歳の妖人の青年がそろりと現れた。
「私達はここにキャンプをしに……目を閉じて下さい」
佳宵は自身の事を名乗ろうとした時、青年の背後の草むらから魔物の姿を見て取り、警告を飛ばした。
「えっ、は、はい」
青年が言われるまま目を閉じた所で、
「はぁぁぁ」
指輪型のデバイスであるザ・スターを魔物に向けて照射して目が眩んでいる所に、
「やぁぁあ!!」
纏っているローブのエリネドで魔力を強化して、弓矢の【神格】アモルスで射って戦意を奪って大人しくさせた。
「……この魔物は甘い匂いがしない。普通の魔物だ」
青年は魔物を見ると、鼻をひくつかせてから言った。
「そうですか」
佳宵が言外に事情を知りたい旨を込めながら言うと、
「匂いがする奴、じいちゃんが言うにはずっと昔はいなかったって、種族変えの星霊石粉が出て来てから現れたって……そんな事より、噂でジュロッスの貧民区域でラーメンとかいう食いもんが出たって、どんな食いもんだろうな。あんた、知ってるか?」
青年は魔物より、噂の食べ物が気になる模様。
「えぇ、美味しいそうですよ」
佳宵は苦い笑いを口元に湛え、当たり障りなく言った。
話が終わり、魔物専門ギルドに引き渡す処理を青年に託して佳宵は森を出た。
「ただいま、戻りました……いい匂いですね」
帰還した佳宵を迎えたのは、食欲を刺激するスパイシーな匂い。
「丁度、出来た所だ。好きなだけ食べてくれ」
ウォークスは、煮込みに煮込んだ最高の試作品を振る舞った。