感情を奪った村人たちを戦闘へ投入してきた、殺王闘士プロクのチーム。
特異者たちは当然、そのやり口を快く思わなかった。
「人質を取っていると高を括っているんだろうが……やりようはあるさ。纏神!」
青井 竜一は、龍座の黄金神威衣を纏って戦闘へ突入した。
「はっ!」
隠淪飛翔で、風に乗るようにして飛び上がる。
「殺王闘士の残党か……角灯座の荒神・閃神コトハヤネが相手になるぜ。纏神!」
二階堂 壱星は角灯座の神威衣に身を包み、視氣を使って敵と村人の位置関係を把握しようとしたが、「氣」だけだと敵と味方の区別が付かない。とはいえ、見えにくいところに誰かいる、と言う事がわかるだけでも判断は変わってくるだろう。
「白鼬座の荒神、晴海志桜里……纏神です!」
感情を奪うだけではなく、戦いに参加させるなどという非道を見過ごすことはできない。
晴海 志桜里はそんな義憤に駆られて堂々と名乗りを上げる。腰には錫の金剛鈴を下げ、白鼬の虚雷双小剣は胡籙の力を得て雷を纏う。その放電は志桜里の感情の強さを表すようでもあった。
「では、時計座の荒神・秋良、推して参ります」
砂原 秋良は纏神して全身を時計座の黄金の神威衣で包んだ。敵のやり方自体は厄介だが、こちらはこちらのできることをやるとしよう。
その同行者である
天音 雷華も、敵のやり口には思うところがある。
(あまり気分のいいやり方ではないですね。やりにくいのは間違いありませんが、それがやらない理由にはなりません。ならば、あとはただ断ち斬るのみです)
前衛で、味方を守る剣となろう。小馬座の神威衣は走り回っても疲れにくい。その機動力を活かして戦おう。
川上 一夫は自らを「弱い」と認識している。
実際に彼がここまで積み上げた経験とかを鑑みると疑問を感じる者もいそうだが、少なくとも当人はそう思っている。
なので、自分が殺王闘士を倒せるとはこれっぽっちも思っていないのだが、御魂闘士として役に立ちたい、と言う貢献の意欲は持っており、その結果がこの滅多打たれの大盾と言うわけである。咒印が刻まれているので、これによって敵を引きつけることが可能だ。要するに、囮。
彼は纏神し、土下座の荒魂の新神威衣を、バイクからローラーのついた鎧型に変形させた。そして、滅多打たれの大盾を掲げ、憎悪集中の咒印の効果を発動させた。
「申し訳ありません! 申し訳ありません!」
そして華麗な土下座を繰り出した。
「なんだ……? この男、なんか妙に腹が立つ」
「やってしまうとするか」
「うわあ! なんかすげぇこっちの心が痛くなるよ、その光景!」
一夫に対して、明らかな憎悪というか苛立ちというか、「こいつは殴っても良い」と言わんばかりの表情を湛えた殺王闘士たち。盾を持ってじりじりと後ずさる一夫。彼の方が狙っているとは言え、千雪はその光景の痛ましさに思わず叫んだ。
一夫は新神威衣の車輪で地面を滑って逃げ出した。追い回す殺王闘士たち。飛んでくる魔法攻撃は、盾が引き受けた。その憎悪集中がある程度の人数を引きつけたところで、彼は叫んだ。
「今です! 殺王闘士達を倒して下さい! そして、私をお助け下さい!」
その様子を、上から見ていた御魂闘士がいた。竜一だ。
「春華よ!」
春華の術によって、どこからともなく薄紅色の桜吹雪が流れてくる。
「なんだこれは……!?」
「あれ、あいつどこ行った?」
散漫になって混乱し始める殺王闘士たち。自らの意思で集中することができない村人たちはぼーっとしたままだ。
「龍座の荒神、青井竜一。見参!」
その真ん中に、竜一が着地した。すぐ近くにいる敵を、鵡諷似悲をはめた拳で殴る。狼の遠吠えにも似た風切り音が轟いた。
「こ、こいついつの間に!」
対複数であるので、当然竜一も殴られるわけだが、そこは身体を反らしてかわしていく。致命傷を免れるだけでダメージが全くないわけではないのだが、秋良たちに同行する
髪の毛座の幸魂は、そう言う「数の暴力で蓄積すると、いずれヤバくなるダメージ」を、笛に乗せた音霊で回復した。
回復手段は敵も持っている。しかし、竜一は相手にそんな隙を与えるつもりはなかった。
「一気に決める!」
神念流水の四連撃! 流れるような動きで、繰り出される拳。狼の鳴き声。それは勝鬨にも似た、勝者の雄叫び。
壱星も、跳躍参でまた別の敵陣中心に着地した。できるだけ村人から離れた殺王闘士に、鋼鉄扇で殴りかかる。竜一と同じく、半ば不意打ちであり、思いっきりぶっ叩かれた敵はもんどり打って転がった。
「こやつめ!」
敵からの反撃は、鉄扇を広げて凌ぐ。上半身を守りながら、空いた足でローキックを繰り出し、転ばせる。
(攻撃以外も反射できるのか?)
ブロンズシールドの効果が気になって壱星は華雪を降らせた。春華の術が反射されていないところを見ると大丈夫そうな気もするが、やはり百聞は一見に如かず、だ。
春華の術とはまた違う、雪にも似た、淡い花吹雪。出現させた盾で防ぐ、くらいはできるのかもしれないが、大きく跳ね返す、と言う事はできないようだった。
志桜里が落とす雷の音が轟く。
壱星は次の行動のタイミングを見計らっていた。
一方、秋良は十言加護の結界を展開した。
「なんのこれしき……ぐわああ!?」
殺王闘士はこの結界を越えようとすると、光に焼かれてしまう。秋良はそうやって殺王闘士を凌ぎながら、こちらも春華の術を使って、眠らせていく。春眠暁を覚えず、と言う故事を彷彿とさせる。時計座の針は早朝を指すのだろうか。
「雷華、頼みます」
敵陣を駆け回って攻撃を受け流していた雷華は、鶺矩碇から雷鎖を鞭の様に放って敵を拘束した。動きが止まったところで、飛燕のごとく跳躍し、相手が予想する「距離と攻撃までの時間」を裏切る。連続攻撃で一気に片を付けようと試みた。敵の殺王闘士は、ブロンズシールドでその攻撃を弾こうとするが、雷鎖のため上手く動けない。
不要になった鎖をほどくと、雷華は次の狙いを定めて直刀を振るった。
壱星が華乱蹴撃で派手に花吹雪を舞わせると、それを合図として、志桜里は喜宣を高らかに歌い上げた。
常陸の神々の託宣に節を付けて、響かせる。
その歌声は、感情を失った人々の耳から心へ染み渡り……目を開かせる。
「……? 私たちは一体? ここは……ひっ!? 殺王闘士!?」
「まって、御魂闘士がいる! 助けに来てくれたの!?」
人々の瞳に光が灯る。
「あとは……任せます……」
この歌は歌い手を眠らせる。志桜里は歌い上げると、そのまま倒れ込んだ。
「敵の前で眠り込むとは、結構な自信だなぁ!」
志桜里を狙う殺王闘士が魔法を放った。しかし、
「そうはさせませんよ」
雷華が間に割り込み、鶺矩碇でその攻撃を受け流した。明後日の方向に飛び、霧散する。
「感情が戻った!? 志桜里ちゃんの歌!?」
「話は後だ! 手伝ってくれ!」
壱星の声に、千雪たちは戸惑っている村人たちを殺王闘士から遠ざけた。壱星は自分の背負子に志桜里を座らせ、彼女が攻撃を受けないように立ち回る。
歌の効果は長く持たない。やがて、人々はまた感情を失い、御魂闘士たちに攻撃を加える。秋良は黄金神威衣の防御力で、それらの攻撃を受け止めた。
けれど、反射が届きにくくなって戦いやすくなったのは確かだ。レンジの長い攻撃は気を遣うが、ショートレンジの攻撃ならば、さほど気を遣わずに繰り出すことができるようになる。御魂闘士たちは次々と敵を沈めていった。
「皆さん!」
後ろから声がした。見れば、青くなった渚を庇うように、綾取はしごを始めとした、おみよに着いていった御魂闘士たちが戻ってくるところだった。
「おみよちゃんは!?」
「話はあとです! 撤収しますよ!」
千雪たちは、綾取の言葉に従い、その場を離脱。
彼から、おみよの裏切りを聞いて言葉を失ったのだった……。