●魔物が跋扈する村
「――フリーズブリーズLV4!」
村に入れば、殺気立った魔物達とすぐさまに接敵となり、激戦となっていた。
焔子の天技、『ワールドイズマイン』はすでに開放されており、戦闘序盤から全て倒しきるように動いている。
ギルドで招集された面々は、異常なまでに牙を剥く魔物達を相手取っている。
村から備蓄を奪っているようであるから、空腹ではない。では、この殺意は――一体『何』だ?
松永 焔子は魔法を飛ばしながら、想定以上の魔物の猛攻に歯を食いしばる。
――これ以上、村を荒らさせはしませんわ! でも……!
「こ、れは……思った以上ですわね……!」
ヒッポグリフを中心に対応する焔子は、氷結したヒッポグリフのつがいの一体を氷結させるものの、次の一手を放とうとするともう一体に阻まれる。襲いかかるヒッポグリフの鈎爪をなんとか紙一重で躱す。頬をかすめてわずかに傷が入る、直で当たればどうなることやら、肝が冷える。
そんな焔子の背後に迫るゾンビオークを
ノア・シュメルが蹴り倒した。
続けざまに、ヒッポグリフ相手へ振り返り、サンダーボルトLV5を放つ。
しびれた様子の相手は、怯みはする。しかし、倒れもしない。
「流石に一撃では倒れないか……! もう一方のデカブツの足止めは!?」
「保って五分ですわ!」
「それくらいありゃ充分だ!」
――とにかくアタシは戦い続けれりゃなんだっていい。いつも通り暴れるだけだ。
それにしても、相手の数はさほど多くないものの、ともかく殺意、敵意というものがすさまじい。
「一体『コイツ』は、どこから来てるんだ……?」
ノアも戦えれば良いという精神であるが、本能的に生きているであろう魔物が、ここまで人間に対して殺意を抱いているのはわずかながら疑問を抱く。すぐに切り替えて、打倒を目指すが。
後方から
ユークリート・ヴェスノーイがフレイムウォールLV2で魔物達が外に出ないように陣形を敷く。火に怯えるのは動物的本能らしく、効果は覿面のようだ。
「ユークリートさん! ありがとう!」
「……いえ。まだ、油断はできません」
メルル・メルの感謝の言葉に、言葉通り警戒は解かないようにする。はい! とメルルも杖を両手でぎゅうと握り、構え直す。
「助けに来ました! 取り急ぎ、怪我人の方はいますか!?」
プランツセンスLV5によって逃げ遅れた村民達を探せば、堅牢な石造りの倉庫に、村民達が閉じこもっていた。しかし、メルルが馬を飛ばしている間に、相当衰弱しているようだった。ぜえ、と暗い顔で息をしているひとりの男性を
風華・S・エルデノヴァは見逃さない。
「……! 酷い傷……」
「薬草と簡単な回復魔法でどうにかしていたのですが、そろそろ限界で……」
癒し手と思しき女性は、今にも気絶しそうなやつれた様子でそう言う。
「もう、大丈夫ですよ」
風華によるダブルヒールLV5によって傷を塞がれた男性だが、空腹による衰弱もみられる。すぐに村の外へ助け出さねばなるまい。
「ユークリートさん! この方々を避難誘導します、炎でまた遮断できますか!?」
「いけます、どうかお願いいたします……!」
再びフレイムウォールLV2を詠唱、後退する村民達を保護するように火の手が上がる。
マテリアルガードLV6によって保護した村民達を、風華は外へと逃がしていく。
ユークリートとメルルはその背を見送りながら、敵へと向き直る。元より火力はさほどない魔法だ、この効果が効いている間に、どうにかあの厄介なヒッポグリフを一体でも打破できればいいが。
と――。
「くんくん……ゾンビオークは動きがゆっくり……でも、ブラックドッグがいっぱい来てる……ううぅ~、なんか不気味だよぉ……」
兎多園 詩籠は唸りながらも身を屈めてブラックドッグへ対応する。
ゾンビオークは動きが鈍重だ、見切れれば大した相手ではない。
「こっちからは、がるる……って感じはしないんだけど……ワウ!」
増援に来たブラックドッグへ思わず吠える、ゾンビオークからはアンデッド故かおおよそ意思のようなものは感じないが、『生きている』ブラックドッグとヒッポグリフからは、途方もない殺意を感じていた。
建物を背に背後を取られないようにしながら、詩籠はブラックドッグを相手取る。襲いかかるブラックドッグの牙を剣で受け止め、反撃して斬りつけた。
「炎よ……」
畑や建築物に引火しないよう、充分な距離を取ってブラックドッグやゾンビオークへ炎を放つ。
その炎の中で飛びかかるように詩籠は斬りつけていった。
●村の中の激闘
ヒッポグリフの鳴き声が上がる。保って五分と言っていた、氷結の魔法は、事実溶けつつあった。
「フリーズブリーズLV4……!」
焔子は氷結効果を延長させながら、つがいのヒッポグリフの攻撃を避ける。
「参りました!」
「助太刀します!」
「来た、よー!」
風華、ユークリート、焔子が駆けつける。
村の中にはまだゾンビオークとブラックドッグが跋扈しているが、多少無視していい数とはなっていた。
メルルは恐怖で声が出ないようであったが、それでも戦場に立っていた。
「一気に片付けるぞ……!」
ノアの周辺からバリ、と雷撃がほとばしる。
それを確認した焔子とユークリートも息を合わせるように集中を開始した。
「――こっち!」
三人から大技が放たれる気配に、詩籠はヒッポグリフの注目を集めるように前へと躍り出る。
「マテリアルガードLV6……!」
そんな詩籠に防御固めさせる風華。
攻撃を受け止めるものの、その勢いは強く、反撃するには苦心する。
でも――。
「間に合った……!」
ユークリートの絞り出すような声が静かに響く。
そして。
――サンダーボルトLV5!
焔子、ユークリート、ノアの放つ雷撃は確かに一体のヒッポグリフを穿った。
「と、ど、め、だァッ!」
「天雷に打たれ――落ちなさい!」
氷結してあるヒッポグリフに向かって、サンダーボルトLV5とメガブレイクLV5が放たれる――!