【プロローグ】
御魂闘士たちは、肥護府肥前のとある町にある老舗宿を救ってくれという珍しい依頼を受けて集まっていた。
敷地が広く建物こそ大きいものの廃墟のような見た目の宿を目の当たりして、御魂闘士たちは絶句していた。
「これ…本当に営業してますの」
あまりの宿の見た目がボロボロ過ぎて思わず
風華・S・エルデノヴァは、失礼なことを口走ってしまう。
「お恥ずかしながら、現状はこんな感じでして…建物を修理するお金も無く」
まだ若い、宿『春陽』の主人は、申し訳なさそうな表情で頭を掻いている。
「まあまあ、そのために私たちが来たんですから」
人見 三美は、暗い表情ですっかり落ち込んでしまっている宿の主人を必死で励ます。
御魂闘士たちは主人に案内されて建物の中に入るが、宿の外観と同じくらい中も酷いありさまであった。
床は歩くたびにミシミシと音をたてて、壁に空いた穴はそのまま放置され、何より薄暗く、どこかどんよりと空気が漂っていた。
「なんていうか…独特の雰囲気ね」
創世御名 蛇々は宿の中を見渡して顔をしかめているが、主人が傍にいる手前、言葉を濁す。
その後も、部屋や宿泊客に出している食事、工事途中の露天風呂が放置されている敷地などを見せてもらったが、客足を取り戻すためにはどれも大掛かりな改修が必要そうであった。
「一通り見せてもらったけど、これは客が来なくて当然だな」
「こら、壱星!みんな思っていたけど、口にしていなかったんだから…あっ」
あまりにも遠慮がなさすぎる感想を漏らした
二階堂 壱星を窘めるように、
晴海 志桜里は睨みつけるが、自分も失礼なことを言ってしまったことに気が付き慌てて手で口を押さえる。
「本当のことですから…宿の改装、露天風呂の完成、看板メニューになる料理をつくる、やらなければいけないことは山積みです」
主人は、宿を立て直すための計画書を袂から取り出して見せてきた。
「乗りかかった船だ、みんなで力を合わせてこのオンボロ宿を変えてやろうぜ!」
壱星の力強い言葉に御魂闘士たちは頷いて、宿『春陽』を救うために動き出した。