【プロローグ】
筑摩府筑前にある、街の外れの森の入り口に、寄絃師の男と御魂闘士たちは集まっていた。
ただでさえ周囲は暗いのに、目の前の鬱蒼と生い茂る森の中は、さらに濃い暗闇が広がっていて不気味さを感じさせた。
「さてと、今回の目的はこいつらの採集だ」
寄絃師の男は、御魂闘士たちを見回すと袂から二枚の紙を取り出して話し始める。
一枚の紙には、形は菊のような花びらで、中心が真っ赤で外側にいくにつれわずかにオレンジや黄色が混ざっている、小ぶりな花の絵が描かれていた。
「こいつは紅花だ。森の中に入れば、そこら中に咲いているから直ぐに分かるはずだ」
さらにもう一枚の紙には、葉っぱの上の方に小さな蕾ような形の紫の花びらをいくつも付けていて、どこか清楚な印象を受ける花の絵が描かれている。
「そして、こいつは幻の藍の花だ。幻というだけあって滅多に見つからん、俺も過去に一度見つけたきりだ」
「こいつは草の根を分けて捜す必要があるから、実物を見たことがある俺も一緒に行くぞ」
男は、一緒に護衛として付いてくる御魂闘士たちの方を見て頷く。
「ここら辺の森は殺王闘士たちがうろついていて危険だ。だから、お前さんたちに付いてきてもらったんだが…」
「大丈夫だと思うがくれぐれも頼むぞ。俺はこの浮世絵を完成させるまでは、どうしても死ぬわけにはいかないんだ」
寄絃師の男の顔は緊張のためか強張っていたが、その眼は情熱に燃えて鋭い光を放っていた。
「さあ、早いところ行こうか」
寄絃師の男に促されて、御魂闘士たちは森の中に向かって足を踏み入れた。