■一助になれば
快晴の午後、ザイト、ネーヴィアのジュロッス警視庁の前。
「例の事を考えると、ザイトの現在での社会不安の原因の一つは、警察力の低下もある気がするんだよな」
建物を見上げながら
青井 竜一は、交流会の妨害を阻止するためにシンフォア警察署に協力の交渉に赴いた事を思い出していた。
という事で、
「お久しぶりです。少し話せませんか?」
竜一は警視庁から出て来た顔見知りの男性サヴィル・ドーイに『令嬢の嗜み』の物腰で、意味ありげに訊ねた。
「おう、久しぶりだな。話だな、いいぜ」
察したサヴィルは快諾した。
話は、警視庁から随分離れた所にあるベンチへ移動してからに。
「ファルク新聞社を襲撃した者は、翌日に釈放されたそうですね」
ベンチに座った竜一は、『青い炎』での冷静な判断で会話を始めた。
「上層部が企業と繋がっている事を考えると綺麗事だけでは済まないとことはわかりますが、これはさすがに犯罪組織との癒着ではないですか? 例えばファミリー……」
『真実の追求』の真実を強く渇望する想いで説得。情報を知っている様を見せつつ。
「まあな。前にお前さんと会って触発されて警視庁の仲間と組んで探りはしたが、やり過ぎてやめた奴もいてな」
サヴィルは竜一の言葉通りと知り行動を起こしたものの、芳しくない模様。
「そうですか。表立っては言えないだけで、今の警察のあり方をおかしいと思う者は多いと思います。警察内部から自浄や改革は諦めずにすべきかと……」
竜一は励まし、警察の正常化を訴える。
なぜなら、
「犯罪から普通の人々を守る、社会の治安を維持する……そんな使命感や責任感を抱き続けている方達は多いはずです。交流会で協力してくれた警察官達のように」
可能性があるから。
「ジュロッス警視庁内部だけでなく警察全体でそういう人たちを探して仲間を増やせば、何かできることはあるんじゃないですか?」
竜一は、口にする言葉一つ一つに力を込める。
「そうだな、やめた奴らの無念もあるしな。交流会に協力した奴らを巻き込むか。ところで知ってるか? シンフォア警察署の署長、クビになったその日の夜に突然死した。持病は無かったらしい。人の好さそうな奴が新たな署長になったが胡散臭いらしい」
サヴィルは管轄に関係なく仲間を集める決意と共に不穏さを残し、仕事に戻った。
「……気を付けて下さい(……突然死、か)」
サヴィルを見送りつつ竜一は、考え込んでいた。
その頃。
「久しぶりだな」
過去のネーヴィアのヴィンサにて
ネヴュラ・シェーレは、星霊石粉専門店『グッツエ』から出て来た顔見知りのクレーナ・フルーラに声を掛けていた。ちなみに、これまでと同様に『ブライダルエステ』の美容術で上流階級の女性らしく身なりを整えている。
「お久しぶりですわ」
親し気に返すクレーナの手には、購入したばかりの予約限定の星霊石粉があった。
「少し話をする時間を取れるか?」
ネヴュラは星霊石粉を一瞥した後、訊ねた。
「大丈夫よ」
クレーナから快諾を貰い、話の場を適当な喫茶店に移し、
「あれから調子はどうかな?」
席に着くと同時に、改めて訊ねた。
「悪くありませんわ。折角、新聞社の事を教えてくれたのに申し訳ありませんわ」
クレーナは笑みを浮かべ、朗らかに答えた。
「いや、悪くないならそれに越した事は無い(どう見ても悪くないとは思えないが……)」
ネヴュラは『令嬢の嗜み』を駆使して物腰柔らかに言ったが、見逃してはいない。化粧では隠し切れぬ顔色の悪さを。
「お金で得られない物を得る事は難しいものだな」
ネヴュラは、星霊石粉の話を聞きたく水を向ける。
「えぇ、宝石もドレスも好きなだけ買う事も貰う事も出来るけれど、心は満たされなくて虚しくて……満たす方法も分からなくて……星霊石粉見本市で偶然出会って、心を満たす物に」
クレーナは星霊石粉を愛おし気に触れながら、語る。
「上流階級に属すると、人から与えられるのが当然となってしまう。だが、人から何かを与えられたり、心を安らかに薬を待つだけが人の生き方ではないと思うようになってな」
ネヴュラはクレーナの感じてる虚しさが薄まれば、薬から離れられるかもと考えているのだ。
「…………そう」
クレーナは、答えを求めてネヴュラを見つめる。
「人から与えられるのではなく、自分から先に与えるからこそ、初めて得られるものもあるのではないだろうか……」
ネヴュラのゆっくりと諭す言葉。
「……自分から与える……それで何を得られるのかしら……」
青天の霹靂とばかりにクレーナは驚き、言葉が続かない。
「実は、種族変えの星霊石粉の被害者の会と縁があってな。僅かでもいいので、試しに交流や援助をしてほしい。どうだろうか?」
ネヴュラは、相互に得る物はあるだろうと提案をした。
「……えぇ」
しばし考え込んではいたが、クレーナはよい返事をしてくれた。
一方、過去のネーヴィアのジュロッスに佇むファルク新聞社では、
「交流会も何とか無事に終わって、二人に何かあっては大変だから、今回も護衛をするわ」
ミラシファー・冴架・アテネメシアが、再会の挨拶を早々に終わらせて馴染みの記者二人の護衛役を務めるため部屋の片隅へ。
「助かるよ」
「またお世話になっちゃうね」
イリク・ラーダとアジュラ・イカンは歓迎した。
「種族変えの星霊石粉の需要が根強いのって、こういうことなの? 種族が違う者同士の子供には、精神的に不安定になることが多い。だから問題があるかもしれないと分かっていながら、それに目を背けて使ってしまうカップルや夫婦……そんな人たちが多いってこと?」
ミラシファーは情報収集も同時に行っていく。
「多いね。他には種族特有の病の治療のためや種族違和とか、凄い力が欲しいとか、犯罪から身を隠すためとかも聞いた」
「精神不安に効く薬はあるよ。星霊石粉が出る前は薬草とかが主流だったけど、今は効果が強いからって星霊石粉が主流で、危険な物だと妄想とか眩暈とか色んな症状が出たりするみたいで。ただし、人間と妖人の特徴を持っているから種族変えの星霊石粉は使うと酷い事になったり命に関わるらしい」
イリクとアジュラは快く情報を教えてくれた。
「そう、被害者の会の運営を任せられる信頼できる人を探したり、会の中で仕事を委ねられる人を育てる。今のうちにそういうのを意識しておかないと、新聞記者としての活動が難しくなるかもしれないわよ。ふふっ」
ミラシファーは未来を知る者として助言をする。
「だから、新聞記者であり続けるか、被害者の会を取るか。状況に流されてのなし崩しじゃなくて、自分の意思で決める。そうじゃないと後悔するわよ」
真っ直ぐに記者達の目を見て。
「自分の意思で決める……だったら、被害者の会をきっかけに皆に真実を知って貰いたい。となると、会を任せる人を決めたり育てたりしないと」
アジュラの思考は被害者の会に向いていた。
「被害者の会も気になるが、交流会をきっかけに警察とかファミリーとか怪しい団体とか店とかの真実を探りたい。新聞を出すのなら、まだマシなヨウドゥでもいいか。取材した物も妖人の村に隠しているしな」
イリクの思考は記者に向いていた。
「……そう、気を付けて」
ミラシファーは、覚悟を決めた二人の身を気遣うばかりであった。
一方、過去のネーヴィアのジュロッスの裏路地では、
「裏社会を引っかき回せ、か。リュー兄も、さすがに穏健策だけじゃあ難しいって思ったのかな。まあ、ボクには合ってるけどね! きひひ! 暴れさせて貰うかな!」
悪戯っ子な笑みを浮かべ、エクスマキナの
星識 リンクが立つは、貧民区域だ。
まずはと、
「ルットファミリーの拠点とか、そいつらがたむろしてる場所を知りたいんだ。知らない?」
リンクは住民達への聞き込みをした。
結果、
「情報だとここだけど……」
出入り口に柄の悪そうな妖人と人間のハーフの大男が二人立つ所々崩れたレンガ造りの大きな建物に辿り着いた。
「ねぇ、交流会にお邪魔してたルットファミリーのあの子は元気?(ファミリー同士の抗争を煽るんだ。裏社会は弱肉強食だからね)」
リンクは、ファミリー同士の抗争を狙い相手を煽る。
途端、
「お前!!」
煽られキレた構成員が殴り飛ばそうと拳を振り上げて来た。
「おっとと」
リンクは『セカンドステップ』による軽やかなステップで回避。
「お前、何者だ? あいつはファミリーの名前を口にしたせいで、ぼこぼこにされたんだぞ」
構成員が交流会の顛末と同時に、怒気と殺気を発散してくる。
「どした、どした」
「騒がしいぞ」
騒がしさを聞きつけたガラの悪い構成員達が建物から出て来た。
「相手はするよ? でもリュー兄に言われてて殺しはしないから安心してね。きひひ!」
リンクの煽りに構成員達はかっとなり、襲って来る。
だが、
「目障りって思うようになった人たちもいるんだよ。心当たり、あるでしょ?」
リンクは東洋武術の一種である『バリツ』で、
「心当たりだと!? 貴様一体!?」
向かって来る勢いを利用してダメージを上乗せした投げ技で、次々とぶっ飛ばした。
「ルットファミリーが弱まれば、他のファミリーが動いて、何かが露わになればいいんだけど」
リンクが地に伏した構成員達を見下ろしながら呟くと、
「妖人のお姉さんの思惑通りになるかもね。賢いファミリーは警戒して様子見をしてる。星霊石粉の情報の拡散とか色々展開が早くて何かおかしいって」
額に未熟な角を二本持つ15歳の少年が話し掛けて来た。
「じゃぁ、そのまま様子見で新聞社に関わってられなくなればいいんだけど」
リンクは肩を竦めながら、
「どうだろうね」
口の堅そうな少年に探りの目を向けた。
快晴の午後、現在のザイト、ベジィザの北方にある町『ヒホールン』。
「少々よいだろうか? これを調査してほしいのじゃ!」
薬草ギルド『ラパル』を訪れた
リリムローズ・サファイアブレスは、ギルド員の人間の女性に声を掛け、ネヴュラに託された星霊石粉専門店『グッツエ』の予約限定の星霊石粉の一つを見せた。
「これは……?」
女性が出所を訊ねた。
「ネヴュラ師匠が手に入れた物でな」
リリムローズは事情が特殊なため、詳細は告げないながらも真摯に頼んだ。
「引き受けるわ。丁度、調査に強いギルド員が来ているから半日もあれば分かるかと」
女性は引き受けてくれた上に、結果を今日中に貰えるという抜群のタイミング。
「では、頼むのじゃ(ザイトの『現在』の知識と技術だからこそ、わかることもあるかもしれんからのう!)」
リリムローズも思惑があってこそ現在を調査の場所に決めたのだ。
「これの調査をお願い」
女性が通りかかった妖人の男性に星霊石粉を託した所で、
「あと、白い花のシロルの人工栽培についての最新の技術が書いてある専門書のお薦めがあれば、購入したいのじゃ!」
リリムローズは、星霊石粉の被害者治療にとって重要な植物について訊ねた。
「人工栽培は6年前に何とか確立したけど、シロルは環境に弱くて植え替えると弱って枯れるから、土ごと植え替えたり同成分の栄養液による水耕栽培とか、ウチでは星霊石粉を使わないから気を遣う事が多いし改良も数を増やすのも難しくて……まだまだ試行錯誤中よ」
女性は詳しく答えてくれた。
「では、20年前くらいには栽培方法が確立していなかったり、未発見だった薬草や効能についての最新の知見の書かれた本もないかのう?」
さらに訊ねた。
「それなら当ギルドで出してる本があるわ。他にも薬草関連ならだいたいの物が図書室に揃ってるし外部の人でも閲覧可能よ」
と言う女性の案内でリリムローズは図書室に行き、
「さて、始めるかのう。さすがに20年前に違和感なく持ち込むためには、抜粋とか要約が必要かのう」
集めた書物のあまりの量に思わず呟いてしまう。
「でも、我はネヴュラ師匠の弟子だからのう!」
リリムローズはめげずに過去のザイトへ『現在』の技術を持ち込むための作業に取り掛かった。
かなりの時間を掛け作業が終わった所で、余った星霊石粉と使用者の心身の平和を心底思っていない調査の結果を受け取った。
そして、竜一達五人はしかるべき場所に報告した。