【シェルターまでの道】
集落から助けられた者達は少し離れた安全な場所まで連れて来られた。その場所に一時的に集まってもらい、そこからシェルターまで向かう事になっている。
「申し訳ありませんが、全員を乗せていく事は出来ません。2往復する形で皆さんをお連れします」
川上 一夫が救出した人達に説明をする。
彼が乗ってきたカオスダイバーは運転手を含めて最大で6人。しかし、一夫のトラックには4人乗ってもらうことになっている
「私の方にもトラックがある。こちらには5人乗ってもらう」
そう言うのは
マーク・シーバーグだ。彼はピックアップトラックに乗ってきており、自分を含めた最大定員でシェルターまで向かう事にした。
全員で17人。こちらで1回で運べる人数は10人だ。それを2往復することで全員を連れていく作戦になっている。
ただ、住人全てが無傷というわけではなく、見付けた人の中には怪我が酷いため1回目で乗せるには辛い人もいた。
第1陣としてまず行くのは、子供5人と比較的怪我がない大人4人が乗る事になった。
「では、出発します。後方は任せました」
「了解よ、任せておいて」
「こちらも出発する。安全運転をするつもりだが、シートベルトはしっかりつけておいてくれ」
一夫の1人分空いた席には
フロート・シャールが乗って、何が起きても大丈夫なようにしておく。
ここまでの道にはそれほど混沌の獣は多くなかったが、万が一の事があるのでフロートに近寄ってきた敵がいれば迎撃してもらう形だ。
第一陣が出発して、その場に残っているのはある程度の怪我を負っている人達。本当であれば先に連れて行った方がよいのだが今回はそれをやめた理由があった。
「出来るだけ集まって下さい! 治療を行います!」
師走 ふわりが救助してきた人たちへとそう言う。彼女はドローンを繋げると、その範囲にいる住人達の怪我を治していた。
今回はふわりという怪我を治療する立場の人材がいるため、無理に最初に運ぶよりもある程度治療を施してから行った方が安全だった。
「ありがとう……大分楽になってきたよ」
「無理はしないでくださいね。すぐにトラックが戻ってきますから」
「す、すまない! この人を見てくれ!」
足も怪我していたが、ここまで歩くことが出来たようだ。しかし、汚染もあり危険な状態になっている人がいる。このままでは死んでしまう可能性もあった。
すぐにふわりはその人の元へと駆け寄るとP.S.L.C.改を7基展開させ、ドローンの機能をフルに使い、横笛から聞こえる音楽と共に中和に加えて足の治療もしていく。
「はぁはぁ……。……すぅ……」
「良かった……!」
苦しそうだった息遣いが元に戻り、足も完全ではないがある程度は治療が出来たようだ。ここに残っているのは大人であり、動ける人も何人かいるので運ぶには問題がないだろう。
「そっちはどう?」
そこにやってきたのは
創世御名 蛇々だった。彼女は後方を警戒しており、避難している人達を守るために動いていた。
「はい、問題ないです」
「敵はこの周辺にいるかな?」
「ちょっと待ってください」
ふわりは周囲の偵察に抱いているドローンから情報を共有して、それを蛇々へと伝えた。
「よし、それじゃ私は今度そっち行ってみるね。ここは任せたよ!」
そう言って教えてもらった方へと向かうと、少し離れた場所に1体のヤクシャがいるのを見付ける。
「1体ならどうにか出来るよね」
ジェネリックライフルを構えた蛇々は敵を射程距離に入れると、こちらに気付かれるより前に引き金を引いた。そのエネルギー弾は真っ直ぐではなく、横に弾道を曲げながらヤクシャへと着弾する。
1発で倒せるとは思っていないので、すぐに移動して撃破の為に動いて次の射撃ポイントを探し始めた。しかし、その間に敵はこちらの姿に気付いて近づいてくるのが見えた。
「遮蔽物が多いってことは、こっちだけじゃなくて向こうにも有利に運ぶのが嫌だな」
1人で後方を守っている為、不安はある。しかし、避難している人達のほうがもっと不安だということ。だから、蛇々はみんなを守るために気持ちを強く持つ。
敵が出てきた所を確認しつつ、自分はしっかり捕捉をしておく。敵は遮蔽物を利用しようとするほどの知能は持っていないようだ。これならば――。
「よし!」
上手くやれば必ず倒すことが出来る。
「後は集落から混沌の獣が来なければ良いけど……」
蛇々は集落の方を見る。あそこにはまだ多くの混沌の獣が残っている。現在救助部隊が集落の入口付近に待機しており、こちらに来ないよう動いてくれている。
それでも、絶対安全とは言えない。そのために、蛇々はふわりと連携をしながら殿としての仕事を果たしていく。
車両組の1人であるマークは戦闘を走っており、その後ろに一夫のカオスダイバーが走っている。
「どこのシェルターに行くんですか?」
「この辺りで一番近くにあるシェルターは分かるか? そこに向かっている」
シェルターまで連れていくという話をしたのだが、やはり不安なのか運転席に乗っている男性が確認をしてきた。
「大丈夫だ、すぐにつく。目視では獣も確認出来ないしな」
現状では安全に向かう事が出来ているので、後方にいる味方のお陰だろう。マーク自身はズーパックのドローンも準備してあるので何かがあれば対応が出来るようにしていた。
リス型のドローンにルートを割り出してもらっているので、安全に動くことが出来るルートは確保出来ている。しかし、油断は出来ないので目視でも確認をしつつ進んでいく。
こうして第1陣を終えるとすぐに合流ポイントへと戻っていく。
残りは8人。マークの方へ5人乗り、残りは一夫の方のトラックへ。そして、蛇々とふわりもそれに乗る事で、後方の警戒をしつつシェルターへと戻っていく。
「安全は確保していますが、後方はどうですか?」
「ええ、問題ないわ。集落の方から敵が来る様子もないしね」
トラックの後方を目視で確認しているフロートが答える。一夫のズーパックのウサギを放っており、それによって混沌の獣がいる場所など確認して避けるようなルートを通っている。
それぞれ一夫とマークの2人で行っているので、ここまで特に問題がなく来ることが出来ていた。
「……ちょっとルートを変更しましょう」
「何かあったの?」
「いえ、問題はないんです。ただ、このまま行くと敵の近くを通るので――」
ドローンからの情報でシェルターへと最短の道を通ると敵の近くを通る事になってしまうと一夫が気付く。しかし、怪我人もいるので出来るだけ最短ルートを通っておきたい。
「よし、それなら私に任せておいて! そのポイントになったら私が引き付けておくわ」
「分かりました」
そう言って敵の一番近くまでやってきた所でフロートはトラックから飛び降りる。そして、混沌の獣がいる場所へと急いだ。
そこにいたのはラクシャスであったが、あのくらいであれば自分でも対応が出来るくらいだろう。何かあった時の為に一気に倒しておきたい。
FI双月とシールドランスの一部を外し、大型シールドを展開。トラックに気付かせないように、回り込んでいく。
「敵はこっちにいるわよ!」
少し大げさに声を出して呼ぶと、上手くこちらへと向かってきてくれる。真っ直ぐ突進してくる敵に対して、周辺の瓦礫などを蹴りつつ立体的に動き回避をする。
振り返り様に敵の体当たりが来るが、それは盾を使って防ぐ。
「このくらいなら……!」
足元を攻撃しつつ、火力は足りないが時間をかけて戦う事で無力化に成功する。これで、トラックの方へと向かう敵もいなくなっただろう。