■最中と夏祭り
曇り空の昼、アトラ、新東京特区の出島公園。
「本当ならふわり様に案内していただきたいところでしたけど、どうやら『最中』というものを作るらしいからあんまり付き合えないとのことですわ。ですから、フロート様に案内をお願いしたいのですが」
アリーセ・クライトは、ここに来る前に訊ねた時のふわりの大変そうな様子を思い出しつつ、案内役をお願いする。
「任せて! ふわりさんの新相棒となったアリーセさんにも是非、主戦場にしてるアトラのことは知ってもらいたいし」
フロート・シャールは任せろと胸を叩いて言うなり、
「さぁ、一緒にぱーっと遊ぶわよ!」
嬉々と賑やかな夏祭りの輪に駆けて行った。
「はい。精一杯楽しみますわ(ここのことはあまりよく知りませんから、できるだけフロート様から離れないようにしなければ)」
意気込みたっぷりのアリーセは、フロートに置いて行かれまいと続いた。
「まずはどこから回りますか?」
祭りに加わったアリーセは賑やかな屋台や行き交う人達の様子に胸を躍らせながら、アリーセに案内役を発揮して貰おうとする。
「ここはやっぱり、定番の射的かしらね? ヨーヨー釣りとかもいいわね。りんご飴やわたあめ、焼きそばもいいわね」
フロートは、誰もが知る夏祭り定番をあれもこれもと挙げていく。聞くだけで楽しくなる。
「定番が沢山ですわね」
楽しくなったアリーセは笑みをこぼす。
「時間はたっぷりあるから、全部回るわよ。まずは射的から!」
フロートはにっと口元を不敵に歪めると、近くの射的の屋台から攻める。
「はい」
アリーセは嬉々と続いた。
「まずは私がお手本を見せるわね」
フロートが手本を見せるために一番手を務める。
「どれも手強そうですね」
アリーセは標的の顔ぶれに眉を顰めた。頑丈そうな物から巨大な物とコルク弾では倒すのは、難しそうな物ばかり。
二人は散々挑戦するも標的の意地悪な配置により、
「一つもとれませんでしたわね」
「あの配置は意地悪だったわね。気分直しにヨーヨー釣りに挑戦するわよ」
結果は残念なものであった。がっかりするアリーセと愚痴るフロートは、気分直しにヨーヨー釣りに挑戦する。
結果は、
「今度は釣れたわね」
上々であった。フロートは射的での名誉を挽回できたと満足げだ。
「はい……これ面白いです」
アリーセは嬉しそうにヨーヨーを打つ。
「わたあめがあるわ。食べに行くわよ。その次は隣の林檎飴も」
フロートはわたあめと林檎飴を発見し、嬉々と誘った。
「美味しそうですね」
アリーセは即乗った。片手でヨーヨー遊びをしながら。
二人は迷いなく両方購入した。
「わたあめも林檎飴もおいしいですわ」
アリーセはわたあめと林檎飴を交互に食べ、甘さににっこり。
「まさに夏祭りの味ね!」
フロートも頬張りながら楽しそうに言った。
「これが夏祭りの味ですか。楽しい味ですわね」
アリーセは、手にある夏祭り定番の甘味にしみじみと見た。
存分に食べ歩きを楽しむ。
平らげた所で、
「次は焼きそばを食べようか。たこ焼きも美味しいよ! 折角だから両方買おう」
フロートの提案で、焼きそばとたこ焼きを味わう。
夏祭りを満喫する内に時間は昼から夜に移り変わり、雲が晴れ星空が露わになった。
「お面が売ってるよ。少し見て行こう」
「色んなものがありますわね」
夜になっても夏祭りを楽しむ勢いは衰えぬフロートとアリーセ。
そんな中、
「今、悲鳴が……行ってみよう。もし悪いことをする人がいたら成敗よ!」
「怪我人がいれば、治療はわたくしがしますわ」
フロートとアリーセの耳に甲高い悲鳴が聞こえ、急いで駆け付け、地面に座り込んだ若い女性を発見。
「大丈夫? 何があったの?」
フロートが手早く事情を訊ねると、
「財布が入った鞄をとられて……」
女性は泣きそうな声で事情を言い、小さくなる男性の背中を指さした。
「あの人ね、大丈夫。すぐに取り返して来るから。アリーセさん、後は任せるわ」
フロートはアリーセに女性の事を任せて、鞄を取り返すべく駆け出した。
「はい! 気を付けて下さい」
アリーセは見送った後、
「擦り傷が酷いですわね。すぐに治療しますわ」
女性の状態を確認し、かすり傷を『治療術』で手早く手当てをしていく。
「抵抗したら突き飛ばされて、その時に……ありがとう」
女性は怪我の経緯を語り、手当ての礼を言った。
一方。
「盗んだ物を返すのよー!」
盗人を追うフロートは、声を張り相手を牽制しながら追跡を続けていた。
「やべっ!!」
盗人は危機を感じ焦った声を洩らす。
「この距離なら……」
フロートはあと一押しの距離と見るなり、
「はぁぁぁぁぁああ!!」
ブースターレッグの踵のブースターを起動し、速度を上げ、
「げっ!? く、くるなぁあ」
一気に迫り、
「悪人は成敗!」
素早い一撃である『ハイヴェロシティスラッシュ』を食らわせて意識を刈り取り、その場に縫い留めた。
「この鞄は返して貰うわ」
すみやかに鞄を取り返した。
フロートとアリーセは事件の後処理をしてから、屋台巡りに戻った。
戻って早々、フロートとアリーセは最中を配布する
師走 ふわりを見つけ、声をかけに行った。
一方、曇りの昼空に戻る。
「……アリーセさんとフロートさん、夏祭りを楽しんでいるでしょうか」
屋台巡りをする二人を気に掛けるふわり。
そんなふわりの手元には、
「量はこれで足りるでしょうか。足りなければ、また作りに戻りましょう」
沢山の最中。イベント関係者にお願いして用意して貰った材料から『メイクスイーツ』を活かしてもち米も小豆も質のいいものを選び、作った物だ。
「最中はいかがですか? 新東京モナカとは違う大人向けの味わいを楽しんでみませんか」
ふわりは最中配布に繰り出した。
「最中? 食べたい」
「大人向けってどんな感じ?」
「新東京モナカと何か違うの?」
ふわりの宣伝に好奇心から最中を手にする人々。
味の評判は、
「おいしい!」
「新東京モナカより大人って感じね」
「甘過ぎず上品な味わいだね」
上々であった。
ただ最中を配布するだけでなく、
「これだけ人が多いと、体調不良者が出てもおかしくないですね。重症者も……」
祭りでお決まりの心配もする。
その心配は見事に的中し、貧血で倒れる女性を『クイックエイド』を使い直接癒したり、重症者にも出会い、蘇生機能を持つドローンの『P.S.L.C.改×7』を使って治療をしたりと忙しくした。
最中の配布に精を出す内に時間は、昼から夜に変わり、天気も雲が晴れ、星空が顔を出した。
そんな中、
「ふわり様」
「ふわりさん」
アリーセとフロートに声を掛けられた。
「あら、アリーセさん、フロートさん、夏祭りは楽しんでいますか?」
気付いたふわりは、にっこりと二人を迎えた。
「楽しんでるわよ。頼まれた案内もばっちり。ね?」
フロートが真っ先に答えて隣に目配せをした。
「はい、この通り楽しんでいますわ」
アリーセは投げられた目配せに頷いてから、戦利品をふわりに見せつけた。
「ふふふ、楽しんでいるようで良かったです」
ふわりは嬉しそうに微笑んだ。
やり取りがひと段落するなりふわりは最中配布に戻り、アリーセとフロートは屋台巡りに戻った。
三人は思い思いにアトラの夏祭りを満喫するのだった。