■父親に夏休みは無い
快晴の夜、バイナリア、西オデッサの西トリス、バー『ヴィレン』。
「お久しぶりです」
川上 一夫は慣れた足取りで入店し、常連客だからこその挨拶をマスターにした。
「お久しぶりです」
マスターを務める年かさの男性は、親し気な挨拶と共に迎えてくれた。
一夫はいつものようにカウンターに座り、
「今、子供達が夏休み中で、『何処かへ連れて行け!』とうるさいのですよ。それで、家族サービスで、何処かへ家族旅行をしたいと考えたのですが……」
溜息を吐きつつ、語る脳裏ではせっつく娘達の顔がよぎる。
「子供、特に女の子が楽しめる場所は、中年親父の私には全く分からなくて、マスターの知恵を拝借し、家族皆が楽しめる家族旅行計画を立てたいと思いたったのですが……」
年頃の女の子の好む場所となると外出の難度がとてつもなく上がったため、助言を求めて来たという訳である。
「私でよければ……」
マスターは、客が少なく話に興じても問題無いと見て相談相手を引き受けた。
「では、話の前に軽めの酒を」
一夫は、舌を滑らかにするために軽めの酒を注文した。
少し待った後、
「こちらも、どうぞ」
注文した軽めの酒と一緒にぴったりのおつまみをおまけして貰った。
「……ありがとうございます」
一夫は、ありがたくつまみと酒を美味しく味わいつつ、
「一応、行先はこれを参考に考えてはいて……」
相談のために持参した東トリスの都市情報雑誌『東トリスシティウォーク』を出してページを捲りながら自身が立案した家族旅行計画について、西オデッサ在住のマスターにも分かり易いように丁寧に説明していく。
そして話し終えると、
「……以上が私が考えている家族旅行計画です。改善点の指摘をお願い出来ますでしょうか」
真剣に聞いてくれたマスターに助言を求めた。
「女の子が気に入るような場所は難しいですよね」
マスターは実感のこもった言葉の後、
「……指摘、ですか。よい計画だと思いますが……その日限定のイベントやグルメを中心にしてはいかがでしょうか。いつもとは違う特別な経験が出来、忘れがたい思い出になるのではと……」
しばし考え込んでから出来る限りの助言をしてくれた。
「……なるほど」
と言って、マスターの話を参考に入れた後、一夫は残りの酒とつまみを平らげた。
そして、
「相談に乗って頂き、ありがとうございました」
一夫は礼の後、支払いを済ませ店を出た。