第1章『占拠された砂船』
人が闇に抗う世界、ローランド。
かつて魔王に支配されていた国もあったが、
他国や他の世界の人間が協力することで魔王を滅ぼし、国を取り戻すことができた。
現在では、ある者は落ち着いた世界を享受し、ある者は探求心のままに行動していた。
ヴュステラント連合国首都、ザンテンブルク。
いつもなら多くの人が乗り降りする砂船の駅だが、今は「葉」の印を掲げたオールグリーン教に占拠されていた。
砂船自体も妨害を受け、車体が汚されている状態だった。
そこに依頼を受けた冒険者である
シン・カイファ・ラウベンタールと
ジャスティン・フォードも到着した。
「教祖を無力化するためには、まず周囲の取り巻きの整理かな」
シンはまず信者の前へ向かうと、持っている食材や道具を落とすように腕を攻撃する。
「こっちは取り巻き連中の『選別』といこう。俺が目星をつけやすくする!」
一方ジャスティンは『ティア―バレット』を銃に込めると威嚇射撃として放った。
兵士たちと周囲の魔力を乱し、一部の兵士は不快感から咳やくしゃみをし始める。
「咳込んだりして無力化したのはフツーに人間だろう。そうでないのは多分機械族だ」
視界と行動を妨害する人間の登場に周囲は騒然となった。
「一般信者は一般人市民で、戦闘にはトーシロだったな」
持ち物を落とさせると、信者たちの急所を殴っていった。
信者や人間の兵士たちが倒れる中、機械族である兵士たちは対抗するように襲ってくる。
「機械族とわかれば容赦なくいくぜ」
シンは鞭とナイフを持ち、兵士に接近した。先に鞭を振るい、兵士の1体に巻きつける。
鞭からは青い炎が現れ兵士の全身に燃え広がった。突然の発火に周囲の兵士の数人が退く。
その間に『エアロナイフ』で急所を攻撃して機械族の兵士は倒れていった。
他の兵士たちも襲ってくる中、シンはナイフを振り局地的な突風を起こす。
その風で一瞬身動きが取れなくなった隙をつき、ナイフでトドメを刺していった。
人間の兵士を拘束している間に『ディアーバレット』の効果がなかった機械族の兵士たちが襲ってくる。
ジャスティンは術式で弾丸を分裂させ、複数の敵を攻撃していった。
砂船の駅中央では教祖が謎の演説する。それにより信者や周囲の人々は操られていた。
「洗脳対策か。 こっちも強力な、癖になるフレーズ口ずさんで対抗かなー、新右衛門さん」
ジャスティンに問いかけると対抗するようにシンは歌い始める。
「♪すきすきすきすきすきっすきー アイ・ラヴ・ユー 愛がすべてだぜ?」
シンが突然洗脳を防ぐために歌い始める。
「たしかにインパクト強くてクセになるリズム、フレーズ、メロディーだな
・・・・・・違う地平の邪教を広めてしまうことにならなければいいが・・・・・・」
心配しつつもジャスティンはシンに合わせた。
「♪すきすきすきすきすきっすきー さあ、みなさんご一緒に!」
2人はかなりノリノリで歌い続けた。ジャスティンがシンの手元を見ると、『ディオスピリッツ』の瓶を握りしめている。
「・・・・・・あっ、シン・カイファ、おまえ飲んでるなー!?」
酔っ払っていたシンにジャスティンが指摘した。
聞こえないよう調子よく歌ったが、魔力のこもった演説が歌を凌駕し、あやうく洗脳されかける。
解放されるために一度距離を取ると、倒したはずの兵士は増えてくる。すると、シンは呼びかけた。
「たすけてシンえもーん!」
すると、鷹が現れ急降下攻撃を繰り出し、事なきを得た。
* * *
一方、偶然巻き込まれたとはいえ、デザトリアン・カルネールが困惑していると
星川 潤也と
アリーチェ・ビブリオテカリオが現れる。
「依頼があったから駆けつけてみれば・・・・・・デザトリアン、また厄介な事件に巻き込まれてるんだな」
デザトリアンからある程度事情を聞いた潤也がオールグリーン教の様子を窺う。
「で、あいつらが食材を奪っていったせいで、デザトリアンは店をクビにされたのか」
「デザトリアン、あいかわらず不遇というか不憫ね・・・・・・」
分かりやすく肩を落とすデザトリアンにアリーチェもため息をつく。
元極悪令嬢特有の高飛車な態度もなく、落ち込むデザトリアンにしょうがない、とアリーチェが呟いた。
「助けてあげるわ。やるわよ、潤也!」
「よし、わかった。じゃあ、あいつらを叩きのめして、ちゃんと店に謝らせよう」
2人は『上級冒険者勲章』で精神干渉を防ぎながら兵士たちの方へと進んでいった。
敵も対抗するように剣を振るい襲いかかってくる。
潤也は自らの残像を生みだし、相手を惑わせることで回避していった。
そして、『エメラルドソード』を鞘から抜けば鮮やかな緑色に輝いた。
その刃には風と雷を蓄えられ、潤也は兵士たちに向かって回転しながら斬りつけていく。
「これでどうだ!」
まるで嵐のように武器と鎧を破壊し、兵士たちに風と雷を浴びせた。
潤也が兵士たちに剣を振るって攻撃している間、アリーチェ自身は大魔弓『旋渦の潮』で援護射撃をした。
地の術式を付与した矢を彼女はあえて地面に命中させる。
すると、その周囲は一気にぬかるみとなり、兵士たちの足を飲み込んでいった。
足を取られてしまい、兵士たちがあがき必死に上がろうとする。
「そう簡単には逃がさないわよ!」
抵抗する兵士に気づいたアリーチェはもう一種の矢を放った。
その矢には雷の術式が刻まれ、地面に刺さると魔力で作られた鎖が伸びてくる。そして、兵士たちに絡みつき、動きを止めた。
「あんたたち、しばらくそこに埋まって反省してなさい!」
* * *
「ワタクシも何かできれば・・・・・・」
一般市民と変わらないデザトリアンにできることは限られており、いまだ現状に困惑していた。
そこに現れたのは
川上 一夫だった。
「私も、リストラで会社をクビにされた経験がある。なので、デザトリアン様が落ち込むのも良く分かります。
同じく仕事をクビになった者として、デザトリアン様を助けましょう!」
さっそく兵士たちが一夫たち冒険者を排除しようと向かってくる。
一夫は帆つきの四輪駆動車である『鋼鉄の弾丸号』に乗り込み、敵陣へと進んでいく。
咄嗟に近くにいたデザトリアンも同乗することとなってしまった。
「しっかり捕まっていてくださいね!」
「分かりましたわ!」
『上級冒険者勲章』により教祖の言葉に洗脳されることはなかった。
小型ではあるが、突然の車の登場に信者や兵士たちが避けていった。
さらに、飛んできた食材や武器らは重ね張りした防御結界とシールドで弾いたり火炎弾をまき散らして自身を防御する。
「私自身の守りは万全です! 今、支援に参りますよ!」
一夫は魔力式ガトリングガン『チーズメーカー』を用意すると、兵士たちへ次々と撃ち込んでいく。
弾には腐食液が塗られており、兵士の鎧を脆くし冒険者たちの支援をしていった。
さらに、四輪駆動車とガトリングガンの爆音に不快感から集中力を欠き、他の冒険者たちに倒されていく。
戦いが一段落つき、改めて即席の沼に浸かった兵士たちを見れば、すっかり意気消沈していた。
もう占拠や暴動は起こさないだろう、と考えたアリーチェは彼らに問いかける。
「・・・・・・で、ちゃんと謝るなら沼地から出してあげるけど、どうする?」
彼女の質問に兵士たちは頷いた。
一通り片付け終えると、潤也は無力化した兵士たちにまだ手をつけてない食材の箱を持ってくる。
「お前たち、ちゃんと店とデザトリアンに謝って、食材を返してこい!」
正気に戻った兵士たちはデザトリアンが勤めていた店も含め、様々な店に謝罪をしながら食材を返していった。