■力になりたい
昼、現代のザイト、ネーヴィアのジュロッス。
「どうしてこの世界は魔物が増えて、幻獣が減ってしまったんだろう……。もし原因がわかったら、過去に戻って阻止できないかな」
「そうね。こっちの時代で分かった事を過去に行って幻獣に教えてあげたら、止める事が出来るかもしれないわね」
案内役から情報を聞き終えた
星川 潤也と
アリーチェ・ビブリオテカリオは、心優しさからこの世界の現状に憂えていた。
「……よしっ、幻獣を助けるためにも、まずは原因について調べてみよう。生き残りの幻獣を探して聞き込みだ」
潤也の提案を受けて、早速行動開始だ。まずは相手を知らねばならぬ。
幻獣がほとんどいないとあって捜索に苦労したが、何とか貧民区域で見つけ聞き込みにこぎつけた。
貧民区域に赴き、
「こんにちは、初めまして」
「幻獣で間違いないかしら?」
潤也とアリーチェが声を掛けたのは、薄暗がりにいる耳のとんがった外見7歳の幼い少女。
「うん、エインセルという幻獣のエーカだよ」
幻獣が名乗ってから、
「少し話をして貰えないかしら」
「幻獣が減ってしまった理由を教えてくれないか?」
アリーチェと潤也が目的を果たすべく訊ねた。
「……」
エーカは少し辛そうな顔になる。
「ごめんな、つらいことを思い出させるかもしれないけど……俺は……幻獣を助けたいんだ」
彼女の顔から察した潤也は、気持ちを慮るように優しく言った。
エーカは二人をじっと見た後、
「20年前、ここの人達のためにと色々活動していた親友がいて種族を変える星霊石粉とか普通の星霊石粉を飲んでは体を酷使して働いていて……あの夜、種族を変える星霊石粉を飲んで突然、おかしくなって、暴れ出して……あたし、突き飛ばされて気を失って、気付いたら、あの子、いなくて……警察にも捜索お願いを出したんだけど見つからなくて」
ぽつぽつと語り出した。当時を思い出してか、悲しそうに。
「いなくなった、か。何か、行方の手掛かりは残っていなかったのかな?」
頼りない話に少しでも手掛かりが欲しくて訊ねる潤也。
「……手がかり……」
エーカは俯き加減に考え込む。
「ゆっくりでいいから、思い出してちょうだい」
アリーチェは彼女の背中にそっと手を当て、優しく声を掛ける。
「気のせいだと思って警察には言わなかったんだけど……目を覚ましたら、窓が壊されてて、何か甘い匂いが残っていた。果物が腐った感じ、でも、凄く微かな匂い」
ふと、思い出したエーカは顔を上げ、答えた。
「その匂いは今まで友達からしたかしら? それとも部屋に匂いがするような物があったのかしら」
アリーチェが詳しく訊ねると、
「どれもない」
エーカは、はっきりと左右に首を振った。
「そのお友達の外見とか詳しく教えてくれないか?」
潤也が消えた友人について訊ねた。
「えとね、カリカンジャロスっていう幻獣でね、尻尾や角があったり見た目は怖い感じなんだけど陽気で……」
エーカは寂しそうに答えた。
それを聞くやいなや、
「アリーチェ、頼んでいいか?」
潤也は含みをこめて言う。表情は真剣そのもの。
「えぇ、任せてちょうだい」
詳しく聞かなくてもやるべき事は分かる。アリーチェはこの場を離れて、過去へ向かった。
潤也はエーカを励ましながらその場に待機。
しばらくして、
「潤也、戻ったわよ」
アリーチェが戻って来たため、潤也はエーカに別れの挨拶をしてこの場を移動した。
貧民区域を出た後。
「で、どうだった?」
場所を変えた所で早速報告を促す潤也。
「話の通り事件が起きていたわ。窓から彼女の友人らしき幻獣が出てきたのだけど、マナがかなり乱れていて、様子もおかしかった。理性が無いような……夜だし灯りが少ない貧民区域だから姿はよく分からなかったけど、ただ事じゃないわ。捕縛を試みようと思ったけど、諦めたわ。視界も悪いし隙が無かったもの」
アリーチェは【マナサーチ】で確認した事を伝え、役目が無かったネットが出る手持ちバズーカーGC:ネットキャノンに視線を落とした。
「隙が無かった?」
聞き返す潤也。
「大きな建物を飛び越えて消えてしまったのよ。匂いは確かにしたわ。それで、事情は警察や魔物専門の所にいる幻獣に話しておいたわ。仲間と協力して助け合うようにと気を付けてちょうだいと」
向こうでストレンジャーとなったアリーチェは、正体が知られないように【フォーカス】でしっかりと相手との距離を保ちながらもやるべき事はきちんとしていた。
「……そうか」
潤也は報告を聞きながら考え込み、
「伝えた事で、少しでも未来が変わればいいんだけど……」
アリーチェは、報告が過去の世界で役立ててくれたらと願った。