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蒼き大海へ向かえ:2

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蒼き大海へ向かえ:2
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 瑞穂皇国(みずほこうこく)の首都・東都(とうと)に程近い街、倉浜(くらはま)
 港町でもあるここは、人や物資の行き来も多く、東都よりも早く文明開化が訪れた、と言われている。
 色 九十九(しき・つくも)は、この倉浜に事務所を構えていた。
「御茶ニゴザイマス」
 DDM- 23は、【紅茶マイスター】で淹れたとっておきの紅茶を出した。相手は彼女のパートナー、邑垣 舞花である。
「どこまでお話しましたっけ?」
 カップの中身を空にして、舞花は尋ねた。かなりの時間喋り続けて、喉がすっかり乾いていたようだ。
「蒼の身体を連れて行って、手術して目覚めたはいいが、記憶を失くしていた、というところまでだ」
 電話でも話を聞いたし、星導技師である南門 纏(なんもん・まとい)から事情を説明する手紙も貰った。ここまでの内容に、齟齬はない。問題は、その先だ。
 舞花は頷いた。
「纏さんと物集 法眼(もずめ・ほうがん)様に診てもらいましたが、名前も過去も何もかも忘れているようです。法眼様は、星導石を何度も入れ替えたことによるトラブルだろうと仰ってました」
「そりゃまあなあ、人間で言えば脳みそみたいなもんだろ? 移し替えなんかして、影響がないわけないな」
 この世界、この時代で人体の脳移植が成功したという例はない。それでも、脳が全ての機能を司っている、ということぐらいは一般人でも理解していた。
「治るのか?」
「法眼様によれば、すぐに戻ることもあれば、時間がかかることも。或いは一生、ということも……」
「つーすりー」
と、九十九は背後にいる23に首を巡らせた。「お前さん、どう思う?」
「質問ノ意図ガ分カリカネマス」
「つまりだな、物集法眼の言うことは人間の医者の言うこととあんまり変わらん。汽人の記憶喪失なんてそうそうないし、あったとしても、――まあ、大抵は諦めるだろう」
 人ではないが故に。
「これが何らかのからくりなら、こう、叩いてみる、ってのもアリだが」
 九十九は右手で手刀を形作った。「お前さんたち汽人相手に、それが有効かも分からん」
「DDM-23さんで試さないでくださいね」
石動 天馬(いするぎ・てんま)じゃあるまいし」
 政府お抱えのA級星導技師である天馬は、とにかく汽人を調べ尽くしたい男だ。彼ならば、実験と称してそれぐらいしそうだと舞花も思った。
「一般ノ汽人ハ分カリマセンガ、戦闘ニ特化シタ汽人ガ、叩イタグライデ影響ガアルトハ思エマセン」
「そりゃそうか」
 ましてや皇 蒼(すめらぎ・あお)は、激しい戦いを繰り広げてきた。今更ちょっと叩いたぐらいで、どうにかなるものでもあるまい。
「じゃあたとえば、もう一度星導石を取り出して、また戻すってのはどうだ?」
 舞花はかぶりを振った。
「下手に弄ると、完全に初期化されてしまう可能性があるそうです」
 少なくとも今の蒼は戦闘能力を有しており、自分で自分の身を守れる。だが初期化してしまえば、それすら出来なくなってしまう。
「お手上げか」
「法眼様は三つの道があると仰ってました」
 舞花は指を三本立てた。
「気長に待つか、九十九さんの言うようにショック療法――これは精神的、物理的なものも含めます――、もしくは諦めて一からやり直すか」
「一からってのは?」
「人間関係も何もかも、最初から構築し直す、ということです。ただこれだと問題が一つ」
「姫さんか」
 舞花は頷いた。
「私としては約束通り、伽耶(かや)さんの護衛についてほしいのですが、このままではそれでも出来ません」
「そうなると、物集法眼の保護下にあるままか……それはちょっと、まずいな」
「まずいですか?」
「あんまりこういうことは言いたくないんだがな。物集法眼ほどの力があれば、蒼の能力を解放させることも可能だろう。その強大な力を、あの女一人でどうにか出来ちまうってことだ」
「――あ」
 物集法眼がどんな人物であるか、舞花にはまだよく分かっていない。彼女が、蒼の力を無闇に使わないという保証はないのだ。
 その事実に改めて気づき、舞花は愕然とするのだった。


 小山田 小太郎は、東都にいた。
 東都への大行進が終わり、異人たちはそれぞれの居住地に戻っていった。待っているのは、いつもの日常――であればいいが、実際は違う。
「見張られている、ですか?」
 小太郎は、唖然として問い返した。タヌキの異人であるオタウシ・ウシは、頷いた。
「気のせいでなければ」
 異人たちの大行進は、彼らの肉体だけでなく、精神にも疲労を残している。だからこそ、小太郎や八代 優は、こうして参加者たちのアフターケアを行っている。
「気のせいじゃないと思うわ」
 八葉 蓮花は、オタウシのように大行進に参加した異人たちの追跡調査をしていた。多くの異人が同じことを訴え、実際、蓮花は怪しげな人影を何度か目撃している。
「異人を星導士にするという話も、ちょっと問題があるかもしれないわ」
 蓮花が調べた限り、異人が新たに星導士になるためには、既に免許を取得した異人の保証が必要だという。この保証人に関しては、ギアーズ・ギルドのオビシテクル・クルが引き受けてくれることになっているが、もし新人の星導士が不祥事を起こせば、オビシテクルも連帯責任を問われることとなる。
 オビシテクルに迷惑がかかるかもしれないため、二の足を踏む異人は多い。
「多分、だけれど。何かあったら、異人をいっせいに処罰するからくりなんでしょう」
 どんなに品行方正であっても、冤罪をかけられたら終わりだ。それでも、
「……やります」
と、オタウシは言った。「戦いは得意じゃありませんが、やれることはあるはずです。だから、やります。誰かが、最初にやらなきゃいけないでしょう?」
「ん……星導士にも色んな人がいる……戦いが得意な人……小太郎みたいに治療などを行う人……調査や何かを探すのを手伝う人……。だから……必ずしも、戦いが得意じゃなくても、できない訳ではないと思う……何より、ギルドを通して仕事ができれば……異人の皆も、今より生活しやすくなるかもれいない……」
「やりましょう。オビシテクルさんも、覚悟の上だと思います。ならば、自分たちも覚悟を決めます。やれる限りのことはやりましょう」
 正直、これで隔離政策が緩和されても、「よく分からない力」を持つ異人たちへの恐れや未理解が変わらねば、解決とはならないだろう。それでも、不当な理由で皆が排斥されることが減るのなら、これを――意識を変える、一歩にしたいと小太郎は思っていた。
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