クリエイティブRPG

カルディネア

闇を払う希望の光

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闇を払う希望の光
【!】このシナリオは同世界以外の装備が制限されたシナリオです。
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■ 希望の光


 村の現状を、あるいは敵の様子を確認するため斥候へ出た者たちは、ラピスの証言を元に各々が調査を行っていた。
 一刻を争う事態ではあるが、人質を取られている以上安全策が必要だったのだ。

 高橋 凛音御陵 長恭は、愛馬に騎乗し村へ駆けつけていた。
 村内に立ち入ったあとは魔法で足音を消し、勘付かれない程度に近づき状況を確かめる。

 人質は変わらず家の中に囚われているようで、入口の監視に斧を持ったゴブリンが一匹。その家を守るかのように、剣や斧、弓をもったゴブリンが四匹が巡回している。
 中の様子までは確認できないが、少なくとも外の状況は大きく変わっていないようだ。

「希望と迄言われては断るわけにはいかぬ。なぁキョウ」
「俺もだ。希望に縋り覓めて来た者を、無碍になど」
 凛音の言葉に長恭も同意を示し、これからのことを手短に打ち合わせる。
「では妾は行くぞぃ」
 彼女は鉤爪を利用して近くの木へ登ると、その身を影へ紛れ込ませる。凛音の視線の先では、長恭がランタンの灯りを絞りつつ建物の近くに身を潜めている。

 彼女の視界には、風華・S・エルデノヴァの姿も映る。
 竜の眼力を借り家の様子を確認した風華もまた、家の近くに身を潜めていた。
(人々の平穏のためにも、この身を尽くせたら良いのですが)
 別れ際のラピスは酷く緊張していたようで、風華はそっと香油瓶を差し出していた。
 無理もないだろう。
 こんな荒事に巻き込まれて、知っている人たちの安否すら確認出来ない。それでも彼女は諦めることなく、風華たちの元へ辿り着いたのだ。
 彼女が差し出したリラックス作用のある香のおかげか――希望が見えたからか、ずいぶんと安らいだ笑みを浮かべていたのを思い出す。
 杖を握る手に力を込めて、風華は注意深く周囲を警戒する。
 この位置ならば、扉を目指す者も他の敵の注意を引いた者も、どちらも支援できるはずだから。

 ◆◆◆

 依頼人である少女と、自身の過去をどうしても重ねてしまう。

 だから、リュイック・ラーセスは依頼を引き受けることを決めた者の一人だった。
 彼はミューナ・デュトワアクル・ネイを高所へ引き上げて、村内の様子を偵察にきたのだ。
 彼が手にしているのは、ここへ来るまでにラピスに聞き取り作成していた簡易の見取り図で。
「大きな違いも状況の変化もない」
 ざっと見える範囲の確認だったが、おおよそ事前の情報通りだと二人に告げる。
「あたしたちは、救助の手助けをすればいいんだね?」
 人質がいるとされる家を示すミューナの言葉を、リュイックは肯定し、短く打ち合わせを続ける。
「リュイックは一人で大丈夫?」
 心配げなアクルに、
「俺は大丈夫。二人も気をつけて」
 リュイックは見取り図を受け渡しそれだけを答えると、ゴブリンの元へ駆け出す。

 ◆◆◆

 一方、七種 薺葵 司のフェロー手荒い女僧侶と共に侵入経路らしき場所で行動していた。
(おかしいわ……)
 薺は念のためにと、村に入る前に異常がないか確認をしていた。
 村へ侵入したであろう経路を見つけ、うんと首をかしげる。
 時間が経過したとはいえ、話によれば村にいるゴブリンは五匹のはず。
「やっぱりひとつ、多いわ」
 最低限に絞った僧侶のランタンが照らす地面には、よくよく見ると個体差があり、六匹分の足跡の痕跡が残っている。
 女僧侶と目を合わせると、薺ははやる心を抑えて村の中へ踏み入る。
 誰かに伝える必要がある、伏兵がいると。

「そういうわけで、少なくとももう一匹どこかにいるよ」
 薺がもたらした伏兵の存在は、速やかに共有されていく。
 わざわざくらい森に潜むくらいだ。
 それならば弓か魔法のような、遠距離攻撃でも使うのだろうか。
 どちらにしても、遠くからの攻撃は厄介であることに違いはなく、各々がより警戒を深めるきっかけとなる。

 冒険者たちは斥候に出た戻った者たちからの情報を集約していく。
 道中立てた作戦ではあったが、ほとんど変更することもなく実行に移せそうだった。
 立てた作戦は単純明快だ。
 見張りの注意をそらし、その隙に人質を村外へ逃がす。
 人質の存在こそが今回最大の問題であり、それさえ解決すれば冒険者たちは思う存分に暴れることができる。

 救助へ向かう者。そして他のゴブリンたちを相手する者たちは、それぞれ静かにその時を待っていた。
「行け!」
 と長喜がポニーに合図を出せば、ランタンを揺らせながら村の外を目指してまっすぐに疾走していく。
 暗闇にもまばゆい灯りに誘われるように、ゴブリンの注意が逸れた。

 その隙を逃さず救助に向かう者たちを見送り、後を追おうとするゴブリンを凛音が射貫く。
「小鬼よ、来るが良い!」
 そこへ長恭が牽制の一撃を叩き込む。
 お前の相手は自分たちなのだと、否応にもなく理解させるために。
 凛音が的確に放つ矢が、長恭の誘い出すような手腕が、少しずつゴブリンを建物から引き離す。
「その腕が斧と同じで錆びついて無いならな……」
 長恭と凛音の息の合った連携の前では、役に立ちそうもないけれど。

 ◆◆◆

 その少し前にさかのぼる。

 村の中にはあちらこちらで篝火が焚かれていた。
 再度の襲撃を恐れた村人たちが、どうにか集めて設置したものだ。
 無事だった者たちは村の男たちが比較的多かったが、彼らは一般人にすぎない。
 滅多と出会うことのないゴブリンが、村を突然襲ったのだ。
 威嚇に放った矢の数本が突き立つだけで。
 武器を打ち鳴らす威嚇音が聞こえるだけで、ただ怯えるしかないのだ。愛おしい家族の安否が気になって果敢に向かった者も、ゴブリンに追われてしまえばもう、どうにもならない。
 冒険者たちが過ごす日常というものは、彼らにとってはまるで物語のような日々なのだから。
 だからこそ、せめて夜明けまで持たせることができればと、彼らはせっせと篝火を用意したのだ。

 それでも、村に降りかかるすべての闇を払うことは叶わなかった。
 冒険者たちが持ち込んだランタンの光が、遠目に揺らいで見える。
(これだけ暗ければ、見つかることはないな)
 だが逆に春夏秋冬 日向はその闇を利用し、屋内への侵入を試みていた。
 光量は周囲の状況を把握するには必要十分だった。
 巡回する敵を避け、気配を消して影から影へ音もなく潜み移動することができる程に。
 日向は屋内に敵の気配を感じないことを確認し、窓をほんの微かな音だけで開けてそっとその身を滑り込ませることに成功した。

「安心してくれ冒険者だ」
 静かにしてくれと、日向は村人たちをなだめるように語りかけ、そっと室内を観察する。
 突然の侵入者に怯えを見せたものの、すぐさま日向が救援に来た者だと理解し各々が安堵の表情を浮かべていた。
「わたしたち助かるの……」
「そうだ。もう少しで救援が来るぜ」
 捕らわれていたのはざっと十五名程度。子どもや老人が半数を占めている。
 疲労の色が濃い様子に、少しでも早く逃がしてやりたいと日向は思ったが、まだ外の準備が整っていない。
 怪我人を治療してやりながら、日向は扉の向こうの気配を慎重に探っていた。

 すこしずつ屋内の様子が騒がしくなっていく。
「助けに来たぞ」
 という長喜の声とともに、サーエルン・セルンアウスラーダ・セルンはそっと扉の鍵を下ろした。
「今だよ、みんなここを離れて」
「私たちが守るから、さあ」
 開け放たれる扉。
 日向が飛び出し住民を先導し、トスタノの誘導で逃げやすいようにと足元を照らす風華の持つ杖や、灯されたランタンの光に導かれて、人質となっていた者たちがついに解放された。キクカの疾風の魔法がその足取りを支援する。

「こいつはここで食い止める」
「ですから、皆さんは安心するであります!」
 扉の前で引きつけられているが、老人や子どもが多い。もし万一振り切られた場合被害が拡大しかねない。
 そう判断し、逃げ延びる人々の殿を長喜とキクカが勤め、避難を後押ししていく。

「皆は私たちが守るよ、行こうラーダ」
「さあついてきて」
 借り受けた棒を手にして周囲を警戒しながら、サーエルンは片割れのアウスラーダに呼びかけて、ともに村人を導いていく。

 ◆◆◆

「できるだけ生け捕りにしましょう」
 それがアーティたちの方針だった。
 やはりこの襲撃の理由を解明しておきたかったのだ。 

 村人たちは、少なくともこの場を離れられたはずだった。
 フィーの援護を受けて、ライラは捕らえたゴブリンを逃げられないように厳重に縛り上げる。
「さあどちらになされますか?」
 素直に話すか、それとも秘匿するか。
 選ばせてあげますと、ライラが見せるのはモルゲンシュテルンだった。

 組織だって動くゴブリンに疑問を感じていたリーフリット・テュルキースも同じく、尋問に参加することになった。
「思い過ごしなら、それで良いんだけどね……」
 よくある魔物退治の話ならよいのだ。
 こういった話は、ギルドへ顔を出せばいくらでも転がっている。
 けれど。
 もし何らかの、襲撃へ至った背景があったのなら、冒険者たちが立ち去った後に再度悲劇が起こる可能性だってある。

「村を襲ったことに、何か思惑でもあったでしょうか?」
 アーティの質問に対して、眼前に突きつけられたライラの武器。
 自身の危機を悟ったゴブリンが身振り手振りを交え、必死に何かを訴えてくるが、こちらが理解できないことばを返すのみだった。
「僕たちの言葉を話してくれたら良かったのに」
 リーフリットは落胆したようにため息を吐いて、頭を抱える。
 もしも。もしも再度の襲撃があったとしても。
 その時に、もう自分たちは遠くにいて、この村を救えない可能性だってある。

「この感じだと……そこまで理由はなさそうな気はする。増援が来てもおかしくはないよね?」
 フィーはずっと周囲の警戒はしているのだが、それらしき様子が見えないのだ。
 もしも集団で活動しているのならば、冒険者たちがやってきた時点でゴブリンたちが騒いでもおかしくはないはずだ。
「それなら略奪目的、みたいな?」
 フィーの言葉にリーフリットが問いかける。
 もちろん略奪であったとしても、この一団はここで潰しておくべきなのだけれど。
「どちらにせよ、今一度はっきりさせておくべきですわね」
 ライラが微笑み武器をみせつければ、ゴブリンの喚く醜い声が響き渡ったのだ。

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