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舞い散る色を集めたら

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舞い散る色を集めたら
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秋のひとひら、思いを込めて


「ちはやさま、みてみてー! ぴっかぴかのどんぐり!」
 無月 夜がえへんと胸を張り、遠近 千羽矢の目の前にどんぐりを掲げた。
 成程ぴかぴかのつやつや……と千羽矢が感心していると、夜はそれを片腕に下げた籠に放り込む。中身は木の実や草の実、落ち葉など夜の「たからもの」で溢れそうだ。夜はそこから新たなどんぐりを小さな指でつまみ上げては得意そうに見せていく。
「これはまるいの、これはぼうしがくるんとまるまってるの、これはほそながいの!」
「ん……本当だ。……綺麗だな。こっちは?」
「これはねー……」
 夜がそれぞれがいかにすごい宝物なのか語っている様子を、千羽矢は保護者として微笑ましく見守る。
 今日がピクニックにおあつらえ向きの天気で良かった。
 色づいた葉は夏より大分落ち着いた陽の光と空の青のせいか、輪郭をくっきりと際立たせている。風がそよぎ落ちるそのひとひらひとひらを掴もうと、千羽矢の頭の横で猫の手が伸びた。落ち葉は弾かれては舞い、起こった風にひらりと方向を変えて舞い、落ちては地面に溶け込む。地面は絨毯のようにふかふかの落ち葉に覆われている。
「……」
 勢い余って肩の上で傾く浅緋(ニャーゴイル)のお腹を片手で押さえながら、千羽矢は夜の籠がそろそろ溢れそうになっていると指摘した。
「これくらいあれば充分じゃないか」
「うん……じゃあこれからあたしゲージュツやさんね! ちはやさまがおきゃくさまね!」
「芸術屋さん……? ……とは、一体」
 浅緋の両前脚を指で構ってバランスを取らせながら、彼は器用に訊ねた。
 が、こういうときの子どもが得てして「そう」であるように、夜は説明せずに自分の世界を繰り広げた。
 タタタと駆けていって焚き火前のテーブルに陣取ると、ハンカチを広げて呼び込みを始める。
「いらっしゃいませーっ! きょーはなにいろがいーですか!」
 ああ、と保護者は瞬時に彼女の考えていることが何かを察した。ここに来てからの夜の会話の断片をつなぎ合わせるに、こういうことらしい。
 草木染めをする、と。
 テーブルには材料やボウル、トングが既に用意されていたが、持ち込みも歓迎だという。空いた場所に夜が籠の中身を広げていくと、このままでもお店を開けそうな鮮やかさだ。
「一緒に草木染めをしますか?」
 焚き火に何種類かの鍋をかけていた琴理が振り返って夜に微笑む。いつの間にか彼女はたすき掛けをしていた。
「はい! ……ちはやさま、なにいろがいーですか?」
「え、と……じゃあ、赤」
 再度問われて彼が答えると、夜はぴしっと手を挙げる。
「かしこまりました!」
「それじゃあ一緒に煮ていきましょうか」
 琴理が用意した材料は、色々な葉っぱや枝の他、食品である玉ねぎの皮やコーヒー、紅茶のだしがら。それで見本を先に見せながら、
「草木染めは植物の花や実、葉に枝に根っこまでどれも使用できます……見たままの色とは限りませんが」
「このあかいねっこは?」
「ええ、茜ですね。ちゃんと素敵な赤い色に染まりますよ。ここに集めた葉っぱや実を入れて……」
 琴理は声をかけ、手順を簡単に説明した。
 まず、材料をお湯で煮て色を出し、漉して染料液を作る。次に布を浸して染める。最後に水洗いをして余計な染料を落として干す。
 布を染める前後に媒染剤を使うと、しっかりと色がついたり、反応して色が変わったりする。
「ぎゅうにゅうもあるよ?」
「牛乳や豆乳に浸してから染めると、よく染まるんですよ。料理みたいですね」
 琴理に至ってはコーヒーと紅茶で染めているので、端から見るとカフェオレやミルクティーを作っているようにも見える。
 ふんふんと話を聞いていた夜は、染料液を作るために籠から赤いものを取り出して鍋にぽいぽいと入れていき――途中で、ぱし、と伸びてきた指に軽く抑えられた。
「えーっ、なんでー!?」
 真っ赤な傘のキノコを挟まれて頬を膨らませる夜を、千羽矢が咎める。
「……なんでじゃない。これは、どう見ても毒がある色だ。……没収」
 ぽい、と手持ちの袋に放り込む。
「んむー……せっかくひろったのにー……」
「……ほら。膨れてないで、次だ。……他には、何を入れたいんだ?」
「おちば! おちばのいろがついたらきれいだとおもう!」
「……それならいいんじゃないか。ほら、火が危ないから一歩下がれ」
 まだ鍋はあるので色々試してみてください、と琴理に勧められ、彼女は集めた実や花を実験のように煮出していった。

 自分の分の布を染め終わった頃、気配を感じて琴理は振り返る。
 そこには、秋爽の観葉(ロリータドレス)をどこか和っぽく着こなした“ハイカラさん”が佇んでいた。
 目が合えば“令嬢の嗜み”に相応しいカーテシーを披露したのは、風華・S・エルデノヴァだ。ふわりと広がるレースとリボン、布地の深い色味がシックなクラシックロリータは、彼女の長い黒髪と相まって雰囲気がある。
「突然のお声かけ恐縮です。落ち着いた和装と品の良い佇まいに目を惹かれ……」
 風華は礼を尽くして、素直に琴理の着物姿に目を惹かれたことを伝えた。
 木肌に溶け込むような茶色い着物と、半幅帯に施された紅葉の刺繍。動くと舞い散るようにも見える。秋の林に溶け込むような風情だ。
 ちなみにキャンプ用にと用意したので素材は木綿。決して高級品ではないし――あくまでも百合園基準であり、一般的にはお出かけ着と言って良い質の良いものだが――帯も、半幅とカジュアルだが手は込んでいる。普段着の範囲のお洒落としては、琴理も意識してきた。
 琴理は褒められたことを素直に喜んだが、一方でたすき掛けの姿を恥じらうように目で示した。
「恐縮です。そのように仰っていただけると嬉しいです。こんな姿ですが……」
「よければお茶やお食事を交え、歓談の機会をいただけるでしょうか
「そんなに畏まらないでいただければ……」
 とは言ったものの、琴理も百合園の一生徒として、あまり丁寧にするなと言ってもかえって失礼だろうかと礼を取る。
「……ちょうど一仕事終えたところです。一緒にいただきましょう。お持ちしますね」
「私がご用意します」
 風華は“エレガントティータイム”で、美味しいお茶とお菓子をトレイに出現させた。そして茶器・白珠夜香(高級ティーセット)一揃いでお茶を淹れて振る舞う。
「いただきます」
 琴理は折りたたみの椅子を風華に勧めてから、向かい合って座った。
 香りの良い紅茶と質の良い茶器に美味しいお菓子。丁寧な風華のサービング。野外であることをつい忘れてしまいそうな上品な空気が流れる。
 まずはお知り合いにということで、琴理は簡単に自己紹介をした。それによれば、彼女は百合園女学院ではどこにでもいるような普通の生徒だという。日本に訪れたパートナーに偶然出会い、ここに来た。
 ……つまり、三千界を渡る人ではないらしい。
「お茶をもう一杯いかがですか?」
「ありがとうございます。……そうでした、そろそろ出来上がる頃なのでお持ちしましょう」
 琴理はアルミホイルの包みを持って戻ってくる。
 アルミホイルを剥くと焼き芋と焼き林檎だった。林檎の皮は弾けて果汁が染み出て、林檎の中に詰めたバターとシナモンと一緒に、ホイルの底に溜まって溶け合っている。そこにビスケットを添えると、屋外には充分ティータイムのご馳走になる。
 二つに割ったサツマイモの、紫色の皮の内側は黄金色。そのままでも充分甘くねっとりとしていて、スイートポテトを食べているようだ。
 食事を終えた後、風華はしっかりした裁縫セットで刺繍を布に施した。今日の色鮮やかな紅葉を縫い取ったものだ。
「では、またお会いできることを願って」
 風華がそれを渡せば、琴理は側の枝に干してあったハンカチが乾いているか指先で確かめ、折り畳んでお返しに差し出した。
「頂いているばかりでは申し訳ないので……」
 自然から貰った秋の色は、景色によく馴染むと風華は思った。
「ちはやさまみたいなきれーなあかだね!」
 側では夜が、風にそよぐ自分のハンカチを見ながら焼き芋を頬張っている。先に牛乳で描いたところが濃く染まって可愛い模様になっている。
「……そうか」
 千羽矢がひとくち、熱々の焼き芋を頬張る。そのうちに、いつの間にか夜は食べ終えていて、二人が草木染めをした服を着ている絵をクレヨンでぐいぐい描いている。
 アキアカネがついっと、湖の上を飛んでいった。




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