「あぁ、楽しかった!」
晴天に恵まれた体育祭も、3日目の閉会式を終えた。
第一グラウンドに集まっていた生徒達が、いろいろな感情を抱えてばらけていく。
そのなかに、《蒼空学園のアイドル》こと
小鳥遊 美羽もいた。
「今年は3日も体育祭に参加できたから、すっごく楽しかったね♪」
その場でくるくるーっと、元気よくピョンと飛び跳ねる。
そして勢いのままに、同じクラスの生徒達にぎゅーっと抱きついた。
そうこうしているうちに、後片付けの手順がアナウンスされる。
「よーっし!
みんなでやれば早く終わるよね!」
3日間の片付けをおこなうため、その量は膨大だ。
しかし生徒達の人数もそれなりのため、要領さえ間違わなければ難しくもない。
美羽達は、クラス対抗競技の後片付け担当となった。
手分けして道具を運んでいるうちに、自然と体育祭の想い出話に花が咲く。
「みーちゃんは、どの種目が楽しかった?」
「えっと……いろんな競技が面白かったけど、私が一番楽しかったのは、やっぱりクラス対抗の≪大玉転がし≫かなぁ」
と、美羽は校舎の3階あたりまである大玉を見上げた。
「直径10メートルの大玉をクラスのみんなで転がすのは、すごい迫力だったよね!」
「確かに!」
「ちょっと怖かったもんね、転がすの」
「コースを外れないか、応援も冷や冷やでしたわ」
楽しそうな笑顔で振り返るクラスメイトも、頷きながら美羽の言葉に応える。
「さってと……その大玉も倉庫に片付けないと」
「にゃー、さっきのリベンジにゃん!」
「うちも転がしてみたーい!」
「あ、みんな手伝ってくれるの?
ありがとっ!」
「これを独りではたいへんだかんね」
「じゃあ、力を合わせていくよ。
せぇの……よいしょっと!」
美羽のかけ声を合図に、再度、大玉転がしを始める生徒達。
合計10個の大玉を、グラウンドの端にある倉庫まで転がしていくのだった。
*
「後片付けを終わらせるまでが体育祭……ですよね」
アナウンスによる分担を把握し、
ベアトリーチェ・アイブリンガーが微笑んだ。
《乙女座の十二星華》を冠する彼女は、温和で真面目なメガネっ娘である。
「楽しかった体育祭も、あとは後片付けだけですね。
皆さん、頑張りましょう」
ベアトリーチェ達の担当は、≪借り物競争≫の借り物の返却だ。
クラスメイトと一緒に、第一体育館へと移動する。
「弾入れとか盛りあがったよねー」
「そうだな、あれは飛空部隊の見せ場だったな!」
「ベアトリーチェはどうやったん?」
「あ、私が楽しかった競技ですか?
そうですね……」
問われたベアトリーチェの脳裏に、3日間の競技の記憶が流れるが。
「先ほど終わったばかりの≪借り物競争≫は、とても楽しかったですよ」
やはり、いましがたの体験は強い。
「封筒から出した用紙を見て、なによりもまず運び方を悩みました」
「やけん【擬似熾天使化】で身体能力を向上させたんやね」
それにしても……と、ベアトリーチェは感心する。
「光条兵器、イコン、大型飛空艇、ドラゴン……皆さんも、よく借りてこられましたよね」
示された借り物は、この世界ならでは、といったものばかり。
「ちょっと大変そうですけど……一つずつお返ししていけば、ちゃんと終わりますよ」
がらっと、体育館の扉を開けた。
「あぁよかった、貴方達でしたら安心して任せられます。
此方が返却先の一覧ですから、頼みましたよ」
「承知いたしました」
教員から、一覧を受けとったベアトリーチェ。
ところ狭しと並ぶ借り物ひとつひとつに、返却先を確認しながら担当者を決めていく。
「では、お借りした物を返してきましょう」
入口に近い借り物から、順番に外へ。
クラスメイト達を見送って、最後にベアトリーチェも体育館を出る。
返却物は、体育祭前の授業で眺めた、シャンバラ地方を示す掛図であった。