第五章 →傷のある男→
傷のある男は走って、走って、走り続ける。
あと数分でも足止めされたらヤバい。そう言った様子で。
しかし彼の思いもむなしく、
星川 潤也によって足止めされてしまう。
「うおっ!?」
足を引っ掛けられ、思いっきり転んだ拍子に棒状の何かをまたしても落とす傷のある男。
自分の怪我よりもそちらを拾わなくては、ともがいているところで潤也がそれを拾っていた。
「ふ~ん……? なんだい、これ」
「な、何って、ペンだよ。普通のペン」
傷のある男の言葉を信用せずに、潤也はペンらしきものを見つめて、触ってみる。
……確かに、普通のペンだ。いくつものペン先があり、紙にしっかりと文字も書ける。
だが、なんだろう。違和感が拭えない。普通のペンであるのは間違いないのだが……。
「なあ、これを何に使うつもりだったんだ?」
「ペンの使い道に何があるってんだよ! 返せよ、もう時間がないんだからよ!!」
傷のある男が必死で手を伸ばし、潤也からペンを強引に取り返した。
そのまま走り去った彼は潤也の目を欺きながら、港町を走って何処かへ消える。
「……なんでだろう」
何故だかわからないが、このペンを彼に持たせたままなのは危険だと感じていた。
ただ、何故なのかはわからない。
――情報が足りない。圧倒的に。
何故この男は、このペンを大事に抱えていたのか。
何故、ペンを持たせたままだと危険だと思ったのか。
港町で集める情報だけでは、何もかもが足りないようだ。