【吾者不忘 無間苦思念者】
〝いつもの場所〟で、ふたり。
草薙 大和は
草薙 コロナと月を見る。
里山を登り始めたのは、夕暮れ前のコト。
ここ何年かで通い慣れた道とはいえ、暗くなってからとその前とでは登りやすさが違うなと感じながら、山道を登る。
そうして、短い登山の末辿り着いた頂上に設えられた展望台から、空を眺める。
眼下に広がる山桜の大樹から、遠く、小さく見える京の町並み。
西の空に沈みゆく夕陽。
茜に燃える西の空と、夜の闇が深くなってゆく東の空。
日が落ちるにつれ、急に大気は冷たさを増していく。
展望台に腰を下ろし、大和はコロナを背中から包み込むようにして抱き締めた。
「綺麗な夕焼けですねー」
コロナは大和の腕の中でもたれかかるように身を委ねつつ、夕焼けの鮮やかさに感嘆の声を上げる。
「まるでコロナの髪色みたいだな」
燃えるようなオレンジ色の空に、コロナの髪の色を混ぜるようにサラサラと撫でながら、大和は耳元で囁いた。
「日が沈んだ後の空は、大和さんの髪色ですね」
髪を撫でる大和の指先の心地良さに目を細めながら、コロナはそう返した。
虫の声が、どこからか聞こえてくる。
昼はまだ暑さが残っているのに、ちゃんと季節は巡っているのだなと、思った。
見上げる空も、秋の星空へ移りゆく。
まだ見えぬ星も、もう半時もすれば降るようにこの空に満ちるだろう。
「なんだか、わたしが大和さんの色に染められていっているみたいです」
少しずつ少しずつ。
夜になってゆく空を眺めながら、コロナは思わず言葉にしてしまう。
抱き締められる腕が、強くなる。
「なら、朝は僕がコロナの色に染められる番だな」
そう返されて、コロナは大和を振り返る。
目と目が合って、そのまま笑顔を交わす。
互いに触れている身体から、そこから伝わる言葉にならない気持ちが心を温める。
「これからも、わたしを大和さんの色に染めてくださいね」
ぬくもりにうっとりと夢見心地になりながら、コロナはそうねだった。
そんな小さな願いに、愛しくて、ただただ愛おしくて、大和は抱きしめる腕の力を強くする。
茜の色が、藍に追われて西の空へと沈む。
藍は色を深くし、濃紺へと変化する。
深藍の空の。
その果ての。
東の果てから、今、月が昇る。
満ちた月の昇りゆく空を、ふたりは見つめる。
月の光は柔らかに降り注ぎ、影を強くする。
言葉もなく。
ただ、ひたと二つの身を寄せ合ったまま。
——同じ月を、眺める。