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つき の ながめ

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つき の ながめ
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 背後からひしひしと感じる視線を撒いて、待ち合わせ場所へと急ぐ。視線の主は恐らく自分のことを「少年」と呼ぶ師匠だろうが、そんなことには構っていられないほどの大事な用件があるのだ。
 水谷 大和が浮かれているのは仕方がない。何せ愛する妻(水谷 梅雨)との、念願のお月見デートなのだから。
「大和!」
 梅雨が手を振る。
 それに大和が振り返すと、事情を察したのか後ろをついてきていた気配が消えた。どう考えてもパートナーの誰かが自分の財布をあてにして飲み食いしようと尾行していたのだろうが、今回ばかりは空気を読んだらしい。というか、いつもこのくらい読んでほしい!
「珍しいな。着物、似合ってる」
 京というシチュエーションということもあり、梅雨はとっておきの着物を着込んでいる。それを大和に誉められ、梅雨はドキドキしながら着物のあちこちを引っ張って着崩れがないかを確かめた。
 だって久し振りなのだ。梅雨が大和とこうしてデートなんてするのは。だから思いっきり楽しまなきゃと思うし、お洒落だってする。
「着慣れないけど、おかしくないかな……?」
「いや? 大丈夫だ」
 大和のひと言に、梅雨はほっとした様子を見せた。
「じゃあ、行こうか。予約は入れてあるから」
「うん。前に話に聞いて、すっごく楽しみだったんだ!」
 酒も料理も厳選された店を見つけ、大和ひとりで月見を楽しもうとしていたのに呼んでもいないツレたちに呑み尽くされ食い散らかされた、苦い記憶。
 だが、今夜でその記憶は幸せなものに塗り替えられるのだ。それも、夫婦デートという名のそれにである。
 大和は心の裡で滂沱の涙を流しながら、この幸せに感謝した。何なら今なら例の激辛麻婆豆腐だって容易く食べられる気がす……いや、アレは無理だな、うん。
 とにかく、今夜は良いお月見になりそうだ。そんなことを考えながら、着物に少しぎこちない梅雨を、大和はスマートにエスコートする。

「おこしやす。こちらへどうぞ」
 落ち着いた感じの店に入ると、予約されていた席へと案内される。
 月が見える、特等席だ。
 料理も予め頼んであったらしく、酒と軽い前菜から運ばれてきた。
「どうぞ、旦那さま」
 梅雨は酒の徳利をさっと手にすると、にっこり笑って大和に勧めた。
「頂こう」
 お酌なんかは得意な方じゃない梅雨が徳利を献げるのに一瞬戸惑いを見せたが、大和は礼を述べつつ盃を差し出した。
 ゆっくりと、酒が器に満たされる。
 それと同時に、心も満たされていくようだ。
「……美味い」
 注がれた酒をひと息に飲む。沁みる。仲間に振り回されるのも、これはこれで……と思うようにすらなっていたが、やはりコレが一番だ。
 返杯……とばかりに大和は梅雨の盃に酒を満たした。
「うん、美味しいね!」
 ちょっとだけ高級なお店の、心尽くしの手を掛けた料理に舌鼓を打ちながら、二人は月を眺めた。
 ゆっくりと酒を楽しみ、月を眺め、料理を味わう。
 有り体な二人の、ほんのちょっとだけ、特別な夜。

 ——ああ、幸せだ。

(月明りに照らされた大和の横顔ってやっぱり素敵だな)
 梅雨は並んで月を見上げながら、そう思った。
 ……そうだ、今なら言えるかな?

「月が綺麗ですね」

 他に誰もいない、ふたりだけ。
 だからそっと、梅雨は大和の頬に唇を押しつけた後、そう囁いた。
 その意味が通じないわけはない。
 酒精のためだけではなく紅潮させながら、大和は梅雨の手をぎゅっと握り締めて、幸せと照れ臭さがぐちゃぐちゃに混ざり切ったような笑顔を見せた。

 月に、祈る。

 ——いつまでも一緒に過ごせますように。——
 ——何年経っても、ずっとこうして大和と季節を感じていられますように、
 この幸せがいつまでも続きますように……——

 
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