大路に月の光が落ちる。
ノーラ・レツェルは
迫水 晶とお月見の夜を楽しんでいた。
京の大路をくるりとウィンドーショッピングよろしく素見すと、雑貨を始め少しばかりの衣類も取り扱う小間物屋というか万屋といった風の店に入る。
雑多な品揃えにエンターテインメント性を感じ入ってみたのだが、老舗然とした他の店とは一線を画した、何というかポップな感じの品物が目立った。
「お互いに似合いそうなものを選ぶ……か」
ノーラは呟きながら装飾品の並ぶ台の上を眺めた。
(月を見て物思いに耽ったり、歌詞を考えたりと色々してたけど、服装を意識したこと無かったなぁ)
こういう視点はプロデューサーである晶ならではなのだろうなと思いながら、そっとベルトに使えそうな帯を手にする。
(細身のパンツのイメージがあるから、それに合わせるには……シャツにニットベストかな)
普段の晶のコーディネートを思い浮かべながら、ノーラは置いてある服に目をやった。
大和世界の衣類というだけあって袴や小袖が主流で、馴染みのある洋装などは全くと言っていいほど見当たらない。強いていうなら今よりももっと古い時代の着物をアレンジした、身体に沿うような動きやすさを重視したものが、ごく僅かにあった。
袴……というかタイトなスラックスに近い形のものにセットアップの上着は身ごろが長めで前合わせは着物に近い形で深く襟も高め。けれど美しく身体の形に沿うデザインのそれに、小物を合わせるのは楽しそうだ。ベストに近い背子
(はいし)も、元は女性用の衣類だが男女問わず着用できるようにアレンジされている。だが、今回は必要なさそうだ。
一方の晶も、ノーラに似合いそうな小物を手に悩んでいた。
(ノーラといえば月のイメージだ。…そうだな、月の満ち欠けをモチーフにして月のような様々な形で受け止めてくれるような優しさを表せるようなコーディネートにしよう)
方向性が決まれば、行動は速かった。
美しい薄衣を幾重にも重ねた表着に、羽衣のように軽い比礼。彼女の動きに合わせてふわりと舞う様を想像する。それに月をモチーフにした簪を差せば、きらきらと輝きを増すだろう。
互いに【月晶宮の審美眼】を使い、似合う服を贈り合う。
それらを身につけ、街へ繰り出す。
濃色の晶と光を纏う明るい色のノーラ。
対になるような二人は、踊るような足取りで大路を歩く。
さあ、お月見はここからだ。
「ほら、お月見泥棒の声が聞こえる」
「元気そうでなによりだねぇ」
「盛り上がっているようだな」
「この平和な風景を守るためにアイドルとして頑張らなきゃ」
——新たな決意を胸に今年の月を見よう。
あなたの隣で見る月はきっと更に輝くから——