「あぁ、綺麗ですねぇ……」
若松 静流はうっとりと月を眺めながら、月見団子を口に運んだ。
大路に面した茶屋で、ひとり月や道行く人を眺めたりしながら、幸福を噛み締める。
(この前に京でお月見をした時は、お寺の柱に括り付けられてのお月見でしたからね)
何時ぞやの弟分の初デートにこっそりついていった際の、ほろ苦い……ってどころじゃない記憶を掘り起こしながら、静流は小さく身震いする。
もうあんな事は二度とごめんなのです!
一人心配な子(大好きな師匠を全力で追いかける鋼のハート持ち)がいるものの、今回はお節介はやめておこうと心に固く誓う静流である。
また一つ、月見団子を口にする。
甘すぎない餡が、疲れを癒してくれるようだ。
あ、あれは『お月見泥棒』かな? あっちは親子に友達同士だろうな。
それから、それから。
——あれは、きっと、『恋人同士』だ。
月の光に照らされた大路を眺めながら、強く映し出される影の短くなっていく様で、時間の流れを知る。
「ほんとうに綺麗ですねぇ……」
軒端の月を眺めながら、誰にも気づかれないように小さく溜め息を吐く。
(私もいつかまた、誰かと並んで月を見る日が来るのでしょうか)
穏やかさの中に一抹の『淋しさ』を抱えて、静かな時間を過ごしていた。