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つき の ながめ

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つき の ながめ
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 茶屋で月見をしよう——。
 そうだ、初めましての同士でも、気兼ねなく過ごせるように、街中の……そうだ、屋外席がいい。

 虫の音が聞こえる。
 栗鍵 鈴はドキドキしながら大路を歩く。
 鈴はチャカギなので、虫の音は懐かしさを覚えて、はじめての世界にもどこか安心できた。
 街をよく知っている織羽・カルスバルター・アイゼンベルトに任せておけば、迷子になる心配もない。
「むくしゃん、遊ぶならつき合うでちよ?」
 街中のあちこちで聞こえる『お月見泥棒』の声が気になるのか、きょろきょろと視線を彷徨わせている藍屋 むくを、鈴は見上げた。
「ううん、むく、13歳なんだ。だからお月見泥棒は、ね」
 むくの言葉にハッとして、慌てて鈴は謝った。
「あ、13歳……ごめん、でち」
 大人の扱いになる年齢を過ぎているむくは、ありがとうの気持ちを込めて【よしよし】と鈴を撫でた。そんな二人のすぐ近くを『お月見泥棒』が駆けて行く。それをちょっぴり羨ましそうに見送った。
 そうして、織羽とバルターの後を二人並んでついて行く。
 大路の様子を見ながら店を探す織羽と、時折小さく振り返りながら後ろを歩くむくと鈴がはぐれたりしないように気を配るバルター。
(見守り係でち)
 織羽の猫のステラとバルターのペンギンのスティーリア、それにむく連れている犬のウェスペルを見守りながら、鈴は歩いている。それにバルターは気づいて、なかなか頼りになるなと思った。
 お月見の夜の大路は、それなりの人出である。動物たちの目線に近い鈴は、人波に流されないように見張るのに丁度良いのだ。
「あのお店にしよっか?」
 バルターと軽く話をしてまとまったのか、織羽はむくと鈴を振り返ると、指差しながら言った。
 動物を連れているため、屋外に席を設けてある店を探していたようだ。
 ちょうどテーブルが一つ空いている様なので、店の人に声を掛け確認をとってから席に着いた。
「お月見なのでやっぱりお団子食べたいよね!」
 夏は、夜。月のころは更なり。とは言われるが、中秋の名月をこそだとも思う。
 花より団子。だが、月見て食べる団子には、祈りが込められている。
「そうだな、団子くらいは食べないと月見の雰囲気は味わえないしな」
「お団子、食べたいです!」
 織羽の提案に、バルター、むくは賛同の声を上げ、鈴はコクコクと首肯いた。
 バルターは人数分の月見団子と茶の他に果物や菓子をいくつか注文すると、鈴に目をやる。動物たちがどこかへ行ってしまわないようにと、なるべく傍らにいるつもりの様だ。
 ざわざわと、常とは違う喧噪に紛れて、虫の声がする。
 しばらくして、注文の品が運ばれてきた。
「わぁ、美味しそう〜!」
「いただきます!」
 素朴な味わいの月見団子を食べながら、月を見る。
 菓子も月見の供物になるような秋の味覚をふんだんに取り入れたもので、どこかホッとする味だ。
「ほら、慌てるな」
 団子に興味を示したスティーリアに、バルターは食べやすく切ってやる。織羽もステラに団子や菓子を分けているのを見て、ウェスペルも食べたいかと考え、いくつか食べやすい大きさのを側に置いてやった。
「それでね、『もちふわアンバサダー』になれて、すごくうれしかったの。応援ありがと」
「うん、良かったね! むくちゃんが一生懸命だったから、わたしもすごく嬉しいよ!」
 むくが、『もちふわアンバサダー』になるという夢を叶えたことを報告し、それを聞いた織羽は我が事の様に喜んだ。
「がんばったね」
 そっと、労いながらむくの頭を撫でた。
 織羽に撫でられて嬉しそうにしていたむくの顔が、急に曇る。
「どうしたの?」
「うん……、あのね、つくった【曲:もちふわおうた】いっしょにうたってくれた、すてきなおねえさんがいて」
 訥々と、むくが織羽に密かな悩みを打ち明ける。

 ——やさしいお歌に、おねえちゃんも尊敬のお友達で
 最近、おかお、ずっとうかんで……おむねの中も、マーブリングさん
 おもいでと、次に会うときって、ぽかぽかと
 また会えるかなって、こわいのと——

「むく、変かな…?」

 不安に揺れる表情に、織羽は安心させるように微笑んだ。
「その気持ち、素直にその人にお話してみるといいよ」
「素直に……?」
「そう。一緒に歌ってくれたことが大切な思い出だってことと、ずっと会いたかったってことと。それって、とても素敵な気持ちだから」
 むくは、胸に手を押し当てた。
「ありがとなの」
 ここにある気持ちをがんばって伝えてみると、そう決めて織羽にぺこりと頭を下げた。
 りりり……と、鈴が『Lucky Bell』を鳴らす音が聞こえる。
 話の邪魔をしないように、虫の音に合わせて鳴らすベルに、耳を傾ける。
(空気と風に溶け込むように
 夜空と月光に堪えるように
 小さな音色、届けるでちよ)

 ——お話しやすく、願って。

 バルターも動物たちも、静かな虫たちの演奏に聴き入っていた。
「良い月夜だな」
 静かな音色に包まれながら、月の光を浴びて。
 賑やかな宴とは違う、穏やかな時間が流れていく。
 ふっと口元に笑みを浮かべながらバルターは言う。
「満月の下で一つの秋の思い出ができた」
 鈴が、弾かれたように顔を上げて皆を見た。

「一緒のお出かけ、思い出、ありがとでち!」

 笑顔が溢れているのを見て堪らなくなって、鈴は言った。
 きっと、言葉にしなくても伝わっているのだろうけれど、だからこそ忘れないで言わなきゃいけないこと。
 一緒に作った思い出は、いつまでもいつまでも、心を暖めてくれるのだから。

 鈴は、幸せな気持ちになって、またベルを鳴らした。

 
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