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つき の ながめ

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つき の ながめ
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 二度目の結婚式に、二度目の新婚旅行。
 何かあった、というわけでなく、ホライゾン市民としての一区切りにと挙げた式に伴う新婚旅行。
 互いの指に嵌められている二つの『結婚指輪』に、ただ幸せを感じる。

 藍屋 あみか藍屋 華恋は、京郊外にある温泉宿に来ていた。
 お月見、と言ったら温泉でお酒……である。
 あみかが用意したのは、お月見団子と日本酒。
 蝶豆(バタフライピー)を加えてその美しい紫がかった青色に染められた酒は、口当たりが良く度数も低めで飲み易い。

 藍色の空に、昇る月。

 二人並んで月を眺める。
 互いの盃に注ぎ合い、じっくりと味わう。酔い潰れてしまわぬように、飲みすぎないよう、ゆっくりと。
 静かな、夜。
 街中とは違い、お月見泥棒の声も聞こえない。
 青い月の光に照らされて、この部屋に二人きり、だ。

「あみかちゃん……?」

 長い沈黙に華恋があみかを振り向くと、彼女は声もなくぽろぽろと涙をこぼしている。
 静かに涙を流し続けるあみかに、華恋は戸惑った。
「泣き上戸姿、華恋さんには意外でしたか?」
 ぽろり、と、光を纏い、雫が落ちる。
 ほかの人の前で、泣いた記憶はないですが、と、あみかは少しだけ困ったように眉根を寄せて見せた。
 こんなことも、一年前、初めて知った。
 ぽつりぽつりと、あみかは悩みを吐露する。
 小さな嵐のような、そんな胸の裡を打ち明けるのは、ひとり。
 ただひとりにだけ、見せる姿に。

 ——フェスタの「アイドル」は能力者
 世界の危機対処も大きな役割です
 当然、私もその能力あってできたことがあり…
 素敵な出会いや関係への感謝もあって

 一年前、初志を持ち続けたいお話は
 芸能活動と「アイドル」が一致しえない怖さ、辛さって気づきました
 華恋さんが言い辛かった事のように……——

「……なるほど。辛かったですね。お話してくれてありがとうございます」

 華恋はそっと手を、あみかのそれに重ねた。
 あみかは、重ねられた手と手に、滲む視線を落とす。
「上手く、言えないですが…少し、あみかちゃん聞いてくれます?」
 青く照らされた華恋の、その真摯なまなざしは真っ直ぐにあみかに注がれる。
「私にずっと寄り添ってくれたのも楽な出来事ではなかったと思います。
それはこの世界での大変な出来事と向き合う事と大きな違いは無いと思うんです」

 ——ただ、私が前を向けるようになったのってあみかちゃんがアイドルだったからかと言えば
 違います。——

 あみかが顔を上げる。
 華恋は、そのかんばせに柔らかな笑みを浮かべた。
「藍屋あみかというその人間の心、その人自身に救われたんです。
 “アイドルだったから”ではありません。“その人の存在”で救ってもらったんです」
 深く深く、どこまでも深いその想いに、救われたのだ。
「こういう言い方が良いのかどうか分かりませんが……」
 囁くように、けれど、強い意志の感じられる声で、華恋は告げた。

 ——私はアイドルということにこだわらなくて良いんじゃないかなって……。
 藍屋あみかという自分自身を大切にして欲しいって思います。——

 だからどうか、見失わないで。
「少なくとも私はあみかちゃんをアイドルとしてではなく、あみかちゃんそのものを大事に想っています」
 言いながら、ちょっぴり恥ずかしそうに華恋は頬を染めた。
(……なんて、ずっと救われていた私が偉そうな事を言えませんね)

「やっぱり、お姉さんなところ、かわってないです」
 一番聞きたかった言葉を、くれる。
 あみかのちょっとだけ子供の頃に戻ったような泣き笑いに、華恋は両腕で抱きしめる。

 互いの温もりに包まれて、二人はいつしか微睡に落ちていった。

 
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