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つき の ながめ

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つき の ながめ
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 「やったことのないお月見がしたいな」。
 そんな可愛らしいお願いを嫁からされたら、是が非でも叶えなければならぬ。
 行坂 貫は使命感に燃えていた。
 それが行坂 詩歌への愛の証となるのだ!

 旅館に泊まったりしたことはあったけど、キャンプしてお月見がしたいな〜という詩歌のリクエストにお応えして、郊外にある野原へ。
 京の町は賑やかで活気に溢れているが、街の外へ出ると牧歌的な風景に様変わりする。
 貫は【土地鑑(大和)】を駆使し、火を使っても問題ないキャンプが可能な場所を選定する。
 一方、詩歌も人に尋ねたりして「ここが良さそう!」という処を調べたりしていた。
 特にスキルを持っているわけではないが、笑顔を湛えて相手を慮りながら会話をする詩歌は、天真爛漫な心持ちも反映されて、いろいろと親切に教えてもらえたようだ。
「なんか小さい川が流れている近くに、原っぱがあるみたいだよ!」
 ざっくりとした場所だが、貫の土地鑑で得た情報と照合すれば特定できそうだ。
 キャンプ道具の用意などは貫がしてくれているので、詩歌は何か役に立てそうなことをと考えていた。その結果が出て、嬉しそうにしている。
「詩歌、ありがとう。現地の人の話なら確実だからな」
 感動のあまり、ぎゅうっと抱き締めたい思いをグッとこらえ、貫は詩歌の頭を撫でた。
(口コミも馬鹿にできないからな。さすが俺の嫁)
 こんな愛らしい笑顔で話しかけられたら何でも包み隠さず話してしまうに決まっているだろう何たって俺の嫁は女神だからな神の前では嘘などつけぬものなのだぞ、などと貫の頭の中では大変忙しい思考が飛び交っていた。
 そんな貫の様子を見て、詩歌は(なんかよくわからないけど貫が楽しそうでよかったなぁ)と頭を撫でられながら気持ちよさそうに目を細めた。
 ふたりの周りに花畑が広がっている様に見えるのは気のせいである。秋なので。
 兎にも角にも、貫は詩歌の得た情報も加味して、キャンプ地を決定した。

 近くに小川も流れる、丘と里山に囲まれた小さな野原。
 水場もあるし、山といえど低いものだから月を見るのには差し支えない。山の端にかかる月を見るのもまた一興。

 貫は野原の良さげな場所に『どこでもテント』を設置すると、枯れ枝や落ち葉を集め、【木工技術】を駆使して調理に適した焚き火台を組むと【サティスファイア】の火の粉を使って着火。
「あ、お芋だ」
「焚き火っていったら焼き芋だろ?」
 『オデッサポテト』と『フェスかぼちゃ』をさつまいも代わりに灰の中に埋め込みながら、貫は言った。
 焼き芋、とは?
 まあ、馬鈴薯(ポテト)も芋であることは間違いあるまい。じゃがバターも焼き芋の一種なのだ。
「詩歌、お月見団子持ってきたよ! ちょっと焼いて食べてみたいなって前々から思ってたんだ」
「それはなかなか美味そうだな」
 団子の入った包みを詩歌は取り出す。貫は詩歌から月見団子を受け取ると、手際良く枝を串のように加工して焚き火の周りに刺していった。
 貫の【料理上手】のスキルは伊達じゃないことを証明しよう。

 陽は沈んで、夜が来る。
 ぱちぱちと火花を散らしながら、焚き火が燃える。
「えへへ、寒い外でも貫は温かいね」
 冷え始めた大気に、ススス…(((*゚.゚(゚.゚*)ピトッ♪と貫に身を寄せると、詩歌はほっこりとしながら小さく笑った。
「そうだな」
 貫は灰の中から馬鈴薯を掘り出しながら、応える。内心(うわ何この可愛さ俺萌え死ぬのかもていうかいつもクリティカル決めてくるよね俺の嫁)などと嵐のように感情が翻弄されているのだとしても、食材を扱う手は淀みない。うん、食べ頃だ。
 遠火で焦げないように焼かれた団子と共に、寄り添って食べる。
 いつの間にか、月が登っている。
 民家もない小さな野原。明かりは焚き火ひとつ。
 夜空に広がる満天の星と、満月。

「詩歌が一緒だと温かいし月は綺麗だし飯も美味いな」

 少しだけ、自分らしさ入れて、貫は詩歌に愛を伝える。
 有名な訳し方だし、実際のところ月は綺麗なのだ。
 一瞬きょとんとした表情をしたものの、詩歌は直ぐに破顔する。

「うん、美味しいね。それにお月様も綺麗!」

 貫は感動していた。
 詩歌から同じように返事がもらえるなんて、思ってなかったのだ。

「……もう死んでも良いな」

 だから感動のあまり、思わずそう呟いてしまったとしても致し方ない。それが食べかけの馬鈴薯を握り締めながらの台詞であったとしても。

「えっ!! 貫、死ぬの!? 死んじゃいやぁ〜〜〜!!」

 ガバッと詩歌は貫の首に両腕を巻きつけ、ぎゅっと抱き締めた。
 これは……死ぬ。(物理)
 遠のく意識の中、これはこれで幸せなのではないかと思ってしまうほど、貫の心は満たされていた。
 タイミングと言葉の選択を間違えた。ツルゲーネフ(と二葉亭四迷)も草葉の陰で泣いている。

 その後、何とか現世に留まることに成功した貫は、やっぱり月は綺麗だ、と思った。

 
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